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山茶花時雨 【12月短編】

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    朝になると霜が降っている日々が続いていた。ここは山奥だから気温も低く、もうすぐ雪が降り始めるだろう。
    どんなに火鉢をくべても、寒いものは寒い。特に店で仕事をしている時はすきま風が入り込んでくるから体の芯から冷えきっていく。
     そんな時に助かるのが、太陽のように熱を発しているおみである。
「おみ、ちょっとこっち」
「う?」
    気になる絵本を手に居間へ戻ろうとしたおみを、ちょいちょい片手で呼び寄せる。とてとて歩くと、背中のしらたきもゆらゆら揺れた。なんだか新しい生き物を見ている気分だ。
    もこもこの半纏に毛糸の靴下を履かせ、風邪を引かないよう防寒はしっかりとしている。しかし、外で走り回ると熱くなるのかすぐに脱ぎ捨てるから追いかけ回し、また汗をかく、の繰り返しだ。
     しかし今はその熱が恋しかった。それくらい、寒いのだ。
「りょーた、どうしたの?」
「膝、乗ってくれ」
「のるー!」
    まだまだ甘えたがりの癖は抜けきれず、太ももに抱きつくようにすがりついてきた。そのまま抱き上げて膝に乗せると、まるで湯たんぽのようにじんわりと温かい。
   すごいな、これは。
「あー……あったかい……」
「おみもぽかぽかするー」
「しらたきも居るからかな」
「そうかも!   しらたきも、あっかいって」
    それはよかった。背中越しにしらたきのつぶらな瞳が見える。なんだかいつもよりキラキラしているような。していないような。
    ご機嫌なおみの尻尾が揺れている。どうやら湯たんぽ代わりにされても気にしないらしい。なんとも寛容な神様だ。
「ぽかぽかすると、ねむくなるね」
「確かに……おみ、眠いのか?」
「んー……そうかも……」
    抱きしめていた体は熱を帯びており、手のひらはぽかぽかしている。くあ、と大きな欠伸をしたのが見えた。
    つられて俺も欠伸をする。
    うーん、平和だ。
「りょーたお昼寝しよ」
「しようかなぁ」
「よーしよし、ねんねこねー」
「なんだそれ」
    調子外れの子守唄に笑いが込み上げてくる。それでもおみは気にしないのか、楽しそうに歌いながら俺の頭を撫でてくれた。
    小さな手が髪を滑っていく。瞼が少し重たくなって、まだ仕事は残っているのは分かっているが、ちょっとくらい許されるだろうと目を閉じた。
    楽しそうな笑い声と、温かい手のひらで撫でられる感覚は、いつまでも続いていた。
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