英雄の孫は見習い女神と共に~そしてチートは受け継がれる~

GARUD

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創生の杖

9 孫、兄の攻略法を考える!

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 俺は舞台袖から従兄であるバスク兄さんの戦いの一部始終を逃すことなく脳裏に焼き付け、今は選手控室で今の戦いを考察している。

 開始すぐの攻防、決められた演舞のような動きには驚かされた。主に対戦相手の実力にだが。

 まさかバスク兄さんの雷のような上段からの一撃を、俺たち一家以外にも見え、あまつさえ受け流す事が出来る者が居たとは。

 そして、さらにそこからの鋭い反撃にも驚いたが、バスク兄さんも凄い。あの貫手を慌てる事なく回避と同時に攻撃するんだからな。

 まぁ、ここで暗殺拳のなんちゃらが後方に引いたのが結果的に負けへと繋がったと俺は見た。

 後方に引いたのを見たバスク兄さんは、余裕をもって大振りの一閃、そして追撃のニ閃。

 これはバスク兄さんの作戦だったのだ。
 極端に冷やされた空気に、今度は真逆の熱気を当てる事で、水蒸気を発生させた。

 舞台の袖から見ていた俺でさえ、バスク兄さんが生み出した水蒸気に、バスク兄さんの姿が歪んで見えたのだ。正面から相対している暗殺拳のヤツは、きっとバスク兄さんの姿を見失うか、ブレて二重三重にも見えたに違いない。

 結果、動揺しているところへ足元を狙った鋭い横薙ぎの攻撃。

 これは後方に下がって避けるのが最適解なのだろうが、すでに暗殺拳のヤツは舞台の端付近まで追い詰められていた。

 下がれず、やむなく剣をギリギリのところで跳んで回避することを選択……いや、強制させられたのだ。

 結果、予定調和のように放たれたニノ太刀が暗殺拳の足を刈ってノックアウト。

 バスク兄さんが剣の腹で叩いたから舞台から転がり落ちる程度で済んだが、実際に斬りつけられたら足は切断、炎の剣だったから斬られた部分は炭化して回復も見込めなかったかもしれない。

「必殺剣!って大声で叫ぶだけはあるなぁ……しかも──」

 後方に逃した辺りからは全て兄さんの作戦通りだったのでは?と思うのは俺の考え過ぎだろうか?

 戦いの結果を考察している間に、選手控室にバスク兄さんが戻って来た。

「どうだグレイブ。俺の二刀流は?中々に様になっていただろう?」
「兄さんはなんだかんだと、毎回趣向を変えてくるけど、そのどれもが高いところで安定してて凄いよね」
「そうだろう!そうだろう!」
「あの水蒸気を瞬間的に出した時は舞台袖からでも兄さんがブレて見えたよ」
「あれは対サーリア用の目くらましに用意したんだけどな。相手がかなりの使い手だったもんで、つい使ってしまったんだ」
「そして超低空からの必殺剣?あれも凄いよ。俺ならどうやって回避するかなって今必死に考えてるところだよ」
「ああ。二の足殺し改な。あんなの爺さんのアレンジでしかないし、そもそも爺さんなら二の足殺しそのものを回避させないからなぁ……必殺なんて言ってるけど欠陥品だよ」
「いやいや、外から見てると分かるけど、あれはかなり凶悪だよ?確かに一撃目は俺もなんとでもすると思うけど、追撃がどうにも回避しきれるイメージが湧かないね」
「そうか?」
「そうだよ。暗殺拳の人は跳んでダメ、後方に逃げると想定しても、追撃が横薙ぎから突きになるだけだろうし……」
「その突きを回避出来たらどうだ?」
「右に避ければ左の背面回転斬り、左に避ければ左からの下段袈裟斬り……って詰んでんじゃん!終わりが見えないよ!」

 頭を掻き毟る俺を兄さんは、楽しそうに口を歪ませてヒントをやるよと言って言葉を繋げた。

「二刀流ってのは防御を捨てた攻撃特化のスタイルだ。一度攻撃に転じたら止まらない」
「ヒントなのそれ?……なんだか今までで一番厄介な武器だよ……」
「はは!まぁどっちみち、片手剣でも、無手でも、仮に大剣や槍、斧だろうが俺はお前には負けないさ」
「厶ッ!」
「よく言うだろう?兄より優れた弟など居ない!とさ。それに、二の足殺し改程度を破れないようでは俺の勝ちは揺るがないぜ?」

 馬鹿にされて目を吊り上げる俺に、兄さんはくつくつと余裕の笑みを浮かべている。

「ちぇッ……やっぱりバスク兄さんはカッコいいな。憧れるよ」
「そうだろう!ハッハッハッ!」
「なのになんでモテないんだろうね」

 俺がちょっとした意趣返しのつもりで放った一言に、兄の浮かべた笑みが凍り付く。

「エレイラお婆ちゃんがさ『そろそろバスクに結婚させないとなぁ。見合いでもさせるか』なんて言ってたよ?」
「そ、そうか!見合いもいいな!……ところで、写真は見たか?」
「う~ん……売れ残りのマダムと豚獣人っぽく見えるけど人ってのとヒゲ生えた女っぽいなにか……」

 お見合いの話こそ本当だが、女の話は全くの嘘。
 しかし、兄さんは俺が女たちの様相を列挙していく内に、想像でもしてしまったのか、顔色が徐々に青くなっていく。

「──うん。大会終わったら旅に出よう」
「その内駆り出されたお爺ちゃんに捕まって強制結婚とかさせられそうだね」
「くそおおお!なぜだぁぁ!なぜ貧弱で軟弱で雑魚なお前がモテるのにいい!俺には美女の一人も寄り付かないんだぁぁぁ!」

 そう叫んでいる所に、対戦相手であった暗殺拳の使い手が治療を終えて控室に荷物を取りに来た。
 それを見つけた兄さんは、ダダダッ!と駆けていき、両肩を掴んで助けを乞い始めた。

「おお!ガラン!なぜ俺はモテないんだ?!先程戦った仲として、ぜひ教えてくれないだろうか!」
「ばッ!離せッ!」
「そんな事を言うな!男同士の友情に免じて!どうか!どうかぶらかだぶろ……」

 兄さんは発狂の余り暗殺拳の……ガランっていうのか。の肩を抱いて激しく前後に揺らした為、怒りのオーラを纏った彼に股間を蹴り上げられていた。

「この色情狂め!」

 ガランはそう言って肩を怒らせて、フン!と鼻を鳴らして去って行ってしまった。
 
 

 

 

 
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