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雨の海【1月長編】
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おみの顔より大きな丼に乗せられたたっぷりの海鮮を楽しみ、おみから少しお刺身を分けてもらい、気づけばあっという間に食べ終えてしまった。トレイに乗り切らないほどの量だったのに、おみも無事に完食した。さすが食いしん坊。
特にサーモンのお刺身が気に入ったようで、最後の一切れを大切そうに口に運んでいた。おみは、好きな物は最後に残しておくタイプなのだ。
「よう食べたねぇ、いい子さん」
「食べる姿も大変よかった」
「むふー……おなかぱんぱかぱん……」
満足いくまで海鮮を堪能し、少しだけ眠たくなったようだ。いつもなら「おみがする!」と言い出しそうだけどトレイの返却を俺に任せ、椅子でくにゃくにゃしていた。
これはお昼寝モードかな。
「りょーた、だっこ」
「はいはい」
「しゃけおいしかった……とけちゃった……」
「おみも溶けそうだぞ」
ぽかぽかの体を抱き上げて海結さんへのお土産を買うため外に向かう。食堂を出る前におみが「あらー」と声をあげた。
「おみ、あの文字しってる」
「文字?」
「あれ、おっきい布」
おみが指さしたのは鮮やかな色をした大漁旗だった。立派なものだ。これが海にはためく様は大層美しいのだろう。
一度見てみたいな。
「さかぐちがかいてたね」
「そういえばそうだったな」
「おしゃかなしゃんたくさん」
本格的に眠たいのな呂律が回っていない。なんて本能に忠実な生き物なんだろう。そしておいちさんは相変わらずスマホを握りしめている。もしかしたら動画を撮っているんだろうか。
でも、確かに坂口さんも漁業に関わる神様だ。今度お礼を言っておこう。多分、首を傾げられるだろうけど。
「海結へのお土産、アタシ決めとるっちゃんね」
「ほう?」
「おいち様も好きでしょう? ここの苺大福!」
そう言って天海さんが案内したのは、外に設けられた餅屋さんだった。その場で餅をつき、販売しているらしい。福岡らしく丸餅ばかり並んでいた。
その隣には手作りの苺大福が並んでいる。お餅の中に苺が入っているのではなく、お餅と餡子に丸ごと一つ苺が乗っていた。これはとても、豪華な苺大福だ。
「いちごだいふく!?」
「うわっ」
「りょーたおみも! おみもたべる!」
「心配せずとも人数分買う」
「わー!」
先程までの眠気はどこへやら。腕の中で大はしゃぎし始めた。しかしこれはめちゃくちゃ大きいぞ。おみが両手に乗せてもはみ出してしまいそうだ。
おいちさんが八個入りを買っている間も、おみはご機嫌で苺大福の歌(作詞作曲、おみ)を歌っている。俺は、おみが暴れすぎて落ちないように抱きとめるのに必死だ。
「さて、そろそろ姉様たちも到着する頃だ。戻ろうか」
「ねえさま?」
「二人とも個性的だが、まあ仲良くしてくれ」
おいちさんも個性的だと思うが、それ以上だというのか。しかしあの宗像三女神だからな。一体どんな方々なんだろう。
緊張と期待で胸が高鳴る。
こんなこと滅多にないぞ。
「たのしーね、りょーた」
「うん。楽しいな」
「んふふ、うれしい」
ぷくぷく、お餅みたいな頬っぺでおみが笑う。俺も一緒に笑いながらおいちさんの車へと向かった。
金色の太陽が俺たちの上で輝いていた。
特にサーモンのお刺身が気に入ったようで、最後の一切れを大切そうに口に運んでいた。おみは、好きな物は最後に残しておくタイプなのだ。
「よう食べたねぇ、いい子さん」
「食べる姿も大変よかった」
「むふー……おなかぱんぱかぱん……」
満足いくまで海鮮を堪能し、少しだけ眠たくなったようだ。いつもなら「おみがする!」と言い出しそうだけどトレイの返却を俺に任せ、椅子でくにゃくにゃしていた。
これはお昼寝モードかな。
「りょーた、だっこ」
「はいはい」
「しゃけおいしかった……とけちゃった……」
「おみも溶けそうだぞ」
ぽかぽかの体を抱き上げて海結さんへのお土産を買うため外に向かう。食堂を出る前におみが「あらー」と声をあげた。
「おみ、あの文字しってる」
「文字?」
「あれ、おっきい布」
おみが指さしたのは鮮やかな色をした大漁旗だった。立派なものだ。これが海にはためく様は大層美しいのだろう。
一度見てみたいな。
「さかぐちがかいてたね」
「そういえばそうだったな」
「おしゃかなしゃんたくさん」
本格的に眠たいのな呂律が回っていない。なんて本能に忠実な生き物なんだろう。そしておいちさんは相変わらずスマホを握りしめている。もしかしたら動画を撮っているんだろうか。
でも、確かに坂口さんも漁業に関わる神様だ。今度お礼を言っておこう。多分、首を傾げられるだろうけど。
「海結へのお土産、アタシ決めとるっちゃんね」
「ほう?」
「おいち様も好きでしょう? ここの苺大福!」
そう言って天海さんが案内したのは、外に設けられた餅屋さんだった。その場で餅をつき、販売しているらしい。福岡らしく丸餅ばかり並んでいた。
その隣には手作りの苺大福が並んでいる。お餅の中に苺が入っているのではなく、お餅と餡子に丸ごと一つ苺が乗っていた。これはとても、豪華な苺大福だ。
「いちごだいふく!?」
「うわっ」
「りょーたおみも! おみもたべる!」
「心配せずとも人数分買う」
「わー!」
先程までの眠気はどこへやら。腕の中で大はしゃぎし始めた。しかしこれはめちゃくちゃ大きいぞ。おみが両手に乗せてもはみ出してしまいそうだ。
おいちさんが八個入りを買っている間も、おみはご機嫌で苺大福の歌(作詞作曲、おみ)を歌っている。俺は、おみが暴れすぎて落ちないように抱きとめるのに必死だ。
「さて、そろそろ姉様たちも到着する頃だ。戻ろうか」
「ねえさま?」
「二人とも個性的だが、まあ仲良くしてくれ」
おいちさんも個性的だと思うが、それ以上だというのか。しかしあの宗像三女神だからな。一体どんな方々なんだろう。
緊張と期待で胸が高鳴る。
こんなこと滅多にないぞ。
「たのしーね、りょーた」
「うん。楽しいな」
「んふふ、うれしい」
ぷくぷく、お餅みたいな頬っぺでおみが笑う。俺も一緒に笑いながらおいちさんの車へと向かった。
金色の太陽が俺たちの上で輝いていた。
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