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天泣【9月長編】
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新しい着物にご機嫌なおみは、今日もしらたきと二人でコロコロ遊んでいた。織田さんが特別に作ってくれた服を着たしらたきも、どことなく嬉しそうに見える。
俺もそろそろ衣替えをしないとな。昔はそこまで気にとめなかったけれど、おみがこんなにも喜んでいるのを見ると服を選ぶことも悪くないと思う。
「しらたきーの、しーは、しあわせのしー」
「なにそれ」
「しらたきの歌」
どこか調子外れな歌が店先に響く。ああ、今日も平和だ。のんびりと文庫本をめくり、あふ、と欠伸を噛み締め。
のどかな秋の昼下がりを満喫しようとしていた時。
「リョータ……! 助けてくれ!」
「うわっ!? イネ!?」
店のドアを突き破らんばかりの勢いで、イネが飛び込んできた。切長の目が真っ赤に染まり、涙で潤んでいる。おみの影響で泣き顔に抵抗はないが、理由もわからずに泣かれることには動揺してしまう。
というか、店を壊そうとするな。
「どうしたんだ、いきなり」
「ウ、ウカが帰ってきたんだ」
「ああ、そういえば言ってたな」
「帰ってきたけど、ウカが……!」
涙で潤んだ声で、イネが叫んだ。
「結婚するって、言ったんだ……!」
「……はぁ」
それは青天の霹靂でも何でもない、よくある報告の一つだった。
「う、ううっ……おみちゃん、ありがとう……!」
「りょーた、この人こわい……」
「そうだな……」
おみが出したあったかい玄米茶を、ズビズビ泣きながら飲むイネは確かに一歩引いてしまう恐ろしさがあった。泣き虫のおみでさえ30分もすれば泣き止むことができる。なのにイネは、もう一時間近く泣き続いていた。
しかもお茶を飲みつつ、お菓子を食べつつ。見ていて忙しいことこの上ない。
「それで? ウカさんが結婚するって」
「そうなんだよ! 博多から戻ってきて、急にそう言い出したんだ! そんな素振り一度も見せたことなかったのに……!」
「お前に見せてなかっただけで、織田さんには言っていたかもしれないだろ」
「うぐぅ……そうなんだよなぁ……」
織田さんの性格からして、いきなり結婚、つまり店を出ることは簡単に許さないだろう。大事な働き手であり、可愛い眷属なのだ。よほどの理由がないと手放すことはないだろう。
でも、その織田さんが何も言わなかったということは。
「結構前から話はついてたと思うぞ?」
「うううー……ウカさん……そんな前から……」
おみと一緒に作ったカップケーキをフガフガ食べながら、イネはまたしても涙をこぼす。その様子にびびってしまったおみは、しらたきと一緒に俺の背中に抱きついていた。
大丈夫だよ、おみ。こんな変な人はそうそういないから。
「だいたい、ウカさんが結婚しようとお前には関係ないだろ」
「関係あるんだよ! 俺の初恋だぞ、初恋!」
「へぇ」
幼い頃からイネとは仲がいい。でも、誰が好きだとかそんなことは一度も話したことがなかった。しかしまさか、ウカさんが初恋だとは。
随分と高嶺の花を好きになってしまったものだ。
「なぁリョータ、俺、このままじゃどんな顔して店に戻ったらいいかわからないよ……」
「しょうがないな。今日の晩御飯、お稲荷さんを作ってくれたら助けてやる」
「お安い御用だ!」
「おいなりさん? 美味しい?」
左右から温度差の異なる声が聞こえてきたが、聞き流すことにする。俺としては幼馴染の初恋を綺麗に終わらせるため。そして、今日の晩御飯を楽して手に入れるため。何よりもそれが大切だった。
お揃いの着物を着たおみとしらたきを抱き上げ、イネに誘われるまま織田さんの店へと向かうことにした。
俺もそろそろ衣替えをしないとな。昔はそこまで気にとめなかったけれど、おみがこんなにも喜んでいるのを見ると服を選ぶことも悪くないと思う。
「しらたきーの、しーは、しあわせのしー」
「なにそれ」
「しらたきの歌」
どこか調子外れな歌が店先に響く。ああ、今日も平和だ。のんびりと文庫本をめくり、あふ、と欠伸を噛み締め。
のどかな秋の昼下がりを満喫しようとしていた時。
「リョータ……! 助けてくれ!」
「うわっ!? イネ!?」
店のドアを突き破らんばかりの勢いで、イネが飛び込んできた。切長の目が真っ赤に染まり、涙で潤んでいる。おみの影響で泣き顔に抵抗はないが、理由もわからずに泣かれることには動揺してしまう。
というか、店を壊そうとするな。
「どうしたんだ、いきなり」
「ウ、ウカが帰ってきたんだ」
「ああ、そういえば言ってたな」
「帰ってきたけど、ウカが……!」
涙で潤んだ声で、イネが叫んだ。
「結婚するって、言ったんだ……!」
「……はぁ」
それは青天の霹靂でも何でもない、よくある報告の一つだった。
「う、ううっ……おみちゃん、ありがとう……!」
「りょーた、この人こわい……」
「そうだな……」
おみが出したあったかい玄米茶を、ズビズビ泣きながら飲むイネは確かに一歩引いてしまう恐ろしさがあった。泣き虫のおみでさえ30分もすれば泣き止むことができる。なのにイネは、もう一時間近く泣き続いていた。
しかもお茶を飲みつつ、お菓子を食べつつ。見ていて忙しいことこの上ない。
「それで? ウカさんが結婚するって」
「そうなんだよ! 博多から戻ってきて、急にそう言い出したんだ! そんな素振り一度も見せたことなかったのに……!」
「お前に見せてなかっただけで、織田さんには言っていたかもしれないだろ」
「うぐぅ……そうなんだよなぁ……」
織田さんの性格からして、いきなり結婚、つまり店を出ることは簡単に許さないだろう。大事な働き手であり、可愛い眷属なのだ。よほどの理由がないと手放すことはないだろう。
でも、その織田さんが何も言わなかったということは。
「結構前から話はついてたと思うぞ?」
「うううー……ウカさん……そんな前から……」
おみと一緒に作ったカップケーキをフガフガ食べながら、イネはまたしても涙をこぼす。その様子にびびってしまったおみは、しらたきと一緒に俺の背中に抱きついていた。
大丈夫だよ、おみ。こんな変な人はそうそういないから。
「だいたい、ウカさんが結婚しようとお前には関係ないだろ」
「関係あるんだよ! 俺の初恋だぞ、初恋!」
「へぇ」
幼い頃からイネとは仲がいい。でも、誰が好きだとかそんなことは一度も話したことがなかった。しかしまさか、ウカさんが初恋だとは。
随分と高嶺の花を好きになってしまったものだ。
「なぁリョータ、俺、このままじゃどんな顔して店に戻ったらいいかわからないよ……」
「しょうがないな。今日の晩御飯、お稲荷さんを作ってくれたら助けてやる」
「お安い御用だ!」
「おいなりさん? 美味しい?」
左右から温度差の異なる声が聞こえてきたが、聞き流すことにする。俺としては幼馴染の初恋を綺麗に終わらせるため。そして、今日の晩御飯を楽して手に入れるため。何よりもそれが大切だった。
お揃いの着物を着たおみとしらたきを抱き上げ、イネに誘われるまま織田さんの店へと向かうことにした。
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