上 下
4 / 101
プロローグ

4 孫、英雄の秘密を知る!

しおりを挟む
「グレイブ。話がある」

 俺がサロンでイザベラお婆ちゃんと、もう一人のお婆ちゃんであるエレイラお婆ちゃんと一緒にお茶会をしていると、話を終えたのか、険しい表情のお爺ちゃんとルカが現れた。

 お爺ちゃんとルカを見て、エレイラお婆ちゃんは「はぁ……」と軽く息を吐き、ジト~とした視線をお爺ちゃんに向ける。

「コウタ……またどっかで子供を作って来たのか?」
「違うわ!まったく……お前といい、イザベラといい、なんで俺の下半身はこんなにも信用がないんだ!」
「あ?信用してるぞ?もちろん悪い意味でだがな」
「ぐぬぬ……」
「いい意味で信用して欲しいなら夜の店に遊びに行くのを控えたらどうだ?」
「よよ夜のお店なんていいい、行ってないしぃ!」
「そうだな。行ってないな。まぁ、まだ昼だしな」

 めちゃくちゃ棘のあるセリフに場が凍りつく。正直めちゃくちゃ居辛い!ルカの方にチラリと視線を向ければ、やはり居辛いのか、ソワソワして右に左にと視線を投げている。

「とと、とにかく!グレイブは俺と来い。イザベラ、ルカの事をしばらく任せる。エレイラに説明して、メルやモニカに拡散しておいてくれないか?」
「はぁ……わかりました」

 いつも優しいお爺ちゃんは、今までにないほどの強い口調でアレコレと指示を出した後、俺達はお爺ちゃん専用の訓練場へと移動した。

「グレイブ……お前、俺みたいな英雄になりたい!って昔から言っていたが……今もその気持ちに変わりはないか?」

 専用訓練場に入り、俺を備え付けの椅子に座らせたお爺ちゃんは、一人だけ立って、窓の外を眺めながらそう言った。
 この問に、俺の返事は決まっている。俺は立ち上がり、燃えるような思いの丈をお爺ちゃんにぶつける!

「変わらないよ!俺の夢は今でもお爺ちゃんのような……いや、お爺ちゃんを超えるような英雄になりたい!それ以外ないんだ!」
「ふむ……ならばお前にこの件を預けるとするか……」

 そう言ってお爺ちゃんは、先程ルカが手渡していた手紙を俺に見せる。

「創生の杖?──この杖というのはそれ程に大事な物なんですか?」
「大事もなにも、全ての世界を支配し、操り、新たな生命を生み出す事が出来る神々の中でも唯一無二の杖という話だ」

 首を傾げる俺にお爺ちゃんは、なんだか疲れた顔でそう説明する。

「めちゃめちゃ大事じゃないですか!」
「そうだ。それを馬鹿な夫婦が盗られてしまったらしくてな……その盗った犯人を探し出して杖を取り返す──というのをお前にやってもらいたい」
「え?!でも……それって俺なんかでどうにかなるんですか?……手紙じゃ魔王がやられたとか書いてありますけど……」

 俺は正直お爺ちゃんがやった方がいいんじゃ?と言った。当たり前だ。ちょこっとお爺ちゃんに稽古してもらっていただけの俺なんかが、とても魔王を出し抜いた奴と渡り合える訳がない。
 そういうニュアンスを込めたセリフだったのだが……お爺ちゃんはスッと目を細めて俺を見た。

「だからこそ……今からお前に俺の強さの、英雄の秘密を明かそう」

 そう言ってニヤリと笑うと、お爺ちゃんの頭に突如、三日月の飾りが付いた兜が出現した。

「その兜は……」
「じっとしていろよ?」

 俺が驚きとともに、その兜の意匠に見惚れていると、お爺ちゃんは兜の三日月の飾りに手を掛けて、バキッ!と外して俺目掛けてブーメランの要領で投げ付けた!

「うわッ!」

 見惚れていた為、一瞬反応が遅れた俺に、三日月の飾りがビタッ!とまるでタコかイカの吸盤のように吸い付いて、いくら引っ張っても離れる気配がない。

「今からお前の脳の一部を拡張する!少々痛いが我慢しろよ!」

 張り付いた三日月を興味津々に触っていた俺に、お爺ちゃんはそう言って、手で何かをいじるような動きをする。
 すると、俺の頭部から全身に向けて激しい稲妻が走り、痛みとともに俺の自由を拘束した!

「うッ……ぐぅぅぅぅ……あぁぁぁ!」

 余りにもの痛みに、俺はコメカミの血管が切れてしまうのでは?と思えるほどの叫び声を上げてしまう。
 永遠とも一瞬とも取れる時間の中、俺の脳内に何か……そう。新たな何かが拡張されていくのを感じ始めた。

「はぁ……はぁ……少々って……言ったのに……死ぬかと……思った……」

 そうして三日月の拘束から開放された俺は、椅子に崩れ落ちるように座り込むと、荒い息を吐いて、全身から噴き出た脂汗を必死に服で拭っている。

「よく堪えたな。では、今から俺と同じ動きをするんだ。いいな?」
「…………」

 息も絶え絶えな俺は、なんとか首だけ動かして首肯した。

「コンソール!」

 お爺ちゃんはそう言って肩ほどに上げた左手を、スッと縦に下ろしてみせた。

「さぁ、お前もやってみろ」

 俺は未だに痛みに痺れる身体で立ち上がると、それを真似るように腕を動かす。

「えっと……こ!コンソール!」

 たった一言いって腕を上から一振りしただけで、俺の目の前には緑色の透明な板が浮かび上がって来た!

「えッ?!なんだ?!」
「フフ。どうだ?目の前に透明な緑色の板が現れただろう?」

 すわ!新手のスキルか?!と目を見張る俺に、お爺ちゃんは軽く笑って、普段の優しいお爺ちゃんの表情を見せる。
 俺は驚きに囚われながらも、なんとか頷く。

「それが[コンソール]と言って、英雄の……プレイヤーの力を引き出す為の第一歩だ。そしてコンソールに指を着け、こう横に……スライドさせるように動かす──」

 お爺ちゃんは俺からは見えない空間に向け、スッと指を置くようにして、そのまま横に動かした。恐らくコンソールというのは自分の物は他人には見えないのだろう……と推測し、俺は同じようにコンソールに指を着け、横にスライドするように動かせば──

「うわッ!なんか切り替わった!」

 緑色の板は、まるで本のページを捲るようにビュン!と切り替わる。

「そうだ。そうやってコンソールを切り替えろ。動かした先にアイテムBOXという欄があるだろう?」

 お爺ちゃんの言葉に従い、俺はコンソールを操作すると、すぐにアイテムBOXという項目を見つけた。

「……あった」
「では……コレに手を置いて[収納]と念じてみろ。慣れるまでは声に出して構わない」

 そう言ったお爺ちゃんが手を動かすと、何もないソファーの前にドコッ!と小さな箱が現れた。
 俺はお爺ちゃんの指示に従い、箱に手を置いて口を開く。

「しゅっ!しゅうのう!」

 すると目の前で、今まで手を置いていた箱が、ビュン!と音を立てて何処かに消えてしまった!

「消えた!」
「今お前の目の前から消えた物は、お前のアイテムBOXに入った事になる。項目の表情が増えているだろう?」

 淡々と説明するお爺ちゃんの言葉に、俺はアイテムBOXの項目に目を向けると──

「……本当だ。アイテムBOXの欄に……HP回復ドリンク?っているのが増えてるけど……10本?」
「ああ。それは単に箱で用意した本数ってだけだ。どれ、今度は取り出しだが……その表示されている名前を突いて……」
「なるほど!個数選択……決定……おお!出た!」

 俺は水を得た魚の如く、コンソールを次々と操作してアイテムBOXからHP回復ドリンクを手の中に取り出してみせた。
 お爺ちゃんは「ほぅ……」と関心したような声を出して俺を見る。

「飲み込みが早いな。次は──」

 そうして俺は次々とお爺ちゃんの語る知識を脳に、身体にと刻み付けるように覚えていくのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」  思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。 「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」  全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。  異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!  と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?  放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。  あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?  これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。 【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません      (ネタバレになるので詳細は伏せます) 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載 2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品) 2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品 2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

竜の巫女は拳で語る

みつまめ つぼみ
ファンタジー
『――神竜様。わたくし外界に留学したいのですがよろしいでしょうか。』 『んー、いーよー?』  神竜様は気さくないい奴だ。私の頼みはだいたい聞いてくれる。 竜に愛された第三王女が侍女と身分を交換して拳で語り合うライトファンタジー時々恋愛です。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

処理中です...