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雨の海【1月長編】
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たぎさんから直々に(ややスパルタ気味な)特訓を受け、ついにおみ一人でサーフィンに挑戦することになった。子供用の小さなボードに乗り、大きな海へと泳ぎ出していく。
何回も海に落ち、何回も泣いていたけれど諦めることはしなかった。頑張れ、おみ。
「りょーたー! みててねー!」
「見てるよー」
潮風に乗っておみの小さな声が聞こえてくる。そうして、大きな波が流れてきた。
「ねえ、室生さん」
「はい?」
隣で温かい紅茶を飲むおきつさんが、のんびりとした口調で話しかけてくる。ふと横を見ると、その目は慈愛に満ちていた。
もうずっとこの国を、この海を守ってきた神様だ。どこまでも深く優しい目の色だった。
「おみちゃん、きっと今すごーく頑張ってると思うのよ」
「そうでしょうね」
「どうしてだか分かる?」
「さぁ……どうしてですか?」
「うふふ。あとできっと分かるわぁ」
おいちさんも同じように笑っている。訳が分からなくて首を傾げている間に、おみはいよいよ波に乗る準備が出来たようだ。
急いで視線を海に戻す。俺の視界には必死にバタついているおみしか映っていない。小さな影が、ふわりと海の上に浮かんだ。
「あっ」
「ほう」
「あらぁ」
正直、すぐに成功するとは思っていなかった。何度も失敗して、それで泣いて終わりかと思っていた。
でもおみは、ほんの数秒だけど。
「乗った!?」
綺麗に波に身を任せることが出来た。小さなボードの上で体を起こし、自在に操ることが出来た。わずか数秒。されど数秒。
おみは、波に乗ることが出来たのだ。
「みっ!」
「あー」
乗ったと思った数秒後、あっという間に体勢を崩して海に沈んでしまう。それでも確かに成功していた。
思わず駆け寄りたくなる感情を抑えている間に、たぎさんに抱えられたおみが浜辺まで連れてこれていた。
「おみ、よくやったな」
「すごいわぁ、おみちゃん」
「うにゃ」
たぎさんの腕に収まったまま、おみがキョトンとした顔でこちらを見ていた。まさかここまで出来るとは。
俺は、何も言えずにおみを見ていた。
「おみ、なみにのれたよ」
ぽつり、そうおみが零した。
それを聞いて、俺の胸になにか熱いものが流れ込んできた。それは感動というのか、それとも激情というのか。
形容し難い、得体の知れない熱いものだった。
「おみ、お前」
「なみにのれたの、とりしゃんみたいになれて、それで」
わずか数秒。
それでも、おみにとっては大きな挑戦だ。
俺はそれに対して言えることはたった一つだ。
「すごかったな、おみ」
「みっ」
お前はすごい。俺の誇りだ。世界で一番お前が誇らしいと思う。
その気持ちしか生まれない。
そう伝えると、それまでいつもと変わらなかったおみの瞳に大粒の涙が浮かんできた。
「みえええ……おみ、がんばったよおおお……」
「よしよし、頑張ったな」
「みゃああああ」
たぎさんの腕から飛び降りて、びしょ濡れのまま俺に抱きついてくる。頭を優しく撫でながら、どうしておみがここまで頑張ったのかようやく理解することが出来た。
何回も海に落ち、何回も泣いていたけれど諦めることはしなかった。頑張れ、おみ。
「りょーたー! みててねー!」
「見てるよー」
潮風に乗っておみの小さな声が聞こえてくる。そうして、大きな波が流れてきた。
「ねえ、室生さん」
「はい?」
隣で温かい紅茶を飲むおきつさんが、のんびりとした口調で話しかけてくる。ふと横を見ると、その目は慈愛に満ちていた。
もうずっとこの国を、この海を守ってきた神様だ。どこまでも深く優しい目の色だった。
「おみちゃん、きっと今すごーく頑張ってると思うのよ」
「そうでしょうね」
「どうしてだか分かる?」
「さぁ……どうしてですか?」
「うふふ。あとできっと分かるわぁ」
おいちさんも同じように笑っている。訳が分からなくて首を傾げている間に、おみはいよいよ波に乗る準備が出来たようだ。
急いで視線を海に戻す。俺の視界には必死にバタついているおみしか映っていない。小さな影が、ふわりと海の上に浮かんだ。
「あっ」
「ほう」
「あらぁ」
正直、すぐに成功するとは思っていなかった。何度も失敗して、それで泣いて終わりかと思っていた。
でもおみは、ほんの数秒だけど。
「乗った!?」
綺麗に波に身を任せることが出来た。小さなボードの上で体を起こし、自在に操ることが出来た。わずか数秒。されど数秒。
おみは、波に乗ることが出来たのだ。
「みっ!」
「あー」
乗ったと思った数秒後、あっという間に体勢を崩して海に沈んでしまう。それでも確かに成功していた。
思わず駆け寄りたくなる感情を抑えている間に、たぎさんに抱えられたおみが浜辺まで連れてこれていた。
「おみ、よくやったな」
「すごいわぁ、おみちゃん」
「うにゃ」
たぎさんの腕に収まったまま、おみがキョトンとした顔でこちらを見ていた。まさかここまで出来るとは。
俺は、何も言えずにおみを見ていた。
「おみ、なみにのれたよ」
ぽつり、そうおみが零した。
それを聞いて、俺の胸になにか熱いものが流れ込んできた。それは感動というのか、それとも激情というのか。
形容し難い、得体の知れない熱いものだった。
「おみ、お前」
「なみにのれたの、とりしゃんみたいになれて、それで」
わずか数秒。
それでも、おみにとっては大きな挑戦だ。
俺はそれに対して言えることはたった一つだ。
「すごかったな、おみ」
「みっ」
お前はすごい。俺の誇りだ。世界で一番お前が誇らしいと思う。
その気持ちしか生まれない。
そう伝えると、それまでいつもと変わらなかったおみの瞳に大粒の涙が浮かんできた。
「みえええ……おみ、がんばったよおおお……」
「よしよし、頑張ったな」
「みゃああああ」
たぎさんの腕から飛び降りて、びしょ濡れのまま俺に抱きついてくる。頭を優しく撫でながら、どうしておみがここまで頑張ったのかようやく理解することが出来た。
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