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雨の海【1月長編】
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その日の夜、布団に入ったおみは画用紙を広げしらたきに昼間のことを話しながらクレヨンを握っていた。日課の絵日記は宗像に来ても忘れていない。いつもなら「みないでー!」と言われるが、今日はお許しをもらった。
というのも、明日の朝におみはみんなへ贈り物をしたいのだそうだ。
「おみ、おえかきしかできないから」
「嬉しいと思うぞ」
「そかなぁ……」
ここに来て、色々な形の「愛情」に触れた。おいちさんみたいに何処へでも連れていってくれること。たぎさんみたいに根気強く隣で教えてくれること。おきつさんみたいに大切なものを与えること。
海結さんも天海さんも同じだ。みんな、何かしらの形で俺たちに愛情をくれた。そのお返しをしたいと思うのは、やはりおみの優しさからなんだろう。
そして、みんなと違って自分には何も無いと感じるのは。きっと、ここに来なければ知ることはなかった。
「おみは何て書きたいんだ?」
「んとねー、ありがと、って書きたい」
「じゃあ一緒に書こうか」
「うぃ」
一人ずつ、丁寧に似顔絵を描いていく。描きながらしらたきに「いーしゃ、くるまびゅーだよ」とか「たぎしゃはなみにのれるんだよ」とか「おきちゅしゃはほわほわしゃん」と説明している。それを、まるでふんふん頷くようにしたきが揺れるのを見ているとなんだかこっちまでほわほわしてきた。
明日でもう山に帰る。あっという間の三日間だった。たった三日。されど三日。おみの人生に大きな影響を与えた時間だったことは間違いない。
「りょーた、おみ、おなまえ書くからみてて」
「いいよ。書いてみて」
「むん」
ここ最近、なんとか自分の名前だけは書けるようになったらしい。たどたどしい手つきでゆっくりと「おみ」と書いていた。
あとは俺と一緒にメッセージを書くだけ。そんな時、ふと、おみがぽつりと「みぃ」と鳴いた。
「どうした?」
「んー、おみ、かえったら練習しよっかな」
「何の?」
「もじ」
今まで読むことは出来たから、あえて無理に文字を書かせることはしてこなかった。言葉はすぐに変わる。おみも、漢文混じりの文章は理解出来るが今のようにカタカナも外来語も含まれる文はまだ苦手だ。
それでもこうして自分から書けるようになりたいと思ったのは。何かきっかけがあるのかもしれない。
「おみ、みんなにおてがみ書きたいの」
「なるほどなぁ」
「そしたら、さみしくないでしょ?」
そうだな。手紙は書いた人の気持ちがこもる。今ではスマホですぐにメッセージを送れるからこそ手書きの文字にこめられた温かさは強く印象に残るのだ。
おみがここまで誰かのために何かしたいと願うようになるとは。やっぱりここに来て本当によかった。
「帰ったら一緒に練習しような」
「するー!」
「きっとみんな喜ぶよ」
「むふふん」
そうして、日付が変わるまでずっと一緒に手紙を書き続けた。クレヨンを握りしめたまま眠ってしまったおみに毛布をかけて、俺も眠りにつく。
その日はぽかぽかした、心地よい夢を見ることが出来た。
というのも、明日の朝におみはみんなへ贈り物をしたいのだそうだ。
「おみ、おえかきしかできないから」
「嬉しいと思うぞ」
「そかなぁ……」
ここに来て、色々な形の「愛情」に触れた。おいちさんみたいに何処へでも連れていってくれること。たぎさんみたいに根気強く隣で教えてくれること。おきつさんみたいに大切なものを与えること。
海結さんも天海さんも同じだ。みんな、何かしらの形で俺たちに愛情をくれた。そのお返しをしたいと思うのは、やはりおみの優しさからなんだろう。
そして、みんなと違って自分には何も無いと感じるのは。きっと、ここに来なければ知ることはなかった。
「おみは何て書きたいんだ?」
「んとねー、ありがと、って書きたい」
「じゃあ一緒に書こうか」
「うぃ」
一人ずつ、丁寧に似顔絵を描いていく。描きながらしらたきに「いーしゃ、くるまびゅーだよ」とか「たぎしゃはなみにのれるんだよ」とか「おきちゅしゃはほわほわしゃん」と説明している。それを、まるでふんふん頷くようにしたきが揺れるのを見ているとなんだかこっちまでほわほわしてきた。
明日でもう山に帰る。あっという間の三日間だった。たった三日。されど三日。おみの人生に大きな影響を与えた時間だったことは間違いない。
「りょーた、おみ、おなまえ書くからみてて」
「いいよ。書いてみて」
「むん」
ここ最近、なんとか自分の名前だけは書けるようになったらしい。たどたどしい手つきでゆっくりと「おみ」と書いていた。
あとは俺と一緒にメッセージを書くだけ。そんな時、ふと、おみがぽつりと「みぃ」と鳴いた。
「どうした?」
「んー、おみ、かえったら練習しよっかな」
「何の?」
「もじ」
今まで読むことは出来たから、あえて無理に文字を書かせることはしてこなかった。言葉はすぐに変わる。おみも、漢文混じりの文章は理解出来るが今のようにカタカナも外来語も含まれる文はまだ苦手だ。
それでもこうして自分から書けるようになりたいと思ったのは。何かきっかけがあるのかもしれない。
「おみ、みんなにおてがみ書きたいの」
「なるほどなぁ」
「そしたら、さみしくないでしょ?」
そうだな。手紙は書いた人の気持ちがこもる。今ではスマホですぐにメッセージを送れるからこそ手書きの文字にこめられた温かさは強く印象に残るのだ。
おみがここまで誰かのために何かしたいと願うようになるとは。やっぱりここに来て本当によかった。
「帰ったら一緒に練習しような」
「するー!」
「きっとみんな喜ぶよ」
「むふふん」
そうして、日付が変わるまでずっと一緒に手紙を書き続けた。クレヨンを握りしめたまま眠ってしまったおみに毛布をかけて、俺も眠りにつく。
その日はぽかぽかした、心地よい夢を見ることが出来た。
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