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雪消しの雨【3月短編】

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    不完全ながらも、俺たちらしいひな祭りを迎えた次の日。坂口さんが一升瓶を持って我が家
を訪れた。風呂敷に包まれたその一升瓶には並々と白濁の液体が入っている。
    不思議そうな顔をした俺とおみに、坂口さんはにやりと笑った。
「飲むか、久々に」
「のむー!」
「ま、待て待て!」
    確かにおみは龍神で、お酒は水と同義だからいくらの飲んでも酔うことはない。見た目は子供だけど実際は千年以上生きているので、例え飲酒をしても罪にはならないのだけれど。
「この見た目で飲酒はコンプライアンス的にまずいです!」
「こんぷら……?」
    最近、厳しいのだ。色々と。
「心配するな、これは甘酒だよ。甘酒」
「あ、なるほど」
    一升瓶に入っていたからてっきりにごり酒かと思ってしまった。しかも飲もうとか言い出すものだから……。
    でも甘酒なら問題ない。ノンアルコールだし、栄養価も高い。そして、自分で作るにはなかなかに面倒くさい。もらえるのはとても有難いな。
「ほら、桃の節句だったろ?    すっかり忘れちまっててなァ」
「俺もです。馴染みがなかったから」
「おしゅしたべたよー!    おみがぱたぱたしたの!」
    なるほど、坂口さんも俺と同じようなことを考えていたんだな。胸の奥がまたほわりと暖かくなる。大切にされているんだなぁ、俺たちは。
「牛乳で割って、熱々にして飲むと美味いんだよなァ」
「美味しそうですね」
「おみ坊、ちゃんと牛乳飲んでおっきくなれよ」
「のむのむー」
    これだけあればしばらくは楽しめるだろう。なんたって一升瓶だ。そのまま飲んでもいいだろうし、牛乳以外のアレンジも試してみたい。
    楽しみだな。
「たのしみだねー!」
「うん。そうだな」
    偶然にも同じことを思っていたようで、おみが隣ではしゃいだ声をあげた。それがなんだかおかしくて、二人して一緒に笑った。
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