76 / 276
山茶花時雨 【12月短編】
10
しおりを挟む
「けふん、みゃふ!」
「うーん、咳が出るなぁ」
「みふっ! みぇー……」
朝方、急激に冷え込んだせいか朝からおみが軽く咳き込んでいた。空気がカラカラに乾燥しているのだろう。ひょん、と跳ね上がるように小さな咳を繰り返している。
困ったなぁ。おみの体調は気候に直結する。夏場は風邪を引いて、台風が来た。冬場に台風は考えにくいが、大雪の可能性は限りなく高い。
まだ症状が軽いうちになんとかしてやらないと。
「おみ、喉は?」
「んー、イガイガ?」
「乾燥してるんだろうな」
「んみー!」
手の届かないところが気持ち悪くて、じたばたしている。あまり動き回って体調を悪化させるのだけは避けたい。
さて、どうしたものか。
「そうだ、大根があったか」
「さかぐちがくれた、おっきいの?」
「そうそう。あれ、使おうか」
「みぃ?」
かつて、祖父から教えてもらった「喉の痛みに効くシロップ」を作ってやろう。あれなら簡単にできるし、おみも気に入ると思う。
さっそく台所へ、と思ったら、おみもペタペタついてくる。寒いから居間で待ってろと言ってもイヤイヤの一点張りで、結局しらたきと一緒に、靴下を履くことを約束に許可してやった。喉が痛いくらいじゃおみの好奇心は静まってくれそうにない。
「だいこんって、おでんとか、おみそしるとかに入ってるのがすき」
「今日はちょっと違うんだ」
「おみ、からいのはにがて……」
「大根おろしじゃないから、大丈夫だよ」
かつてこっそり盗み食いした大根おろしが非常に辛く、大泣きしたことがある。そのことがトラウマになっているのだろう。
幸い、今日作るものはおみも気に入りそうなほどに甘いものだ。
「おみも手伝ってくれるか?」
「うぃ! っ、へしゅっ!」
「あーあー……」
盛大に飛び散った鼻水を拭ってやり、さて、改めてシロップ作りのスタートだ。
「俺が大根を切るから、おみは瓶に入れていってくれ」
「うぃ、うぃ」
ずっしりと重たい大根を一口大に切っていく。形は適当でいいから、簡単なサイコロ切りに。さく、さく、心地よい音が台所に響いている。
予め煮沸消毒していた瓶に、切られた大根が入れられる。三分の二くらいまで入った。うん、いい量だな。
「さ、次が大切だ」
「おお」
「これを、ぎゅーっと入れてくれ」
「ぎゅー!」
差し出したのは、蜂蜜のボトルだ。寝る前のミルクに入れてやることが多く、おみはこの甘さがとても気に入っている。
零さないように、と念を押して、蜂蜜を流し込むように頼んだ。
「溢れないようにな」
「うぃ!」
ボトルを思い切り握りしめ、 蜂蜜をたっぷりと流し込んでいく。黄金色の蜂蜜が、まるで滝のように流れている。
外はシンシンと冷えきって、空気はカラカラに乾いているけれど。
俺とおみのいる場所は陽だまりのように暖かかった。
「うーん、咳が出るなぁ」
「みふっ! みぇー……」
朝方、急激に冷え込んだせいか朝からおみが軽く咳き込んでいた。空気がカラカラに乾燥しているのだろう。ひょん、と跳ね上がるように小さな咳を繰り返している。
困ったなぁ。おみの体調は気候に直結する。夏場は風邪を引いて、台風が来た。冬場に台風は考えにくいが、大雪の可能性は限りなく高い。
まだ症状が軽いうちになんとかしてやらないと。
「おみ、喉は?」
「んー、イガイガ?」
「乾燥してるんだろうな」
「んみー!」
手の届かないところが気持ち悪くて、じたばたしている。あまり動き回って体調を悪化させるのだけは避けたい。
さて、どうしたものか。
「そうだ、大根があったか」
「さかぐちがくれた、おっきいの?」
「そうそう。あれ、使おうか」
「みぃ?」
かつて、祖父から教えてもらった「喉の痛みに効くシロップ」を作ってやろう。あれなら簡単にできるし、おみも気に入ると思う。
さっそく台所へ、と思ったら、おみもペタペタついてくる。寒いから居間で待ってろと言ってもイヤイヤの一点張りで、結局しらたきと一緒に、靴下を履くことを約束に許可してやった。喉が痛いくらいじゃおみの好奇心は静まってくれそうにない。
「だいこんって、おでんとか、おみそしるとかに入ってるのがすき」
「今日はちょっと違うんだ」
「おみ、からいのはにがて……」
「大根おろしじゃないから、大丈夫だよ」
かつてこっそり盗み食いした大根おろしが非常に辛く、大泣きしたことがある。そのことがトラウマになっているのだろう。
幸い、今日作るものはおみも気に入りそうなほどに甘いものだ。
「おみも手伝ってくれるか?」
「うぃ! っ、へしゅっ!」
「あーあー……」
盛大に飛び散った鼻水を拭ってやり、さて、改めてシロップ作りのスタートだ。
「俺が大根を切るから、おみは瓶に入れていってくれ」
「うぃ、うぃ」
ずっしりと重たい大根を一口大に切っていく。形は適当でいいから、簡単なサイコロ切りに。さく、さく、心地よい音が台所に響いている。
予め煮沸消毒していた瓶に、切られた大根が入れられる。三分の二くらいまで入った。うん、いい量だな。
「さ、次が大切だ」
「おお」
「これを、ぎゅーっと入れてくれ」
「ぎゅー!」
差し出したのは、蜂蜜のボトルだ。寝る前のミルクに入れてやることが多く、おみはこの甘さがとても気に入っている。
零さないように、と念を押して、蜂蜜を流し込むように頼んだ。
「溢れないようにな」
「うぃ!」
ボトルを思い切り握りしめ、 蜂蜜をたっぷりと流し込んでいく。黄金色の蜂蜜が、まるで滝のように流れている。
外はシンシンと冷えきって、空気はカラカラに乾いているけれど。
俺とおみのいる場所は陽だまりのように暖かかった。
14
お気に入りに追加
570
あなたにおすすめの小説
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【泣き虫龍神様】干天の慈雨
一花みえる
キャラ文芸
雨乞いのため生贄にされた柚希は、龍神様のいるという山奥へと向かう。そこで出会ったのは、「おみ」と名乗る不思議な子供だった。
泣き虫龍神様の番外編です!
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。