英雄の孫は見習い女神と共に~そしてチートは受け継がれる~

GARUD

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ラヴィア公国と発生した魔物

14 孫、お義母様に迫られる!

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 俺のプロポーズ事件は光の速さでラヴィア公国内に伝播した。
 その原因は至って単純だ。
 俺の迫真?の演技というか、ドッキリにまんまと騙されたカスミが、泣きながら母親である皇太子妃様の部屋に駆け込んで報告したからに他ならない。

『グデビブが……げっご……しでうれるって……』
『え?カスミ……少し落ち着きなさいな』
『ぐす……グレイブが……ぐすッ……結婚しようって言ってくれたの……』
『まぁ!グレイブって確かイザベラ様のお孫さんでしょ?記念祭で迷子のカスミに良くしてくれたっていう』
『わだじ……じぁわせに……幸せになぃます!』
『……こうしては居られないわ!グレイブの気が変わらない内に婚約……いえ!結婚式よ!』

 というようなやり取りを、カスミが駆け込んだ部屋の外で、聴覚を強化した俺が盗み聞き、慌てふためいていると、わらわらと現れた衛兵にとっ捕まり、とある部屋へと投げ込まれた。

『ここは……』

 投げ込まれた部屋は薄暗く、周囲に視線を向けても何があるのか分からない。ただ、強い錆びた鉄の臭いを感じる。

 しばらくして、ガチャリとドアが開かれ、そこから光が入ってきた。
 逆光に目を細めて入ってきた人を確認する。

『グレイブ。盗み聞きとは関心出来ないわね?』
『叔母さん?』
『ふふ。これからはお義母さんになるのよ?』

 薄ぼんやりと見えたのはカスミの母親である皇太子妃様でお爺ちゃんの娘の一人、セリアさんだった。

『あの……ここは一体?というかこの鎖解いて貰えないですか?』

 そう。俺は現在鉄の鎖でぐるぐる巻になっている。縄程度なら引き千切れると思われたのか、ご丁寧に鉄の鎖で巻かれて足には鉄球という重りが着けられている。完全に極悪な犯罪者の扱いだ。

『グレイブ?あなたがカスミにプロポーズしたと言うのは本当ですか?』
『あ……いや……なんと申しますか……』
『まさか、一国の姫に冗談でプロポーズしたんですか?帝国の重鎮の、貴族の息子が?』
『いえ……そんな……つもりは……』
『そうですよね?冗談なんて事は、ないとは思っていましたが、もしも冗談であったなら、私の娘を泣かせたバツとして、指の2~3本でもと準備していたのですけど、使わなくて済みそうで、私はホッとしましたよ』

 そう言って、セリア叔母さんはパチン!と指を弾くと、部屋に明かりが灯り、周囲に散りばめられた、そういったいかがわしい道具が浮き彫りになる。

『これがそうなんですけど……ここに手を嵌めて……こうやって小さなギロチンを振り下ろすんですよ?ウフフ』

 コロコロと笑いながら裁断機の説明をしてくれるセリア叔母さんだが、目が笑ってない。どうやら俺とルカとのやり取りも、どこからか間諜が覗いていて、この人に報告が入っているのだろう。
 俺のちょっとした冗談をカスミが本気にしてしまったであろう事も……

『それで?カスミはもらって頂けるということでいいのよね?』

 セリア叔母さんはモニカお婆ちゃん譲りの黒い瞳を妖しく輝かせ、ニンマリと俺に笑いかけてくる。
 とても30過ぎたおばさんとは思えない美貌だが、今はその美貌が恐ろしい。
 セリア叔母さんの視線がチラッと動いた先を俺も追うと、そこには背中が三角系の形をした馬を模した何かに固定器具……張り型の棒や乗馬用の鞭に細長い針などがゴロリと転がっていて、俺の恐怖心を煽りに煽る。
 結果──

『カスミお嬢さんを一生大切にしたいと思ってますです!』

 そうヤケクソ気味に吠えた俺に、セリア叔母さんは満足げな顔で頷いて、部下に命じてようやっと俺を降ろして解放してくれた。
 ホッと息を吐いた俺に、セリア叔母さんはそっと近づいて、耳元に息を吹きかけるようにして、甘ったるい声でこう言った。

『カスミが一番目の姫になるなら、別に何人の愛人や姫を囲っても構いませんからね?』
『え?──』

 まさかの叔母さん直々の一夫多妻オッケーを頂けるとは思わなかった俺は、希望の光が差し込んだ!と顔を上げようとした直後──

『でも……カスミが一番ではなくなった場合は……ね?』

 そう言ってすぅ─と動かされた視線を追うと、鉄の棺のような物体の内部に、棘が無数に付けられた物体で止まっていた。

『あれね……あの中に人を入れて蓋を閉めると……蓋の棘と中の棘にお肉がブスッて刺さってかなり痛いのよ?』
『アハ……アハハハハハ……』
『どうかしら?』
『全力で!カスミさんと夫婦の仲を育んで行きたいと思いますッ!これからはセリア様の事はお義母様と呼ばせて頂きます!』

 華麗な土下座を決めた俺は、無事にシャバへと帰還する事が出来たのだった。





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