英雄の孫は見習い女神と共に~そしてチートは受け継がれる~

GARUD

文字の大きさ
上 下
19 / 101
ラヴィア公国と発生した魔物

2 孫、親戚のねーちゃんにボコられる!

しおりを挟む
「さて、グレイブ。とりあえず剣の稽古から始めようと思うの」

 俺を訓練用の広場に連れ出したカスミは、両手用の大剣を肩に担ぎ、準備された巻藁に向かって

「思うのは構わないんだけど!俺を巻藁に縛ったままいい笑顔で剣向けるの止めてもらえます?!」
「なぜ?」
「何故もなにもあるかぁぁぁぁ!」

 カスミはその場に突き立っていた巻藁に、お手伝いさんを使って頑丈な鎖で俺を巻き付けていた。
 つまり、話し掛けられている巻藁とは俺の事だ。
 巻藁と同化した俺は開放するよう要求するが、当のカスミは首を傾げ、何故俺がそんな事を言っているのか分からないわ?といった様子で剣を構えている。
 
「五月蝿いわね」

 カスミはそう言ってギャンギャンとわめく巻藁に向け剣を水平に振るった。
 ビュゥン!という重い物が振るわれた音が俺の頭上で聞こえ、俺の股間がキュッ!と縮こまるのを感じる。

「ひぃぃ!今髪の毛が少し飛んでったぞ!それ!その剣本物だろ!殺す気か!」
「まぁ、私は訓練のつもりだけれど、不慮の事故で死ぬかもしれないわね」

 俺の抗議の声を涼しい顔で受け流したカスミは、剣を再び腰溜めに構える。

「不慮じゃなくて故意だろ!久々に会ったってのに何そんなに怒ってんだよ!」
「怒ってないわよ?たまには肉を斬らないと腕が鈍るかな?って思っていた所に、丁度良く試し斬りできそうな“お肉‘’が配達されてきただけの話だもの。それの何処に怒る所があるの?」
「お肉って俺のこと?!ねぇ!俺の事?!」

 ビュゥン!と今度は頭上から股間に向け、幹竹割り気味に振り下ろされた大剣が、俺を一切傷付けず、拘束する鎖のみを斬り落とした。
 正に薄皮一枚すらキレていない驚愕の一撃に、俺はブルリと身震いをする。

「お漏らしなんてしないでよ?」

 俺の恐怖から来た身震いを見て、そんな事を凍えるような視線を向けて言うカスミに、俺の心は浮足立つ。

「ねぇねぇ!なんかすっごい面白そうなんですけど!」

 ルカは助けに来るどころか、その光景を普通に楽しんでいた。
 ニコニコといい笑顔でカスミに話し掛けている。
 しかし、話しかけられているカスミの方は何処か不機嫌なオーラを漂わせていた。

「別に楽しくはないわ。ただのスキンシップだもの」
「スキンシップで殺されてたまるか!そんなんだからお前は婚期を迎えてもいい相手が居ないんだひょぁぁぁ!」

 セリフの途中で、強烈な殺気と共に振り下ろされた剣が俺の鼻先をかすり、唇にチロッと血が垂れてきた。

「グレイブったら。少し見ない間に生意気になったわよね……さては反抗期?」
「反抗期とか関係ないわい!このサド女!いい加減頭にキタぞ!」
「あら?頭にキタからってどうだって言うの?弱虫グレイブちゃん」

 ペロリと舌なめずりをするカスミに、俺はアイテムBOXから金魔騎士剣を取り出した!

「そんな口を利いているのも今の内だ!今の俺の実力を見せてやる!」
「グレイブがどーにか出来そうな相手じゃないと思うよー?」

 剣を構えて力を溜める俺を見て、ニヤリと口角を吊り上げるカスミとは別に、何処で手に入れたのか、いつの間にか焼き菓子を頬張っているルカが、そんなコメントを口にした。

「ルカ!お前少しは相方の応援しろよ!なに餌付けされてんのってうおお!あぶな!」

 ルカに目を向けているスキに、ビュゥンと横薙ぎ振るわれた剣をバックステップでなんとか回避した俺は慌ててカスミに向き直ると、カスミは激しく両目を吊り上げ、三日月に開いた口は怪しげな笑い声を発していた。

「んふふ。剣を抜いておいて油断して‘’相方‘’を見てるなんて余裕ね?」
「クソッ!気持ち悪い笑み浮かべやがって!」
「ああん?!誰の顔が不細工だってえええ!」
「一言も言ってねぇぇぇぇぇ!」

 ビュゥン!ビュゥン!と大剣を力任せに両手で振り回すカスミ。
 振る毎に遠心力が乗っていく斬撃は、さながら竜巻のよう。
 当たれば致命傷は確実な一撃に、俺はステップで回避を続ける。

「避けてばっかじゃ私には勝てないわよ!」
「ええい!うるさい!これでも喰らえ!〈エアトスハンマー〉」

 俺はスキル〈エアトスハンマー〉を発動させた!
 見えない風が集まって槌となり、不可視の強烈な打撃を打ち込むスキル。

 その打ち出された不可視の槌がカスミの大剣を弾く瞬間、俺はカスミの懐に飛び込み、駆け抜け様に剣の腹を脇腹に叩き込む……はずだったが、気が付けば俺は逆に顔面をカウンター気味に強打され、後ろへぶっ飛ばされていた。

「今のスキルはお爺ちゃんのね。いい使い方だったとは思うけど、動きが遅くてバレバレなのよ」
「ほらぁ~グレイブはセンスないんだから止めといた方がいいよ~」

 身を起こした俺に、カスミとルカの二人は口々に罵る……冷たいカスミの視線と呆れたようなルカの視線に晒され、ちょっぴりゾクリとキテしまう。

「なに殴られて頬染めてんのよ変態!」
「なんだと!俺は変態じゃない紳士だ!」
「でた名言……グレイブってお爺ちゃん好き過ぎでしょ……なんかヤル気失せちゃったわ」

 なんとかといった様子で立ち上がった俺を見て、カスミはそう言って「はぁ……」とため息を吐くと剣を下ろし、ルカへと視線を向けた。

「ねぇ、ルカちゃん?でいいの?」
「なぁに?」
「あんなお爺ちゃんバカ放っといてサロンに行かない?」
「ん?お菓子ある?」
「公国自慢のミルフィーユケーキを食べさせてあげるわ。甘くてとろフワで、何個でも食べれちゃうのよ」
「おおおお!なんだか分かんないけど行くーー!」

 そうして、満身創痍の俺を放置して二人はさっさと歩いて行ってしまった。

「……なんだか心配して損しちゃったかな」

 去り際に、そうボソリとカスミが呟いたのを俺の強化された聴力が拾った。一体なんの事やら……





 




しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...