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雨冷え【10月番外編】
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しおりを挟むさかぐちさんが作ってくれたお昼ご飯は、たくさんのお野菜が入っているお味噌汁と、握り立てのおにぎりでした。おにぎりの中身は梅干しとお漬物で、普段とは違うお味がするようです。
りょうたさんもお料理上手ですが、さかぐちさんもとてもお上手なようです。近くにあるお野菜やお味噌を適当に入れただけなのに、お味噌汁からは優しくてほっこりする香りがしていました。
いつもならお座敷で食べるそうですが、今日はこのあとすぐに畑に行くので縁側で食べます。ぼくもあったかいところでポカポカできるので嬉しいです。
「いただきまーす!」
「はいよ。焦らず食えよ」
お返事が聞こえないと思ったら、もうお口いっぱいにおにぎりを頬張っていました。炊きたてのご飯はツヤツヤで、一粒一粒が輝いているようです。
ご主人さまは大きなおめ目をまん丸にして、もぐもぐ必死にお口を動かしています。
お味の方はいかがですか? ご主人さま。
「おいしー!」
「そいつァよかった」
「うめぼしもおいしー!」
「それはうちで漬けたんだ。帰りに持ってくか」
「いる!」
あっという間に一つ目を食べ終えて、今度はお味噌汁です。はふはふしながら大きく切られたお芋を口に運んでいます。とても綺麗な黄色をしていて、きっと食べたら甘いんだろうなということが分かります。
ご主人さまは好き嫌いはそう多くはありません。基本的になんでも食べます。ぴーまん以外は。ぴーまんだけは嫌いなようです。今日はぴーまんがなくてよかったですね。
「おいももおいしー!」
「そんだけ美味そうに食ってくれると作り甲斐もあるな」
お味噌汁にはお芋だけではなく、玉ねぎも入っているようでした。ぼく、聞いたことがあります。お芋と玉ねぎの入ったお味噌汁は甘くなる、って。
もしかしたら、さかぐちさんは先程とても渋い柿を食べてしまったご主人さまのために、甘いお味噌汁にしてくれたんでしょうか。もしそうだとしたら、なんてお優しい方なんでしょう!
「おみ坊、これも食うか」
「んむ」
さかぐちさんが取り出したのは、小さなタッパーに入ったお魚の煮物のようなものでした。生姜で匂いを消しているようで、甘辛いお醤油の香りが食欲を誘います。
きっとこれもさかぐちさんの手作りなんでしょう。ああ、ただ見ているだけの自分が腹立たしい! ぐぬぬ、ぼくのかわりにたくさん食べてくださいね、ご主人さま!
「おさかな?」
「今が旬だ」
「ほほー」
お箸で一切れ、そっと取ってお口に入れます。もぐ、もぐ、と噛み締めたあと。
「に、にがいぃぃぃ……!」
あっという間に半泣きになってしまいました。なんということでしょう! このお魚は苦いようです!
「おみ坊にはまだ秋刀魚の苦味は早かったか」
「んみいぃぃぃい! さかぐち、いじわる!」
「そう怒るな。あとで甘い柿を剥いてやるよ」
「……むー」
半べそをかきながら、ご主人さまは大きなおにぎりにかぶりつきました。やれやれ。さかぐちさんにはまだ勝てそうにありませんね、ご主人さま。
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