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雪時雨【2月短編】

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「ほあー!    まっしろ!」
「見事だなぁ」
    朝起きると、外は一面真っ白になっていた。それもそのはず、昨夜は「ちびちゃがきてくれない……」とおみがめそめそ泣いていたのだ。地域猫であるちびすけは自由気ままに暮らしている。おみの望むタイミングで裏庭に来てくれるとは限らないのだ。
     最近はおいちさんにもらった水のおかげで多少は近づくことが出来たみたいだけど、それでも相手は気まぐれの具現化、猫である。手ずから餌を食べてもらうのはまだ難しいだろう。
    しかしそのことが昨日は随分と悲しかったようで、お風呂に入ってもホットミルクを飲んでもずっとぐずっていた。その間墨色の空からはちらちらと雪が降り続け、朝起きたら一面銀世界になった、というわけだ。
「さむいねー」
「雪だからな」
「ゆき……ふわふわ?」
「うーん、どうだろう」
    当然ながらまだ誰も踏んでいない新雪はふわふわしているかもしれない。きんと冷えきった空気は冬の朝特有のもので、どこか清廉な気持ちになる。
    もしかしたら、食いしん坊のおみはかき氷みたいと思うのかもしれないが。
「りょーた、おみ、ゆきであそびたい!」
「いいけど、食べるなよ?」
「たべない。ゆきたべたら、おなか痛い痛いになる」
    これはかつて食べたことがあるな。そして痛い目にあったのだろう。きちんと失敗から学んでいてくれてよかった。
    それならば、と思い分厚いコートを着せ、手袋をはめて、ついでにマフラーをぐるぐるに巻いてやり外に行かせる。ここで変に何もかも禁止させるとおみの成長によくないだろう。
    俺はその間、朝ごはんでも作ろうかな。
「ご飯が出来たらすぐに帰ってくるんだぞ?」
「うぃ!」
「あと、雪をしらたきにつけないこと。濡れちゃうと大変だから」
「うぃー!」
    しっかりと背中に背負われているしらたきが「おまかせください!」と言わんばかりに目を輝かせている、気がする。まあ大丈夫か。裏庭だし。台所からすぐに駆けつけられるし。
    颯爽と雪の中を走り回るおみを見送り、俺は台所へと向かった。こんなにも寒い日はやっぱり具だくさんのお味噌汁がいいだろう。余っている玉ねぎを入れて、わかめと豆腐もあるといいかな。
    炊飯器のスイッチを入れて、炊きあがるまでの間におかずを作る。卵を焼いて、昨夜の残りである里芋の煮っころがしを温めなおそう。うん、我ながらいい献立だ。
「家庭的になったなぁ、俺も」
    かつては食べることを疎かにしていて、一日一食なんてよくあったのに。今ではバランスを考えながら三食しっかり作っている。
    人も変わろうと思えば変われるのだ。
    雪のおかげもあるのだろうか、どこか清々しい気持ちで玉ねぎを薄く切り始めた。


「りょーた!   きてー!」
「はいはい」
    そろそろおみを呼ぼうかと思っていると、反対におみから大声で呼ばれた。朝ごはんも無事に完成し、あとは居間に運ぶだけ。
    本当にいいタイミングだ。
「みて、みて!」
「ん?    どうした?」
    裏庭からおみのはしゃいだ声が聞こえてくる。上着を羽織って縁側に向かってみると。
「おみ、これ……」
「どう?    どう?」
    たくさんの雪だるまが並んでいた。眼鏡をかけているのは俺で、その隣にいる小さなものはおみだろうか。ちゃんと尻尾と角もある。
     それから帽子を被った坂口さん、南天の実で飾られた織田さん、その間にはちびすけもいる。この短時間で、しかもたった一人で。よくここまで作れたな。
「すごいな、おみ!」
「ふふーん!」
「上手だぞ」
「えへへ」
   鼻の頭を真っ赤にしたおみが得意げに笑う。髪の毛に雪が乗っていたから払ってやって、そのまま頭を撫でてやった。
    甘えるように手を伸ばしてきたから抱き上げてやり、冷たくなった頬っぺを手のひらで温める。
「ごはんたべたら、りょーたもつくろ」
「うん、そうだな」
「つぎはいーしゃんたちをつくる!」
    どうやらこの裏庭に大好きな人達でいっぱいにするつもりだ。楽しそうで何より。俺もそんなおみを見ていると自然と頬が緩んでいた。
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