英雄の孫は見習い女神と共に~そしてチートは受け継がれる~

GARUD

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ラヴィア公国と発生した魔物

2 孫、親戚のねーちゃんにボコられる!

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「さて、グレイブ。とりあえず剣の稽古から始めようと思うの」

 俺を訓練用の広場に連れ出したカスミは、両手用の大剣を肩に担ぎ、準備された巻藁に向かって

「思うのは構わないんだけど!俺を巻藁に縛ったままいい笑顔で剣向けるの止めてもらえます?!」
「なぜ?」
「何故もなにもあるかぁぁぁぁ!」

 カスミはその場に突き立っていた巻藁に、お手伝いさんを使って頑丈な鎖で俺を巻き付けていた。
 つまり、話し掛けられている巻藁とは俺の事だ。
 巻藁と同化した俺は開放するよう要求するが、当のカスミは首を傾げ、何故俺がそんな事を言っているのか分からないわ?といった様子で剣を構えている。
 
「五月蝿いわね」

 カスミはそう言ってギャンギャンとわめく巻藁に向け剣を水平に振るった。
 ビュゥン!という重い物が振るわれた音が俺の頭上で聞こえ、俺の股間がキュッ!と縮こまるのを感じる。

「ひぃぃ!今髪の毛が少し飛んでったぞ!それ!その剣本物だろ!殺す気か!」
「まぁ、私は訓練のつもりだけれど、不慮の事故で死ぬかもしれないわね」

 俺の抗議の声を涼しい顔で受け流したカスミは、剣を再び腰溜めに構える。

「不慮じゃなくて故意だろ!久々に会ったってのに何そんなに怒ってんだよ!」
「怒ってないわよ?たまには肉を斬らないと腕が鈍るかな?って思っていた所に、丁度良く試し斬りできそうな“お肉‘’が配達されてきただけの話だもの。それの何処に怒る所があるの?」
「お肉って俺のこと?!ねぇ!俺の事?!」

 ビュゥン!と今度は頭上から股間に向け、幹竹割り気味に振り下ろされた大剣が、俺を一切傷付けず、拘束する鎖のみを斬り落とした。
 正に薄皮一枚すらキレていない驚愕の一撃に、俺はブルリと身震いをする。

「お漏らしなんてしないでよ?」

 俺の恐怖から来た身震いを見て、そんな事を凍えるような視線を向けて言うカスミに、俺の心は浮足立つ。

「ねぇねぇ!なんかすっごい面白そうなんですけど!」

 ルカは助けに来るどころか、その光景を普通に楽しんでいた。
 ニコニコといい笑顔でカスミに話し掛けている。
 しかし、話しかけられているカスミの方は何処か不機嫌なオーラを漂わせていた。

「別に楽しくはないわ。ただのスキンシップだもの」
「スキンシップで殺されてたまるか!そんなんだからお前は婚期を迎えてもいい相手が居ないんだひょぁぁぁ!」

 セリフの途中で、強烈な殺気と共に振り下ろされた剣が俺の鼻先をかすり、唇にチロッと血が垂れてきた。

「グレイブったら。少し見ない間に生意気になったわよね……さては反抗期?」
「反抗期とか関係ないわい!このサド女!いい加減頭にキタぞ!」
「あら?頭にキタからってどうだって言うの?弱虫グレイブちゃん」

 ペロリと舌なめずりをするカスミに、俺はアイテムBOXから金魔騎士剣を取り出した!

「そんな口を利いているのも今の内だ!今の俺の実力を見せてやる!」
「グレイブがどーにか出来そうな相手じゃないと思うよー?」

 剣を構えて力を溜める俺を見て、ニヤリと口角を吊り上げるカスミとは別に、何処で手に入れたのか、いつの間にか焼き菓子を頬張っているルカが、そんなコメントを口にした。

「ルカ!お前少しは相方の応援しろよ!なに餌付けされてんのってうおお!あぶな!」

 ルカに目を向けているスキに、ビュゥンと横薙ぎ振るわれた剣をバックステップでなんとか回避した俺は慌ててカスミに向き直ると、カスミは激しく両目を吊り上げ、三日月に開いた口は怪しげな笑い声を発していた。

「んふふ。剣を抜いておいて油断して‘’相方‘’を見てるなんて余裕ね?」
「クソッ!気持ち悪い笑み浮かべやがって!」
「ああん?!誰の顔が不細工だってえええ!」
「一言も言ってねぇぇぇぇぇ!」

 ビュゥン!ビュゥン!と大剣を力任せに両手で振り回すカスミ。
 振る毎に遠心力が乗っていく斬撃は、さながら竜巻のよう。
 当たれば致命傷は確実な一撃に、俺はステップで回避を続ける。

「避けてばっかじゃ私には勝てないわよ!」
「ええい!うるさい!これでも喰らえ!〈エアトスハンマー〉」

 俺はスキル〈エアトスハンマー〉を発動させた!
 見えない風が集まって槌となり、不可視の強烈な打撃を打ち込むスキル。

 その打ち出された不可視の槌がカスミの大剣を弾く瞬間、俺はカスミの懐に飛び込み、駆け抜け様に剣の腹を脇腹に叩き込む……はずだったが、気が付けば俺は逆に顔面をカウンター気味に強打され、後ろへぶっ飛ばされていた。

「今のスキルはお爺ちゃんのね。いい使い方だったとは思うけど、動きが遅くてバレバレなのよ」
「ほらぁ~グレイブはセンスないんだから止めといた方がいいよ~」

 身を起こした俺に、カスミとルカの二人は口々に罵る……冷たいカスミの視線と呆れたようなルカの視線に晒され、ちょっぴりゾクリとキテしまう。

「なに殴られて頬染めてんのよ変態!」
「なんだと!俺は変態じゃない紳士だ!」
「でた名言……グレイブってお爺ちゃん好き過ぎでしょ……なんかヤル気失せちゃったわ」

 なんとかといった様子で立ち上がった俺を見て、カスミはそう言って「はぁ……」とため息を吐くと剣を下ろし、ルカへと視線を向けた。

「ねぇ、ルカちゃん?でいいの?」
「なぁに?」
「あんなお爺ちゃんバカ放っといてサロンに行かない?」
「ん?お菓子ある?」
「公国自慢のミルフィーユケーキを食べさせてあげるわ。甘くてとろフワで、何個でも食べれちゃうのよ」
「おおおお!なんだか分かんないけど行くーー!」

 そうして、満身創痍の俺を放置して二人はさっさと歩いて行ってしまった。

「……なんだか心配して損しちゃったかな」

 去り際に、そうボソリとカスミが呟いたのを俺の強化された聴力が拾った。一体なんの事やら……





 




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