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小夜時雨【8月長編】

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    そんなわけで、ようやく本番である。昨日は俺も疲れていたのか、簡単な食事(もちろん懐石料理)を終え、部屋に備え付けの風呂(もちろん天然掛け流し温泉)に入ったらすぐに寝てしまった。
    幸せすぎる。
    当然おみもヘソ天で寝こけていた。
   ところで、龍神様というのは全国各地に存在する。神社に祭られていることが多く、最近ではパワースポットにもなっているらしい。
    そして、うちのおみも龍神様なわけだが。如何せん、生まれて千年程度しか経っていない赤ちゃんのようなものなのだ。
「とりあえず街を歩こう」
「おさんぽ?」
「うーん、観光かな」
「かんこう……」
   観光もなにもない場所に住んでいる俺たちが、こうして有名な温泉地にやってきた理由。それは。
「ここの近くに龍神様を祭った神社がある。そこに行くぞ」
「おー!」
「ついでに近くの土産屋さんも見ていこう」
「おおー!」
    他の龍神様たちがどんな活躍をしたか。それを実地で学ぶためだった。
「いいか、尻尾と角は絶対に隠すこと」
「うぃ」
「変なものを見つけても口に入れないこと」
「うぃ」
「それと」
    期待でわくわくしているおみに、すっと右手を差し出した。
「はぐれないよう、俺の手を握っていること」
「はーい!      やったー!」
    ぎゅうと小さな手が握ってくる。よし、これで準備は整った。
「行くぞ、おみ」
「しゅっぱーつ!」
    晴れ渡った夏空の下、俺たちは課外授業へと出発した。
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