このたび、小さな龍神様のお世話係になりました

雪消しの雨【3月短編】

8

「おおー、これはすごいな」
「まー！」
    坂口さんから、カゴいっぱいに乗せられた春の贈り物が届いた。中身はここだと中々手に入らないタラの芽だ。自然の多いこの山では、タラの芽が採れにくい。
    こんなにたくさんもらってしまった。隣の食いしん坊がさっそくじゅるりとヨダレを垂らしている。
「やっぱり天ぷらかなぁ」
「ほほー」
「カラッと揚げて、塩をかけると美味しいらしい」
「おいしそー！    おみ、てんぷらすき！」
    きっと天ぷらでなくのも「すきー！」と言ってくれるだろう。本当におみは料理人を気持ちよくさせる天才だ。
    しかし、タラの芽だけだと寂しいな。他にも何かあるだろうか。さっかくだから他にも春の山菜が欲しいな。
「おみ、この辺りで山菜って採れるのか？」
「さんさい？    おみ、せんさいだよ」
「そうだな、おみは千歳だな」
    どうやら、おみは山菜を山菜と認識したことがなさそうだ。山に生えている食べられるものを本能的に見つけて食べていた、ような気がする。
    それならそれで、一緒に山へ入って食べられるもの、つまり山菜を探せばいい。この時期だとやっぱり。
「ふきのとうとか。あるといいな」
「ふきのと」
「そう。こう、緑でまん丸なやつ」
「んむむー……みたことある、とおもう」
    おお。やはり祈るべきは食欲旺盛な龍神様。おみの記憶を頼りにさっそく山菜探しに向かおう。
    背中に体と同じくらい大きなカゴを背負ったおみと二人で山奥に向かう。何だか探検みたいでわくわくするな。
「ふきのとうが採れたら、天ぷらにしような」
「わーい！   おみ、がんばってさがす！」
「よし、じゃあ行ってみるか」
「おー！」
    迷子にならないよう手を繋いで、さっそく今夜の食材を探しに向かった。