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雨の名月【11月短編】
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朝、寝ぼけ眼のおみがしらたきを引きずって下に降りてきた。まだ半分夢見心地なんだろう、危なっかしい足取りでフラフラ歩いている。それでも自分で起きられたのは偉いな。あと五分待って降りてこなかったら毛布を剥ぎ取りに行くところだった。
朝は何かと忙しい。顔を洗い、食事を作り、着替えたら仕事の用意をしなくてはいけない。あと数日でまた出雲に向かうのだから、その準備もする必要がある。だから、一人で起きてきたおみには感謝するしかないのだが。
「おみ、お前頭すごいぞ」
「うにー……?」
歩く度にふよふよ揺れる銀色の髪を見て、新しく一仕事出来たことに気づいてしまった。頭のちょうどてっぺんあたり。普段は隠されているおみの角があるところに、今はひょこんと飛び上がった髪の毛があった。
これはなかなか、手強そうだ。
「あたま、なに?」
「触ってごらん」
「んんー……」
ぺしぺし、両手で頭を撫でている。押さえつけられてもすぐに起き上がってくる髪は、まるで生き物のように動いていた。
一体どんな寝方をしたらそうなるんだ。
「おみ、つのだしてないよ……?」
「それは寝癖だ」
「ねぐせ?」
「昨日変な寝方しただろ」
「うーん」
何かを思い出そうと首を傾げている。それに合わせて、また髪の毛がふよんと揺れた。なんだか見ていて面白い。本人が気づいていないことも含めて。
「きのうは、しらたきとあそんでた」
「しらたきと?」
「おでこくっつけて」
何をしているんだ、何を。最近洗ったばかりで手触りがいいのは分かるが、そんなことしたら癖がつくのは当たり前じゃないか。
ちらりとしらたきを見てみると、こちらから視線を逸らしたようにあらぬ方向を見つめていた。気のせいだろうけど。なんだか怪しいな。
「んー、んんー」
何度も何度も髪を撫でているが、そんなことじゃ元には戻らない。子猫が毛繕いをしているようで可愛らしいが、これじゃあいつまで経っても朝ごはんにたどり着けないだろう。
やれやれ、しょうがないな。
「おみ、直してやるから。そこに座って」
「うぃ」
まだ毛繕い中のおみを置いて、蒸しタオルを作るために台所へと向かう。しつこい寝癖にはこれしか太刀打ちできないのだ。
ホカホカの蒸しタオルを作り、熱くないか確認してからおみの頭に押し付ける。しばらく待ってから様子を見ると、少しだけ収まったような気がした。
「あったかーい」
「それはよかった」
「ぽかぽかー」
「寝癖はこうして直すんだ。覚えとけよ」
「んー」
なんだか語尾がふわふわしている。まだ眠たいのだろうか。何度も蒸しタオルで髪を押し付けていると、いつの間にか小さな寝息が聞こえてきた。
覗き込むと、案の定ぐっすり眠っている。右手にはしらたきを握りしめ、俺にもたれかかったまま器用に寝こけていた。
「うにゅー……すぴ……」
「これじゃ本当に子猫だな」
ようやく収まりつつある髪を撫でて、寒くないよう毛布をかけてやる。しょうがない、今日の朝ごはんはもう少し待ってやるか。
おみが目覚めるまで暖炉に火でも入れておこう。少しでも暖かい場所で眠れるように。
「俺も甘いなぁ、大概」
何かしらいい夢を見ているのだろう、口元を緩めながらうにゃうにゃ呟いているおみの頭をそっと撫でてやった。
朝は何かと忙しい。顔を洗い、食事を作り、着替えたら仕事の用意をしなくてはいけない。あと数日でまた出雲に向かうのだから、その準備もする必要がある。だから、一人で起きてきたおみには感謝するしかないのだが。
「おみ、お前頭すごいぞ」
「うにー……?」
歩く度にふよふよ揺れる銀色の髪を見て、新しく一仕事出来たことに気づいてしまった。頭のちょうどてっぺんあたり。普段は隠されているおみの角があるところに、今はひょこんと飛び上がった髪の毛があった。
これはなかなか、手強そうだ。
「あたま、なに?」
「触ってごらん」
「んんー……」
ぺしぺし、両手で頭を撫でている。押さえつけられてもすぐに起き上がってくる髪は、まるで生き物のように動いていた。
一体どんな寝方をしたらそうなるんだ。
「おみ、つのだしてないよ……?」
「それは寝癖だ」
「ねぐせ?」
「昨日変な寝方しただろ」
「うーん」
何かを思い出そうと首を傾げている。それに合わせて、また髪の毛がふよんと揺れた。なんだか見ていて面白い。本人が気づいていないことも含めて。
「きのうは、しらたきとあそんでた」
「しらたきと?」
「おでこくっつけて」
何をしているんだ、何を。最近洗ったばかりで手触りがいいのは分かるが、そんなことしたら癖がつくのは当たり前じゃないか。
ちらりとしらたきを見てみると、こちらから視線を逸らしたようにあらぬ方向を見つめていた。気のせいだろうけど。なんだか怪しいな。
「んー、んんー」
何度も何度も髪を撫でているが、そんなことじゃ元には戻らない。子猫が毛繕いをしているようで可愛らしいが、これじゃあいつまで経っても朝ごはんにたどり着けないだろう。
やれやれ、しょうがないな。
「おみ、直してやるから。そこに座って」
「うぃ」
まだ毛繕い中のおみを置いて、蒸しタオルを作るために台所へと向かう。しつこい寝癖にはこれしか太刀打ちできないのだ。
ホカホカの蒸しタオルを作り、熱くないか確認してからおみの頭に押し付ける。しばらく待ってから様子を見ると、少しだけ収まったような気がした。
「あったかーい」
「それはよかった」
「ぽかぽかー」
「寝癖はこうして直すんだ。覚えとけよ」
「んー」
なんだか語尾がふわふわしている。まだ眠たいのだろうか。何度も蒸しタオルで髪を押し付けていると、いつの間にか小さな寝息が聞こえてきた。
覗き込むと、案の定ぐっすり眠っている。右手にはしらたきを握りしめ、俺にもたれかかったまま器用に寝こけていた。
「うにゅー……すぴ……」
「これじゃ本当に子猫だな」
ようやく収まりつつある髪を撫でて、寒くないよう毛布をかけてやる。しょうがない、今日の朝ごはんはもう少し待ってやるか。
おみが目覚めるまで暖炉に火でも入れておこう。少しでも暖かい場所で眠れるように。
「俺も甘いなぁ、大概」
何かしらいい夢を見ているのだろう、口元を緩めながらうにゃうにゃ呟いているおみの頭をそっと撫でてやった。
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