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向日葵の蕾の頃

向日葵の蕾の頃⑥

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「あっ」

その時、ちょうど葵先輩もちょうど靴を履き替えてる所が目に入る。

向こうは気づいてないようなので、何となく気まずくて下駄箱の影に隠れた。

「そこで何してるの?」

様子を見ようとすると葵先輩の声がして、ビクッとした。

「バレたか」

「何やってるのよ、蓮乃」

え?

思わぬ登場人物にそっと顔を出した。

「葵ちゃんに会いに来た」

「先輩」

「葵ちゃん先輩に会いに来た」

「ちゃんはいらない」

「……?葵ちゃんは葵ちゃんだもん」

「はぁ……。学校ではちゃんとする、ていう話だったでしょ。授業態度が悪いせいで補習にもなるし」

「ひゅーぷひー」

蓮乃の口笛吹けないんだ……。

葵先輩はまた呆れたように溜息をついた。

二人って知り合いなのかな。

「それで、何か用?」

「ん?うーん、ストーキング?」

「止めなさい」

「嘘、コンビニ」

蓮乃は左手に下げていたビニール袋を掲げる。

「ちゃんと、栄養のあるもの食べなさいよ。食堂があるんだから」

「お菓子は栄養満点」

またお菓子でお昼済ませようとしてるよ。

ボクも注意してるのに、せめてお菓子じゃないのも食べなって。

いつも無視されるけど。

「大きくならないわよ」

「うぐっ」

どこがとは言わないけど、胸の下で腕を組んだ先輩の一言は蓮乃にクリティカルヒットした。

「……っ!」

そしてボクにも流れ弾がきた。

べ、別に気にしてないし。

最近は同室に背も胸も大きい人がいるからやっぱり持ってる人は羨ましいとかそういうのないから。

ないから……!

誰へでもない言い訳を並べ立ててると、靴がタイルを叩く音がした。

「また生徒会?」

「そうよ」

「忙しい?」

「そうね」

「じゃあ、辞めよ?」

「辞めない」

「むー、全然話せない」

「……私は、ここに遊びに来てるわけじゃないのよ」

葵先輩は靴べらで踵を潰さないようにしっかり履く。

靴も手入れしてるのか、使ってる感じはあるけどすごく綺麗だった。

「さ、あなたもちゃんと今日の復習しなさいよ」

肩にかかった髪を払って蓮乃の方に歩き出す。

「はーい」

「そもそも……まぁ、いいわ。それじゃ、またね」

何かを言いかけて止めて、蓮乃から目を反らす。

「うん、またね、葵ちゃん先輩」

蓮乃の声はいつものフラットな感じより心持ち弾んでる様に聞こえた。

その背中が見えなくなるまで手を振っているようなので、そっとボクはその場を後にすることする。

いつも何事にも動じない、無表情、フラットボイスの蓮乃の珍しい一面が見れたな。

だけど、あの二人って昔からの知り合いなのかな。

今度訊いてみよっと。

ボクはとりあえず寮の自室へ戻ることにした。


部屋に戻って復習と予習をしてると、蓮乃が戻ってきた。

「ただいまー」

「おかえりー、どこか行ってたの?」

「ん、コンビニ」

「お昼は?」

「今、食べてきた」

「そっか」

「さくさく」

「ん?」

蓮乃はガサッと片手に提げたビニール袋を前に出す。

中身はお菓子のパッケージが透けて見える。

あれ、そう言えば……。

「食べない?」

「あー、んー、ボクもさっき食べたばかりだからなー……」

「そっか」

「それ、お昼ご飯用に買ったんじゃないの?」

「ち、違う……よ」

珍しく目を反らして歯切れの悪い答え。

「食後のデザート的な」

「でも、ボクにあげるって」

「うぅ、思ったより食堂のご飯多かった」

「ふーん」

「な、何?」

横目でこちらの様子を伺ってくる。

「別にー?いつもボクが言っても聞かないのにー、一人でちゃんと食堂で食べてどうしたのかなーって」

ここぞとばかりに蓮乃を攻めてみる。

「別に、何でもない。食べないならお腹空いたら自分で食べるから良い」

いつもより早口に言って、袋を掴み取ってパソコンの前に座り込んだ。

ふふーん。

蓮乃も可愛いところあるじゃん。

さっきの会話を見てたから気づいた違和感。

きっとそれだけ蓮乃にとって葵先輩は大きな存在なんだって分かった。

「じゃあ、ボクもお腹空いたら貰うね」

「嫌、もう上げない」

「えー、ケチー」

「嘘」

「ふふふ」

「何で笑うの?」

「蓮乃が珍しく笑ってるから」

「え?」

それはきっと同じ部屋で数ヶ月過ごしてきたボクだから気づくぐらいの微妙な表情の変化。

それだけじゃなく、纏う空気から嬉しさが滲んでた。

本人は備え付けの姿見を見ながら、疑問符を浮べてほっぺをムニムニしてるけど。
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