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雨冷え【10月番外編】

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    こんにちは、しらたきです。お昼ご飯を食べたあともご主人さまはさかぐちさんのお手伝いです。もちろんぼくも一緒ですよ!
   午後からは、さきほど収穫した柿を干し柿にするとのことです。果たしてご主人さまは立派に勤めを果たせるでしょうか。なんだか少し心配です。
    というのも、朝からご主人さまは毛布をひっぺがされ、渋柿にかぶりつき、苦い秋刀魚の煮物を食べているからです。いつもだったらグズグズ泣きながらりょうたさんに抱きついて、甘えている頃だというのに。今は誰にも甘えられません。大丈夫でしょうか。
「おみ坊、ナイフは使えるか」
「あぶないからだめって言われてる」
「室生の坊め、過保護だな」
「かほご?」
「甘やかしてるとも言う。ほら、じゃあこっちをしてくれ」
    さかぐちさんに渡されたのは、ビニール紐の束でした。これで一体何をするのでしょう。
「俺が柿の皮を剥く。おみ坊はそれを紐で結んでくれ」
「うぃ」
「紐の両端に一つずつだ。いいな」
「だいじょーぶ」
    うんうん、これなら大丈夫そうです。ご主人さまは、とても手先が器用なのです。なんたってぼくのマフラーを作ってくれましたからね!
   さっそく作業開始です!
「むん、むん」
「へぇ、うまいな」
「むすぶのたのしい」
「そいつぁよかった。その調子でどんどんやってくれ」
    しゅるしゅる、まるで魔法のようにさかぐちさんは柿の皮を剥いていきます。それらをご主人さまが綺麗に結びつけていく様は、とても初心者とは思えません。
    かごいっぱいにあった柿たちはあっという間に干される準備ができていました。
「おみ坊、やけに静かだな」
「……このかき、にがいから」
「苦くなきゃ食う気だったのか」
「うにゅ……」
    この食欲、さすがとしか言いようがありません。お昼には大きなおにぎりを三つも食べたのに。
    元気いっぱいな証拠ですね。
「結び終わったら、軽く湯煎するぞ」
「あっためちゃうの?」
「干し柿にした時に甘くするためだ」
「ほほー」
    なるほど、このひと手間が大切なんですね。さかぐちさんはなんでもご存知です。さっそく台所でお湯を沸かすのかと思っていると、大きなブリキの筒のところまで柿を運ぶと言います。
    何をするのでしょう。
「この一斗缶で火を起こして、湯を沸かす。そのあと軽く湯煎をしたらすぐに干せる。楽ができるってわけだ」
「さかぐち、かしこいね」
「まあ、一応五穀豊穣のご利益があるからな」
     ごこくほーじょーとはなんでしょう。言葉の意味が分からず首を傾げます。ご主人さまも同じように首を傾げていました。
    よく分からないまま思案している間に、一斗缶の上に置かれていた鍋がグツグツと音を立て始めました。
「よーし、入れるぞ」
    沸騰したお湯に柿を入れていきます。ほんの数秒で引き揚げて、また次の柿を入れています。ご主人さまは、お湯につけられた柿をザルに入れる係です。
   本当ならご自分で柿を干したいのでしょうが、なんというか、その、少し身長が低いので届かないのです。ううむ、ぼくがもう少し大きければお手伝いできたのに!
「ねーさかぐち」
「あん?」
「なんで甘い柿をほさないの?」
「そりゃ、干し柿にしても甘くならねぇからだ」
「むむ?」
    ほう。なんとも不思議なことをおっしゃいます。元から甘いものを干せばもっと甘くなるわけではないのですか?    そのまま食べたら泣いてしまうほど渋いほうが、甘くなるのですか?
    ヒトの世界は難しいです。
「渋柿は干し柿にすると甘ァくなるんだ。中はトロトロに溶けちまうくらいにな」
「あーんなに渋いのに?」
「なんだってそうだろ。最初は少しくらい渋い方が後から甘くなる」
「むむー?」
     そうなのですか?    ご主人さまの作るほっとけーきは最初からふわふわで甘いですよ?    しらたきには難しい世界です。
    でも、さかぐちさんは気にせずどんどん柿を湯煎していきます。なんとも渋いお方です。
「室生の坊もそうだ。今は甘ぇかもしれんが、最初からそうじゃねぇだろ」
「りょーたはずっとやさしいよ」
「優しい……ま、そうかもしれんな」
「んむ?」
    難しいお話をしている間に、最後の柿がお湯に入れられました。あとは干すだけで美味しい干し柿になるそうです。
    完成したら、みんなで食べられるといいですね、ご主人さま!
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