このたび、小さな龍神様のお世話係になりました

一花みえる

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朝時雨【12月特別編】

【クリスマス】4

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「りょーたあ! さんたさん、きた!」
「うう……何時だ、今……」
 おみサンタがプレゼントを配り回った翌朝、いい子のおみにもサンタさんが来たようだ。寝る前にお気に入りの靴下を枕元に置いて、ついでにしらたきの分まで忘れずに。ワクワクしながら眠りについたのを見届けて、二時間ほど前にそっとプレゼントを入れてきた。
 これでゆっくり眠れると安心して布団に入ったのだが、想像以上に早く叩き起こされてしまった。まだ四時だぞ、まだ夜じゃないか。
「みて! おみのくつ下にプレゼント!」
「よかったなぁ」
「しらたきのもあったの、さんたさん優しい!」
 そうだろう、そうだろう。何があってもバレないよう細心の注意を払って用意したんだ。頭の周りでぴょんぴょん跳ね回っている姿を見ると、頑張ってよかったなと思う。めちゃくちゃ眠たいけど。
 ハイテンションのおみを再び寝つかせることは不可能だろう。しょうがないので俺も体を起こし、居間を暖かくするために立ち上がった。足元をくるくる回りながらおみもついてきていた。
「なにかな、なにかな」
「なんだろうな」
「しらたきはね、かわいいリボンだったの。あとで結んであげる」
「よかったなぁ、しらたき」
 絹でできた美しいリボンは織田さんに頼んで用意してもらった。おみが日によって首に巻くリボンを変えているのだ。そのコレクションに加えてもらおう。今回はクリスマスということで、真紅と金色、そしてビリジアンの三色だ。
 そしておみへのプレゼントはというと。
「ふああ……! くれよん!」
 俺が用意したのは新しいクレヨンだった。一つは米ぬかを使ったもの。もう一つは野菜の葉っぱを使って色をつけたもの。どちらも体に優しく、かつ色合いも色鮮やかだ。ふたつ合わせて二十六色もあるから、きっと今よりも好きに描けるだろう。
 毎日寝る前に絵日記を描いているため、以前あげたクレヨンはどれも小さくなっていた。それを大切に使っているのを知っていたから、新しいものをあげたかったのだ。
「おやさいくれよん……りょーた、これ」
「食べられないぞ」
「みえぇ……」
 食べる気だったのか? 先に言っておいてよかった。
「これでおえかきするー!」
「たくさん描けるな」
「りょーたのことも描いてあげるね」
 新しいクレヨンを抱きしめながら嬉しさのあまり床をころころしている。ここまで喜んでもらえるとあげた甲斐があるな。新しい生き物のようにゴロゴロウネウネしているおみを見ていると、縁側に置かれた毛布と陶器の皿が見えた。
 おみが用意した最後のプレゼント。地域猫のちびすけへのものだ。結局昨日は出会うことが出来ず、縁側に置いたものだ。ふわふわの毛布に包まればきっと冬でも暖かいだろう。陶器の(おそらく年代ものの)お皿は、おみが餌を入れておくためのもの。こうしていれば、きっとちびすけも居心地がいいだろうとおみが選んだものだ。
 そこに、小さな影があった。
「あ、おみ。ちびすけだぞ」
「ちびちゃ!」
 光に釣られたのか、もしくはふわふわの毛布に興味が湧いたのか、滅多に姿を見せないちびすけが縁側を歩いていた。くああ、と欠伸をして、毛布に寝転んでいる。よかった、気に入ってもらえたみたいだ。
「ちびちゃ、うれしそう?」
「嬉しいと思うよ」
「んふふ、よかった」
 今年一年、いい子にしていた龍神様に最高のプレゼントが贈られたな。よかったな、おみ。
「あとね、これ、りょーたに。おみさんたから」
「俺に?」
「りょーたいいこさんだったから、ごほーび!」
 あとで見てねー! と言ったあと、おみは恥ずかしそうにちびすけのところへ走っていった。今日も元気にしらたきの取り合いをしている。渡されたのは画用紙だ。一体どこに隠していたんだろう。折り畳まれた画用紙を開くと、中には大きな絵が描かれていた。
 俺と、おみと、しらたき。
 三人で楽しそうに笑っている。そして下にはたどたどしい文字で「りょーただいすき」と書かれていた。たくさんの本を見ながら頑張って書いたのだろう。胸の奥がぎゅっと熱くなり、瞼の裏がじんわりと湿ってきた。
 あーあ。俺も泣き虫になったなぁ。一体どこの誰に似てしまったんだろう。
「俺も大好きだよ、おみ」
 空から細かな雪が静かに降り始めていた。
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