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叢時雨【11月長編】

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    鳥居をくぐってまず目に入ったのは、大きな三角の屋根だった。夜だから分かりにくいが、焦げ茶色という地味な色にも関わらず圧倒的な存在感を放っている。
    あまりの壮大さに息を飲んだ。玉砂利が踏みしめられる音で我に返ったが、そうでもないといつまでも眺めているところだった。
「すごいな……おみはここで会合に出ているのか」
「そう。昼間は一般の人がいるから、私たちは姿が見えないようにしているけど」
「ふぅん」
    大変なんだな、神様も。
「ここが本殿。他にもたくさんあるけど、私はまだ見ていないんだ」
「これだけ広いとなぁ」
    全ての建物を見るだけでも半日はかかりそうだ。じっくり見物すると一日じゃ足りないかもしれない。できれば俺も昼間に来たいけれど、この体質じゃあっという間に倒れてしまうだろうな。
    一応、眼鏡はかけてきたが。さすがに神無月の出雲は危険すぎる。
「あっちが神楽殿らしい」
「おお、あの有名な」
「で、そこから外に出ると美味しい蕎麦屋さんがある」
「おお……そうか」
    一体何を調べているんだ。もう少し出雲大社について学んでいたかと思ったのに。やっぱりおみの頭は食べることでいっぱいなのか。
    そんな、半分くらい役に立たない案内を聞きながら本殿へと向かう。本来なら観光客の立ち入りは禁止されているからこっそりと。
「さすがに大きいな」
「全国の神々が集まるから、広くないとな」
「そういえば坂口さんと織田さんも来てるんだっけ」
「うん。忙しそうにしてたから声はかけていないが」
    それもそうか。いつもは山でのんびり暮らしているが、本来は七福神と稲荷なのだ。今はそちらのことで手一杯だろう。
    特に何の縛りもない俺たちとは違うのだ。
「イネとマイも忙しそうだった。耳が生えるくらいに」
「そりゃ大変だ」
    尻尾が出たら休ませないとな、などと考えていると、遠くから聞きなれた声がしてきた。こんな遅い時間で、しかも神聖な場所だというのに全く躊躇しない大声だ。
   この声は、まさか。
「噂をすれば、だな」
「おみ、今のお前は言霊が強いんだから気をつけろって言ったのに」
「まあまあ、そう気にするな」
    やれやれ。お前はもう少し気にしてくれ。
    小さくため息をつきながら、俺とおみは声のする方へと足を向けた。
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