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千歳をかねてたのしきをつめ【お正月】
【初詣】
しおりを挟むみんなに引っ張られながら坂口さんの家に到着した。先程と同じように、イネとマイが呼び鈴を鳴らす。なんだか普段と違うんだよなぁ。いつもはもっと好き勝手出入りしているような気がする。
元旦だからかな。関係あるのか?
「さかぐちさーん、あけましておめでとー!」
「イネだよー」
「マイだよー」
「りょうたもいるよー」
なぜか俺も紹介された。
「おお、みんな揃ったな」
こちらもしっかりと袴を着た坂口さんが、嬉しそうに家から出てきた。背中に乗っているおみが「さかぐちー」と鳴いている。年明け早々、とても賑やかだ。
しかしイネとマイが率先して何かをする、というのは少し珍しい気がする。織田さんの眷属だから自分で好き勝手に動き回ることが出来ないと聞いている。
ある程度の自由はあるし、おみと三人で遊んだりはするけれど基本は織田さんの傍で仕えることが彼らの役割だ。だから、訪問する時も主人である織田さんが先に入る。なのに今日は逆だ。何か特別な理由があるんだろうか。
「店長、三社参りおわりましたー!」
「りょうたもしましたー!」
「え、俺も?」
「そうよ、当たり前じゃない」
「おみと、おだしゃと、さかぐちの三社だよ」
「えぇ……?」
頭の中が混乱してきた。どういうことだ? 俺とイネ、マイが三社参りをしたということ? いや、でもそうか。そうとしか考えられない。だって織田さんも坂口さんも、おみも。みんなお参りされる側の神様なんだから。
だからおみはずっと家に居たのか。イネとマイがお参りに来ると分かっていたから。
「チビたちだけで行かせるのは心配だってよォ。織田は本当に過保護だな」
「なるほど、それで一緒に来たんですね」
少し不思議な三社参りは無事に行うことができた。そして、言い換えるとこれが俺の初詣になる。イネとマイは手にしていた風呂敷を織田さん、坂口さん、おみに手渡した。
中身はおそらくお餅と御神酒だろう。神様へのお供え物といえばこれだろう。そして俺は、図らずもお雑煮を作ることでお供えしていたというわけか。
「じゃあ、最後に天津祝詞を唱えて終わりましょうか」
「室生の坊は分かるのか?」
「い、一応分かります。祖父に教えてもらったので」
そして、毎朝おみが修行している隣でずっと唱えている。そうするとおみが喜ぶのだ。
「おみ、りょーたの祝詞すき」
「そうなんだ」
「ふにゅってなる」
「なんだそれ」
何にしても、お気に召してもらえて何よりだ。イネとマイの隣に並んで、深々と二回お礼をする。それから手を二回叩き、軽く目を閉じた。
じいさんから徹底的に教えこまれたのが、この天津祝詞だ。おみと共に過ごすのであれば必ず覚えろと言われた。そして何より大切なのは。
「高天原に神留り坐す」
この第一声だ。心を込めて、丁寧に、大切に言葉を紡ぐ。そうすることで俺もまた清められていくような気持ちになるのだ。
三人で天津祝詞を唱え終わる頃にはおみもすっかりふにゃふにゃになり、ご機嫌になっていた。初詣の時って他の神様もこんな感じになるのかな。
「さ、初詣もこれでお終い! イネ、マイ。おみちゃんと遊んで来ていいわよ」
「わーい!」
「やったー!」
「あそぼあそぼー!」
俺たちは坂口さんの家でのんびりさせてもらおう。御神酒もお餅もたくさんあるわけだし。
みんなでゆっくり、お正月を楽しもう。
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