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雪消しの雨【3月短編】

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    日に日に、太陽が沈む時間が遅くなっていくことに気がついた。昼間も気温が高くなり、羽織を着ない日も増えてきたように感じる。春が近いんだなぁ。
    くあ、と欠伸をしたあと、縁側で少し休もうかと考える。今日の仕事はある程度片付いた。晩ご飯まで時間はあるし、休むのも悪くないだろう。そう思って縁側を見てみると、案の定そこには先客がいた。
「おみ、寝てなかったのか」
「りょーた!    おみ、ちびちゃとあそんでたの」
「そうか」
    背中にはいつも通り、お供のしらたき。そして両手には地域猫のちびすけがいた。雪が溶け始めてからちびすけは頻繁に我が家へと来るようになり、おみも安心したのか縁側で一緒に遊ぶのが日課になっている。
    昼間はぽかぽかなので、二人して昼寝をすることもあるが。今日は何かしらで遊んでいたようだ。
「にゃん、にゃう」
「ちびちゃーふわふわだねー」
「みゃ!」
    以前よりもずっと距離が近くなり、抱き上げたり触れることができるようになってからますますおみはちびすけと遊びたがるようになった。気まぐれなちびすけではあるが、おみの熱意に負けたのか最近はされるがままになっている。
    今日は脇腹を掴まれ、ぷらんと抱き上げられていた。猫は液体だとか、伸びるとか言うけれど。本当にその通りだ。
「ちびすけと何して遊んでいたんだ?」
「今日はねー、なぞなぞ!」
「勝った?」
「ちょっとだけ、まけちゃった」
    一体どうやって勝敗を決めているのか。俺にはさっぱり分からない。しかし二人はちゃんと理解できてるのだろう。ちびすけもなぜか得意げな顔をしてこちらを見てくる。
    ちびすけ、このままだと本当に猫又になりそうだな。
「おみ、りょーたにしてもらってうれしいこと、ちびちゃにしてるの」
「へえ、例えば?」
「なでなでとか、ぎゅーっとか」
「そっか。じゃ、俺もおみを撫でよう」
「きゃー!」
    ふわふわの髪を撫でてやると、嬉しそうに声をあげていた。おみと暮らし始めてすぐの頃はどう接したらいいか分からなかった。
    でも、俺なりに愛情を示していたことはちゃんと伝わっていたんだな。こうやって、おみは人の愛情を知る。それを教えることが俺たち室生の勤めなのだ。
「みぃ、みゃーん」
「ぴゃあああ!    ちびちゃ、ざりざり!」
「にゃーん」
「みゃあああああ!」
    ちびすけが、おみの頬をぺろりと舐めた。猫の舌はザラザラしていて痛いとは聞くが、愛情表現の一種とも聞く。おみも愛した分だけ返してもらえているんだなぁ。
    よかったよかった。
「みええぇぇぇええ!」
「みゃあああああ」
「平和だなぁ」
    こうやってまた新しい季節を迎える。春はもうすぐそこまでやって来ていた。
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