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雪消しの雨【3月短編】

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    おみはその小さな体からは考えられないほどによく動く。晴れていれば外を走り回り、雨が降っていれば大声で泣いている。ご飯を食べたら体全部を使って「おいしい!」と表現し、気になるものがあれば走って駆け寄っていく。
    好奇心旺盛な性格もあるのだろう、とにかくおみは、よく動く。
    それは眠っている時も同じ。
「こうして大きなパンケーキが完成しました……おみ?」
「んみー……ぷひゅ……」
    今日も絵本を読み聞かせている間に眠ってしまった。気持ち良さそうに寝息を立てながら、相棒のしらたきをぎゅっと抱き締めている。どうやら楽しい夢を見ているようだ。緩んだ口元が微笑んでいた。もしかしたら今読んでいた絵本に出てきた大きなパンケーキを食べているのかな。
    約束通り絵本を最後まで読み終え、俺も眠りにつくことにする。枕元のスタンドライトを
消して、おやすみ、とおみを撫でて目を閉じた。


「いてっ」
「んみゅー……」
    眠りに落ちて数時間後、鈍い痛みで目が覚めた。初めの頃は驚いたけれど今はもう慣れている。半分寝ぼけ眼で手を伸ばすと、小さな足に触れた。
    伸びやかに両手をばんざいにして、すやすや眠っているおみの足が何故か俺の肩にぶつかっていた。一体どんな寝相なんだ。
「よいしょ、と」
「ぷひゅー……ぴひゅー……」
「今日も元気だなぁ」
    眠る前に見た時はちゃんと同じ方向に頭が向いていたはずなのに。今は見事に横を向いている。とりあえず風邪をひかないよう毛布をかけてやり、枕に頭を乗せてやる。
    よし、これで大丈夫。
    今何時だろう。眠いな、まだ寝てていいか。
    相変わらず伸び伸びと気持ち良さそうに眠るおみを見届け、再び眠ることにした。


「おみー、朝だぞー」
「んむむ、んむ……」
「これはまたすごいな」
    翌朝、隣を見ると枕におみの足が乗っていた。ぺたんと垂れた尻尾も覗いている。確か、夜中におみを真っ直ぐにしたはずだけど。あれから半回転したということか。
    これだけ元気に動き回っているから、いつも朝空腹なんだろう。それにしても本当にすごい寝相だ。
「おーみー、今日の朝ごはんは焼き魚だぞー」
「おしゃかな……」
    そう呼びかけると、こんもりと膨らんでいる毛布からうにゃうにゃした声が聞こえてきた。ねぼすけさんがようやくお目覚めのようだ。
    枕元に放り投げられたしらたきも、すでに縁側でぬくぬくしているちびすけも、みんなおみの目覚めを待っていた。
「んあー……りょーた、おはよー」
「おはよう。よく眠れたか?」
「おっきいぱんけきたべた、みんなで」
「よかったなぁ」
    まだ半分閉じた目をぱちぱちさせ、甘えるように抱きついてくる。寝癖まみれの髪を撫でながら、今日は気持ちよく晴れそうだと外を眺めた。
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