53 / 276
叢時雨【11月長編】
2
しおりを挟む
朝から散々ぐずり続けたおみをなんとか滝で身を清め終わり、馬車に乗せた時は既に疲れ果てて眠たそうにしていた。ぐしゅぐしゅ言いながらしらたきに抱きついて、俺の膝で眠っていた。ここから目的地まではしばらくかかるし、どのみち途中で意識が飛んでしまうだろう。
それなら今くらいは好きにさせてやりたい。そんなことを考えている間に馬車は海を越え、山を越え、人里離れた清廉な場所に到着した。おみとはここからしばらくお別れだ。
真っ白な衣装を身につけ、仮面で顔を隠した(おそらく)男性が話しかけてきた。この人が諸々と準備をしてくれるのだろう。
「室生様は、お宿でお待ちください」
「わかりました」
「必要な装束は?」
「この風呂敷の中です」
「かしこまりました」
淡々と話が進んでいく。本来であれば俺も祭事に加わった方がいいのだろう。しかし、俺にその資格も力もない。
ただ待つことしかできないのだ。
「ここから稲佐の浜までおみ様をお連れします。その後、大社に入られ、開幕の儀式が行われます」
「分かりました」
「それでは」
必要な荷物を手に、新しく用意された馬車に乗り換える。儀式のことは文献で読んだことはあったが、詳しく何をするかまでは分からなかった。
生まれてまだ千年くらいしか経っていないおみが参加するのはまだ早いかもしれないと思ったが、招待状が届けられたのだから間違いではないのだろう。
「さて……夜まで待つとしようか、しらたき」
なんだかいつもより元気がないように見えるしらたきを膝に乗せて、先月もお世話になった宿へと向かう。やれやれ。先は長いな。
「室生様、お待ちしておりましたよ」
「お世話になります」
先月と同じように、ふくよかな女将さんが出迎えたくれた。この前と同じように離れを用意してもらえたので、気兼ねなく過ごすことができる。
たくさんあった荷物も運んでもらえたので、俺が運ぶものはしらたきだけだった。
「お連れ様はいらっしゃいませんの? あの、賢そうなお坊ちゃん」
「あー、夜に来ます。少し見た目が変わってるかもしれませんが」
「子供は成長が早いと言いますからねェ」
あはは、と愛想笑いを返して離れへと向かう。今回に関しては「早い」で済ませられない気もするが。
あとで詳しく説明しておこう。
時計を確認する。もう稲佐の浜から大社へと向かった頃だろうか。今日は初日だから遅くまで会合はないだろう。
「おみの服を整理するか……俺の分と間違えないように、と」
「それなら私が自分でする」
「えっ……」
すらりと襖が開いた。いつの間に到着していたんだろう。全く気づかなかった。それに、分かってはいたけれど。
やっぱり、驚いてしまう。
「おみ、様……お務めご苦労さまでした」
「うん」
俺とほとんど変わらない身長に、腰まである長い銀色の髪。海の色をした瞳は変わらずに澄んでいて、涼しげな切れ長になっていた。
先月よりも霊力が貯まり、成長したおみは。驚くほど立派な龍神様だった。
それなら今くらいは好きにさせてやりたい。そんなことを考えている間に馬車は海を越え、山を越え、人里離れた清廉な場所に到着した。おみとはここからしばらくお別れだ。
真っ白な衣装を身につけ、仮面で顔を隠した(おそらく)男性が話しかけてきた。この人が諸々と準備をしてくれるのだろう。
「室生様は、お宿でお待ちください」
「わかりました」
「必要な装束は?」
「この風呂敷の中です」
「かしこまりました」
淡々と話が進んでいく。本来であれば俺も祭事に加わった方がいいのだろう。しかし、俺にその資格も力もない。
ただ待つことしかできないのだ。
「ここから稲佐の浜までおみ様をお連れします。その後、大社に入られ、開幕の儀式が行われます」
「分かりました」
「それでは」
必要な荷物を手に、新しく用意された馬車に乗り換える。儀式のことは文献で読んだことはあったが、詳しく何をするかまでは分からなかった。
生まれてまだ千年くらいしか経っていないおみが参加するのはまだ早いかもしれないと思ったが、招待状が届けられたのだから間違いではないのだろう。
「さて……夜まで待つとしようか、しらたき」
なんだかいつもより元気がないように見えるしらたきを膝に乗せて、先月もお世話になった宿へと向かう。やれやれ。先は長いな。
「室生様、お待ちしておりましたよ」
「お世話になります」
先月と同じように、ふくよかな女将さんが出迎えたくれた。この前と同じように離れを用意してもらえたので、気兼ねなく過ごすことができる。
たくさんあった荷物も運んでもらえたので、俺が運ぶものはしらたきだけだった。
「お連れ様はいらっしゃいませんの? あの、賢そうなお坊ちゃん」
「あー、夜に来ます。少し見た目が変わってるかもしれませんが」
「子供は成長が早いと言いますからねェ」
あはは、と愛想笑いを返して離れへと向かう。今回に関しては「早い」で済ませられない気もするが。
あとで詳しく説明しておこう。
時計を確認する。もう稲佐の浜から大社へと向かった頃だろうか。今日は初日だから遅くまで会合はないだろう。
「おみの服を整理するか……俺の分と間違えないように、と」
「それなら私が自分でする」
「えっ……」
すらりと襖が開いた。いつの間に到着していたんだろう。全く気づかなかった。それに、分かってはいたけれど。
やっぱり、驚いてしまう。
「おみ、様……お務めご苦労さまでした」
「うん」
俺とほとんど変わらない身長に、腰まである長い銀色の髪。海の色をした瞳は変わらずに澄んでいて、涼しげな切れ長になっていた。
先月よりも霊力が貯まり、成長したおみは。驚くほど立派な龍神様だった。
24
お気に入りに追加
567
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【泣き虫龍神様】干天の慈雨
一花みえる
キャラ文芸
雨乞いのため生贄にされた柚希は、龍神様のいるという山奥へと向かう。そこで出会ったのは、「おみ」と名乗る不思議な子供だった。
泣き虫龍神様の番外編です!
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。