このたび、小さな龍神様のお世話係になりました

一花みえる

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秋霖 【10月短編】

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    週明けから遠出をするということで、今日は過ごしやすい昼間の時間に庭の手入れをすることにした。夏の間に伸びた雑草を抜き取り、落ち葉を出来る限り掃き、一気に燃やして綺麗にする。
    本当は先月にしたかったが、ウカさんの結婚式などで遅くなってしまった。とはいえ、秋とはいえまだまだ残暑が厳しかったので、今くらいでちょうどいいのかもしれない。
「これはざっそう、これはしそ」
「見分けがつくのか」
「んー、だいたい」
「おみはすごいなぁ」
「ふふん!」
    それなりに広い畑に生えている雑草と、ある程度の区画を決めて植えた紫蘇やハーブたちは素人目には区別がつきにくい。しかしおみは躊躇いなく雑草だけを引き抜いていく。
    本当は掃き掃除を頼もうと思ったけれど、案外こっちのほうが向いているのかもしれない。
「ある程度たまったら奥に持ってきて。まとめて燃やすから」
「おいもは?」
「今日は無し」
「みぃ……」
    坂口さんの焼き芋に魅了されてしまったのか、あれ以来何かある度に「おいもやく?」と聞いてくる。上目遣いで小首をかしげる様はたいそう可愛らしいが、晩ご飯を残すこともあるので程々にしないといけない。
    悲しそうな顔を見る度にこちらの胸も痛む。なんて拷問だ。
「その代わり梨があるから」
「やったー!」
「単純だなぁ……」
    見事餌付けされたおみは、畑の隅に座り込んで黙々と雑草を抜き始める。集中しているのか、尻尾が何かを探るように動いていた。
    さて、俺は掃き掃除でもするか。辺りが木で覆われているから落ち葉の量がすごい。雨が降ると滑ってしまいそうだ。
「キリがないな……」
    掃いても掃いても風に乗ってヒラヒラと葉っぱが舞い落ちる。多少残ってしまうのはしょうがないとして、ある程度のところまで綺麗にしておこう。
    きっと来月の俺が頑張ってくれるはずだ。
「んみ、んみ……っ、ぴゃっ!?」
「おみ?」
    おかしな悲鳴が聞こえてきて、慌てて後ろを振り返る。何となく様子を見てみると、雑草を握ったまま思い切り尻餅をついたおみがいた。
    本人は自分の身に何が起きたのか理解出来ていなようだ。キョトンとしていた目が、うるうると潤み始めた。
    あ、これはまずいな。
「み、みえ、えええ……」
    間に合わなったか。おみの鳴き声が辺り一面に広がっていく。近くに走りよると、勢い余って見事な尻餅をついたおみが泣きわめいていた。
    抱きしめて膝に乗せるとまたみぇみぇ泣き始める。こんなので、本当に大丈夫なんだろうか。
「りょーた、みえぇぇ……っ」
    べそべそ泣き続けるおみの背中を撫でながら、どうかここを出る時くらいまでに、はちゃんと龍神様という自覚が持てますようにと、どこぞにいる神様に祈っていた。
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