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雪消しの雨【3月短編】
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坂口さんから貰った大量の甘酒は、さっそくおみの大好物になった。朝ごはんの前に少しだけ飲み、おやつの代わりにちょっと飲み、寝る前にあっためてから飲んでいる。ほんのりとした甘さが癖になるし、栄養価も高いから安心して飲める。もちろん飲みすぎは良くないので、小さなカップに少しだけにはしているが。
そんな甘酒ライフを楽しむおみだが、一番のお気入りは甘酒で作ったココアのようだ。寝る前に「ここあつくってー!」とせがむことが増えてきた。今日もお風呂上がりに「ココアが飲みたい音頭」を歌っていた。見ていて面白いなといつも思う。
「はい。熱いから気をつけてな」
「ありがとー!」
ほかほかの甘酒ココアを吹き冷ましながら、大切に飲んでいく。俺も自分用に作ったココア(ブランデー入り)を飲みながら、今日の読み聞かせ絵本を何にするか考えていた。
寝る前に絵本を読んでやるようになってから、おみの感性が豊かになってきているような気がする。やはり絵だけではなく、耳から物語を聞くことによって理解が増しているのだろう。途中で寝てしまったとしても、次の日には自分で読もうとしていることもある。
成長しているんだな、おみも。
「んま、んまま」
「あったまるなー」
「あまざけのむと、ねむくなるね」
「分かる。ぽかぽかする」
お風呂上がりなこともあるだろうが、いつもより体が暖かい。このまま布団に入ったらきっといい夢が見られそうだ。
しかし、その前におみには大きな難関が待ち受けていた。
「のんだ!」
「よし。じゃあ歯磨きして布団に行こうか」
「はみがき……」
途端にうにゅ、と目尻が下がる。分かりやすいな。最近になってようやく泣かなくなったが、最初の頃は歯磨きと言っただけで大泣きしていた。どうやら歯磨き粉の味やブラシで磨かれる感覚が苦手だったらしい。
色々と試してようやく今は自分で磨けるようになったが、こうして眠たくなるとやっぱり愚図ってしまう。でも、歯を磨かないと虫歯になりかねないし。どうしようかな。
「はみがき、あしたじゃだめ?」
「だめ」
「みえぇ……」
「虫歯になるとお菓子もご飯も食べられないんだぞ?」
「やだあぁぁ!」
さて、一体おみはどちらを選ぶのか。
そんなのもちろん、決まっている。
「は、みがく……」
「えらいな」
「おみ、ごはんすきだから……」
食い意地の圧倒的勝利のようだ。よかった。しかし、ぺしょんと落ち込んだ尻尾を見ているとつい甘やかしたくなってしまう。
しかも眠気も強いのかフラフラしていた。そんな言い訳をしながら、おみを抱き上げて洗面所に行き、小さな歯を磨いてやった。これは五歳児というか、赤ちゃんだな。
「んみー……むにゃ……」
「おみー、ねるなー、うがいしてくれー」
「うにー……」
半分夢の中に居るおみに、なんとか口をゆすがせ、抱きかかえたまま布団へと運ぶ。成長したかと思ったら急に赤ちゃんみたいになるし、本当に不思議な龍神だ。
しかし何だか前よりも少し重たくなったような。それに以前は小脇に抱えられるくらいだったのに、今では両腕で抱っこしないと持ち上げられない。
「おみ、もしかして大きくなった?」
「みぃ……おみのわたあめ……おっきい……」
「……気のせいか」
腕の中で、すっかり夢の世界で遊び始めている。楽しそうに笑うおみを抱っこしたまま、洗面所の電気をパチリと消した。
成長して欲しいという気持ちもあるけれど、もう少し俺が抱っこできる大きさでいて欲しいなんて。そんな、矛盾したことを願ってしまっていた。
そんな甘酒ライフを楽しむおみだが、一番のお気入りは甘酒で作ったココアのようだ。寝る前に「ここあつくってー!」とせがむことが増えてきた。今日もお風呂上がりに「ココアが飲みたい音頭」を歌っていた。見ていて面白いなといつも思う。
「はい。熱いから気をつけてな」
「ありがとー!」
ほかほかの甘酒ココアを吹き冷ましながら、大切に飲んでいく。俺も自分用に作ったココア(ブランデー入り)を飲みながら、今日の読み聞かせ絵本を何にするか考えていた。
寝る前に絵本を読んでやるようになってから、おみの感性が豊かになってきているような気がする。やはり絵だけではなく、耳から物語を聞くことによって理解が増しているのだろう。途中で寝てしまったとしても、次の日には自分で読もうとしていることもある。
成長しているんだな、おみも。
「んま、んまま」
「あったまるなー」
「あまざけのむと、ねむくなるね」
「分かる。ぽかぽかする」
お風呂上がりなこともあるだろうが、いつもより体が暖かい。このまま布団に入ったらきっといい夢が見られそうだ。
しかし、その前におみには大きな難関が待ち受けていた。
「のんだ!」
「よし。じゃあ歯磨きして布団に行こうか」
「はみがき……」
途端にうにゅ、と目尻が下がる。分かりやすいな。最近になってようやく泣かなくなったが、最初の頃は歯磨きと言っただけで大泣きしていた。どうやら歯磨き粉の味やブラシで磨かれる感覚が苦手だったらしい。
色々と試してようやく今は自分で磨けるようになったが、こうして眠たくなるとやっぱり愚図ってしまう。でも、歯を磨かないと虫歯になりかねないし。どうしようかな。
「はみがき、あしたじゃだめ?」
「だめ」
「みえぇ……」
「虫歯になるとお菓子もご飯も食べられないんだぞ?」
「やだあぁぁ!」
さて、一体おみはどちらを選ぶのか。
そんなのもちろん、決まっている。
「は、みがく……」
「えらいな」
「おみ、ごはんすきだから……」
食い意地の圧倒的勝利のようだ。よかった。しかし、ぺしょんと落ち込んだ尻尾を見ているとつい甘やかしたくなってしまう。
しかも眠気も強いのかフラフラしていた。そんな言い訳をしながら、おみを抱き上げて洗面所に行き、小さな歯を磨いてやった。これは五歳児というか、赤ちゃんだな。
「んみー……むにゃ……」
「おみー、ねるなー、うがいしてくれー」
「うにー……」
半分夢の中に居るおみに、なんとか口をゆすがせ、抱きかかえたまま布団へと運ぶ。成長したかと思ったら急に赤ちゃんみたいになるし、本当に不思議な龍神だ。
しかし何だか前よりも少し重たくなったような。それに以前は小脇に抱えられるくらいだったのに、今では両腕で抱っこしないと持ち上げられない。
「おみ、もしかして大きくなった?」
「みぃ……おみのわたあめ……おっきい……」
「……気のせいか」
腕の中で、すっかり夢の世界で遊び始めている。楽しそうに笑うおみを抱っこしたまま、洗面所の電気をパチリと消した。
成長して欲しいという気持ちもあるけれど、もう少し俺が抱っこできる大きさでいて欲しいなんて。そんな、矛盾したことを願ってしまっていた。
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