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雨の名月【11月短編】
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「えっと、どんぐりと、まつぼっくりと」
「相変わらず上手いなぁ」
「ふふん!」
座敷の大きな机にカレンダーの裏を広げ、熱心にクレヨンを滑らせるおみの隣で文庫本をなんとはなしに読み進める。換気のために開けていた窓はそろそろ閉めようかな。昼間は日差しがあって気温が高く感じるが、夕方が近づくと途端に冷たい風が吹き込んでくる。
しかし、相変わらずおみは元気いっぱいで、昨日あれほど遊び尽くしたというのに今日も外で走り回っていた。ひとしきり遊んだ後、残り物のかぼちゃコロッケを乗せたカレーを食べ、今はお絵描きに夢中になっている。
「そういえば、焼き芋も食べたな」
「さかぐちのおいも!」
「あの時お腹がまん丸になるまで食べてたよな」
「おいしかったから」
あの甘さを思い出したのかじゅるりと音がした。どれだけ食べるつもりなんだ。そんな心配をよそに、おみは黄色のクレヨンで焼き芋を描き始める。
相変わらず、絵が上手い。
「あとは、いじゅもにいった!」
「出雲、な」
「いずも」
「そうそう」
記憶は曖昧になると言っていたが、どこに行ったかはちゃんと覚えていたらしい。本番は今月だが、下見も無駄ではなかったようだ。
描かれているのは食べ物ばかりのようだが。
「これは?」
「おそば!」
「この丸いのは?」
「おやきー!」
なるほど。やっぱり食べ物に勝るものはないということか。などと思っていたが、ちゃんと三つ勾玉や海の風景を描いているので安心した。
特に海の絵は、何色もクレヨンを使って描きこんでいる。あの美しさを再現しようとしているんだろう。
「それと、はろいんもした!」
「ハロウィン」
「はろいん?」
「……うん、まあいいや」
おみが楽しそうだから気にしないでおこう。
「これはちびちゃん、こっちはしらたき」
「ちゃんとマフラーしてるんだな」
「そう! あと、さかぐちとおだしゃ」
「似てるな」
「で、りょーたとおみ!」
最初は真っ白だったカレンダーの裏紙は、いつの間にかたくさんの色でいっぱいになっていた。真ん中にはみんなの笑った顔が並んでいる。
おみは字が書けないから、こうして絵を描くことで思い出を残している。先月も、おみにとって楽しい日々だったのかな。そうだとしたら、俺も嬉しい。
「今度、新しいクレヨン買って来ような」
「わーい!」
小さくなった橙色のクレヨンを握ったまま、おみはぴょんと飛び跳ねた。
銀色の尻尾が楽しそうに揺れていた。
「相変わらず上手いなぁ」
「ふふん!」
座敷の大きな机にカレンダーの裏を広げ、熱心にクレヨンを滑らせるおみの隣で文庫本をなんとはなしに読み進める。換気のために開けていた窓はそろそろ閉めようかな。昼間は日差しがあって気温が高く感じるが、夕方が近づくと途端に冷たい風が吹き込んでくる。
しかし、相変わらずおみは元気いっぱいで、昨日あれほど遊び尽くしたというのに今日も外で走り回っていた。ひとしきり遊んだ後、残り物のかぼちゃコロッケを乗せたカレーを食べ、今はお絵描きに夢中になっている。
「そういえば、焼き芋も食べたな」
「さかぐちのおいも!」
「あの時お腹がまん丸になるまで食べてたよな」
「おいしかったから」
あの甘さを思い出したのかじゅるりと音がした。どれだけ食べるつもりなんだ。そんな心配をよそに、おみは黄色のクレヨンで焼き芋を描き始める。
相変わらず、絵が上手い。
「あとは、いじゅもにいった!」
「出雲、な」
「いずも」
「そうそう」
記憶は曖昧になると言っていたが、どこに行ったかはちゃんと覚えていたらしい。本番は今月だが、下見も無駄ではなかったようだ。
描かれているのは食べ物ばかりのようだが。
「これは?」
「おそば!」
「この丸いのは?」
「おやきー!」
なるほど。やっぱり食べ物に勝るものはないということか。などと思っていたが、ちゃんと三つ勾玉や海の風景を描いているので安心した。
特に海の絵は、何色もクレヨンを使って描きこんでいる。あの美しさを再現しようとしているんだろう。
「それと、はろいんもした!」
「ハロウィン」
「はろいん?」
「……うん、まあいいや」
おみが楽しそうだから気にしないでおこう。
「これはちびちゃん、こっちはしらたき」
「ちゃんとマフラーしてるんだな」
「そう! あと、さかぐちとおだしゃ」
「似てるな」
「で、りょーたとおみ!」
最初は真っ白だったカレンダーの裏紙は、いつの間にかたくさんの色でいっぱいになっていた。真ん中にはみんなの笑った顔が並んでいる。
おみは字が書けないから、こうして絵を描くことで思い出を残している。先月も、おみにとって楽しい日々だったのかな。そうだとしたら、俺も嬉しい。
「今度、新しいクレヨン買って来ような」
「わーい!」
小さくなった橙色のクレヨンを握ったまま、おみはぴょんと飛び跳ねた。
銀色の尻尾が楽しそうに揺れていた。
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