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秋時雨【9月短編】

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  気づけばもうすぐ十五夜だ。毎晩、少しずつ大きくなっていく月が夜空を明るく照らしていることに気がついた。
    昔は祖父と一緒に十五夜を楽しんでいた。ススキを飾って、お団子を作り、月見うどんを食べていた。とりたてて大きなイベントではなかったが、心が穏やかになる感じがして好きだった。
     そして、おみと暮らし始めた今。
「お月見、するか」
「するー!」
    もう一度、月を見て楽しむ余裕が生まれていた。

    お月見に欠かせないのは、何がなくともススキである。近くの山に行けばたくさん生えているので、そこからいくつか拝借する。お月見の時にしか使われない花瓶を発掘し、綺麗に洗って乾かしている。その間に、俺とおみはススキを見つけに行くのだ。
    今日もおみは、しらたきを背中に括り付け、浮かれながら歩いている。そんな風に歩いていたら転ぶぞ。
「りょーた、あれ、すすき」
「ほんとだ。じゃあいくつか取っていくか」
「おおー」
    花瓶の大きさに合わせてパチンと切っていく。この山は祖父のものだから好き勝手できるから便利だ。奥に行けば滝もあるし、池もある。
    まあ、修行のために存在している山なんだから当然なんだけど。
「ふわふわ」
「綺麗だよな」
「むむー」
    妙な声で鳴いているおみを横目に、予定よりも多めにススキを採取した。持ってきた風呂敷いっぱいに入れると、ふわふわの毛玉みたいになっている。
    さて、帰ったらお団子の用意だ。それから夜は月見うどんにしよう。おみには、あまりお団子を食べすぎないよう言っておかないと。
「おみ、帰るぞ」
「ふゆ、むん」
「おみ?」
    ふと振り返ると、先程と同じ場所でおみがぴょんぴょん飛び跳ねていた。しらたきの尻尾が、おみの尻尾と同じようにぴこぴこ揺れている。
    遠目から見ると謎の毛玉が跳ねているみたいだ。
「何してんの……」
「ゆらゆら、するから、なんか、ぴょんぴょんしちゃう」
「そっかぁ……」
    揺れるものを見たらつい追いかけてしまうのだろうか。なんだろう、おみが子猫のように思えてきた。
    紛れもなく龍神様なはずなのに。
「うにゅ、にゃう」   
    鳴き声まで子猫っぽく聞こえてきた。
「ここで遊んでてもいいけど、お団子無しになるぞ?」
「や、やだ!     かえる!」
「よしよし」
    遊びすぎたせいで少し汚れた頬を拭いながら、二人でのんびり帰路へと着いた。
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