このたび、小さな龍神様のお世話係になりました

春の雨【3月長編】

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「そろそろお開きにするか」
「ですね」
    まん丸になったお腹を抱えて眠たそうにしているおみを見て、坂口さんと織田さんがそう言った。朝からお弁当を作って、みんなと外で遊び、マシュマロまで焼いたのだ。眠くなるのも当然だろう。
    イネとマイもまぶたを擦りながら織田さんの手伝いをしている。俺も重箱を抱え、おみを起こすことにした。
「おみ、帰るぞ」
「んみぃー……」
「ほら、しらたきだけ持ってて」
    ちびすけは、カゴの中に丸まって寝ている。おみを背中に、重箱は右手、カゴは左手に持つ。見た目よりも軽くて助かるな。
    おみは背中で半分夢の中。ぴひゅーと間抜けな寝息をたてていた。
「気をつけて帰れよ」
「はい。おやすみなさい」
「また遊びましょうね」
「よろしくお願いします」
    みんなに見送られながら家までのんびりと歩く。ぬるい夜風が頬を撫でる。桜の花びらが雪みたいに舞っていた。
    帰ったらすぐにおみを風呂に入れて、重箱を洗おう。色々とやるべき事はあるが、もう明日でいいや。さすがに俺も疲れたな。
「んみぃー……りょーた……？」
「おみ、寝てていいぞ」
「みえぇ……みんなは？」
「もう帰ったよ。また遊ぼうねってさ」
「ん」
    ぽやぽやした声が背中越しに揺れる。家までもうすぐ、と思った時、不意にこめかみがじくりと傷んだ。ズキンズキン、ひどく痛み始めた。
    この痛み、もしかして。
「みえぇ……みぇ」
「お、おみ？    どうしたんだ急に」
「みいぃぃ……わかんないけど、みぇ」
    ぽつぽつと雨が降り始める。それと一緒におみの目から涙が溢れ、俺の肩を濡らしていく。一体どうしたんだろう。
    あんなにも楽しそうにしていたのに。
「みええぇぇぇえ……りょーたぁ……」
「よしよし、大丈夫だから」
    もしかしたら、寂しくなったのかな。朝からずっと楽しかったから。夜になって、みんな居なくなったのを実感して寂しくなったのかもしれない。
    不思議だよな。楽しければ楽しいほど、その後が辛いなんて。
「また来年もお花見しような」
「しゅる、みぇ、っ、おみ、つぎは、ぐしゅっ、おしゃかなやくの」
「楽しみだな」
「うにゅー……」
    こうして、俺たちのお花見は終わった。
    おみも色々なことを経験して成長していっている。来年のお花見が今から楽しみだ。