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月時雨【12月長編】
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「りょーた……おめめいたい?」
「うー、ちょっとだけ」
「よしよし」
本腰入れて蔵を掃除した結果、無事に四分の一は綺麗なった、気がする。残りはまた来年か。その間に荷物を放り込まないようにしないと。
そもそも、あの蔵に荷物を入れているのは俺ではない。本家、というより俺の両親が定期的に仕送りをしてくれているのだが、その時に毎回荷物を蔵に入れているのだ。
小さな龍たちが重たい荷物を運んでいる姿を見ると、家の奥まで運んでくれとはさすがに言えない。おみも昔はこうだったのかな、などと考えてしまうからだ。
「ご飯食べたら、障子を綺麗にしよう」
「ふきふきするの?」
「いいや。張り替える」
「ほほー」
今年はとりあえず、ビリビリに破れている居間の障子だな。夏場はまだしも冬になると隙間風で部屋の中が冷えきってしまう。
おかげで保護猫のちびすけも寄り付かなくなってしまった。
「とりあえず、昼食にしよう」
「おみも、おみもつくる!」
「はいはい」
足元で楽しそうに走り回るおみを見ながら、さて昼は何にしようかと考え始めた。
お昼は簡単に雑炊を作ることにした。冷蔵庫から材料を取り出していく。寒い時はやっぱりホカホカしたものだよな。
ちょうど鮭フレークが残っていたから、今日は卵鮭雑炊にしよう。
「おみ、仕事だぞ」
「うぃー!」
以前、卵を割れずにべそべそ泣いていた毛玉は、今ではすっかり卵割りのプロだ。頼めば嬉しそうに卵を割ってくれる。
今もおみ専用の踏み台に乗って準備している。
「三つあるから全部使おう」
「おおー、ぜーたく」
「明日くらいに仕送りがくるからな」
「しおくり?」
「食べ物とか、本とか。もしかしたらお餅もあるかもな」
「おみ、おもちすき」
お餅みたいなほっぺをふくふくさせて、おみが楽しそうに笑っている。仕送りとは言っているが、正式には供え物、つまり神饌だ。
そして俺はそのおこぼれに預かっているというわけだ。
「りょーた、われたよー」
「ありがと」
「みてていい?」
「いいよ。火傷しないようにな」
冷凍していたご飯を解凍し、冷水で粘り気を落としておく。それからネギを小口切りにし、だし汁を用意したら準備完了だ。
土鍋にだし汁を入れ、醤油とみりん、少しの塩で味を整える。そのまま沸騰するまで待ち、ぷくぷく泡が浮かんできたらご飯を投入。
あとはしばらく待つだけだ。うーん、簡単簡単。
「たまごまだ?」
「最後に入れるんだ」
「はえー」
「ふわふわな方が好きだろ?」
「すきー!」
今にもヨダレが垂れそうな顔で鍋を見つめている。こんなに期待されるとこちらも作りがいがある。その期待に応えたのか、鍋の中身もふつふつと煮立ってきた。
うん、いい感じ。
「最後に鮭と、卵を入れる」
「ふわわ」
「そう。ふわふわ」
「おみ、お皿だす!」
「お、えらいな」
「ふふーん!」
褒められたからか、それともお手伝いが出来たからか、おみは上機嫌だ。出来たての雑炊を食べたらもっとご機嫌になるんだろうな。
自然と口元が緩み、いつの間にか俺の気持ちも晴れやかになっていることに気がついた。おみと一緒に居るといつもこうだ。気づいたら心の中がすっきりしている。
「さすが龍神様、だな」
「りょーたー、お皿だしたよー」
「はいはい、今行くよ」
土鍋からはふんわり優しい香りをした湯気が立ち上る。たくさん食べて午後も頑張るか。
「うー、ちょっとだけ」
「よしよし」
本腰入れて蔵を掃除した結果、無事に四分の一は綺麗なった、気がする。残りはまた来年か。その間に荷物を放り込まないようにしないと。
そもそも、あの蔵に荷物を入れているのは俺ではない。本家、というより俺の両親が定期的に仕送りをしてくれているのだが、その時に毎回荷物を蔵に入れているのだ。
小さな龍たちが重たい荷物を運んでいる姿を見ると、家の奥まで運んでくれとはさすがに言えない。おみも昔はこうだったのかな、などと考えてしまうからだ。
「ご飯食べたら、障子を綺麗にしよう」
「ふきふきするの?」
「いいや。張り替える」
「ほほー」
今年はとりあえず、ビリビリに破れている居間の障子だな。夏場はまだしも冬になると隙間風で部屋の中が冷えきってしまう。
おかげで保護猫のちびすけも寄り付かなくなってしまった。
「とりあえず、昼食にしよう」
「おみも、おみもつくる!」
「はいはい」
足元で楽しそうに走り回るおみを見ながら、さて昼は何にしようかと考え始めた。
お昼は簡単に雑炊を作ることにした。冷蔵庫から材料を取り出していく。寒い時はやっぱりホカホカしたものだよな。
ちょうど鮭フレークが残っていたから、今日は卵鮭雑炊にしよう。
「おみ、仕事だぞ」
「うぃー!」
以前、卵を割れずにべそべそ泣いていた毛玉は、今ではすっかり卵割りのプロだ。頼めば嬉しそうに卵を割ってくれる。
今もおみ専用の踏み台に乗って準備している。
「三つあるから全部使おう」
「おおー、ぜーたく」
「明日くらいに仕送りがくるからな」
「しおくり?」
「食べ物とか、本とか。もしかしたらお餅もあるかもな」
「おみ、おもちすき」
お餅みたいなほっぺをふくふくさせて、おみが楽しそうに笑っている。仕送りとは言っているが、正式には供え物、つまり神饌だ。
そして俺はそのおこぼれに預かっているというわけだ。
「りょーた、われたよー」
「ありがと」
「みてていい?」
「いいよ。火傷しないようにな」
冷凍していたご飯を解凍し、冷水で粘り気を落としておく。それからネギを小口切りにし、だし汁を用意したら準備完了だ。
土鍋にだし汁を入れ、醤油とみりん、少しの塩で味を整える。そのまま沸騰するまで待ち、ぷくぷく泡が浮かんできたらご飯を投入。
あとはしばらく待つだけだ。うーん、簡単簡単。
「たまごまだ?」
「最後に入れるんだ」
「はえー」
「ふわふわな方が好きだろ?」
「すきー!」
今にもヨダレが垂れそうな顔で鍋を見つめている。こんなに期待されるとこちらも作りがいがある。その期待に応えたのか、鍋の中身もふつふつと煮立ってきた。
うん、いい感じ。
「最後に鮭と、卵を入れる」
「ふわわ」
「そう。ふわふわ」
「おみ、お皿だす!」
「お、えらいな」
「ふふーん!」
褒められたからか、それともお手伝いが出来たからか、おみは上機嫌だ。出来たての雑炊を食べたらもっとご機嫌になるんだろうな。
自然と口元が緩み、いつの間にか俺の気持ちも晴れやかになっていることに気がついた。おみと一緒に居るといつもこうだ。気づいたら心の中がすっきりしている。
「さすが龍神様、だな」
「りょーたー、お皿だしたよー」
「はいはい、今行くよ」
土鍋からはふんわり優しい香りをした湯気が立ち上る。たくさん食べて午後も頑張るか。
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