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小夜時雨【8月長編】
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しおりを挟むおみを見送って、二時間ほどが経っただろうか。そろそろ俺の集中力も切れそうになった頃、ようやくおみが戻ってきた。
どこか不思議そうな顔をしたまま、俺を見つけた途端駆け寄ってくる。どことなく、目がぼんやりしていた。
「疲れたか?」
「んー……変な感じがする……」
「久しぶりだったもんな、龍になったの」
「うん」
尻尾も角も隠れていることを確認して、結界を解いた。龍神様同士で話をする時、人型を保ったままのこともある。でも、やはり気兼ねないのは本来の姿である龍になることだろう。
おみは人型を保つ方が多いため、龍の姿に戻ることに慣れていないのだ。
「りょーた、これもらった」
「ん?」
小さくてふにふにした手には、金色の何かが握られていた。これって、もしかして。
「おみ、これ、鱗か?」
「うん。たぶん」
「えええ……」
龍の鱗なんて貴重すぎてそれだけで神社が建てられるレベルなのに。それを初めて会って、しかもまだ子供のおみに渡すなんて。
それくらいおみは「特別」なんだと、今になって思い知らされた。
「た、大切にしような」
「ん」
こちらの動揺など気にもとめず、眠そうなおみは「だっこ」と甘えてきた。迷子になるよりはいいだろう。
ぽかぽかの体を抱き上げ、宿に帰るため歩き始めた。本当はここの龍神様とどんな話をしたのか聞きたかった。でもこの様子だと難しそうだ。
それは、家に帰ってからでもいいか。
「おつかれ、おみ」
「んー」
すでに半分寝ているような声がした。優しく背中を撫でると、次第にうにゃうにゃ言い始め、最後には穏やかな寝息に変わっていた。
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