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プロローグ
1 孫、英雄に憧れる!
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半世紀ほど前、ここブリガント帝国は未曾有の危機に陥った。
その危機を救ったのは後の英雄と言われる異国から来た一人の傭兵。
その傭兵は、見たこともない数々の道具を使用して、帝国の危機を見事に救い、その褒美として彼は帝国の姫君を嫁にと迎えた。
その傭兵は英雄と呼ばれ、その後も隣の国、ラヴィア公国との戦を回避して友好を結び、戦争状態であった反対隣のガリナ王国とも和平を結ぶなどの功績を打ち立てる。
その功績により、彼は複数の女性を娶り、帝国に……この世界に……生きる全ての者に平和を齎した──
「はぁ……何度読んでも爺ちゃんの冒険譚はカッコいいなぁ……」
パタンと本を閉じて「ほぅ……」と恍惚とした表情を浮かべるのは一人の少年。
名をグレイブガント・スズキ・ギュスターヴ・ブリガント
総祖父から代々受け継がれているらしい父親譲りの金に輝く細い髪と、祖父の色を濃く残したエメラルドの瞳に幼い顔立ち。
そしてこの世界では成人とされる15才になったばかりの彼だが、肉体はまだ育ちきってなく、細身で身長もそこまで高くない。
そんな童顔の彼はブリガント帝国皇族の血筋で、英雄と第一夫人との間に出来た長男の一人息子……つまり、英雄の孫だ。
「今でこそ、メイドや夜の店で尻を触るのが生き甲斐のエロ老人みたいな爺ちゃんも、現役時代は絶対無敵、天下無双の美男子だった!……って婆ちゃんも言ってたもんなぁ」
グレイブガントはそう口にして部屋に飾ってある当時の祖父の、英雄とその妻たちの肖像画を眺めた。
「しかも、全国津々浦々からこれだけの美女をお嫁さんにもらったってんだから……」
若きしの祖父の肖像画は、お世辞抜きにして絶世の美男子で、さらに横には複数のうら若き美女達が描かれている。
何人かはグレイブガントが物心つく前に死んでしまったらしく、会うことは出来ないが、グレイブガントは自分の祖母を含む、何人かの女性とは面識があり、中でも特に親しかった二人の女性は自分の祖母同様「お婆ちゃん」と呼んでいた。
「はぁ……羨ましぐえ?!」
そうボヤいてため息を吐いていた彼の背中に、突然ドスン!と何かがぶつかり、倒れ込んでしまった。
「あいたー……お!やった!転移せいこー!」
グレイブガントは自分の背中の上で陽気にはしゃぐ声に、なんだ?となんとか首を捻って目を向けると……
バサァ──と広がる、漆黒のマントのような何かが視界一面に広がっていた。
よく見ると、それはマントではなく蝙蝠のような漆黒の翼で、棘まで生えててなんだか不吉な物を感じさせる。
しかし、グレイブガントは、その翼を生やした少女の美貌に見惚れてしまい声を出す事すら忘れてしまっていた。
「ん?」
モゾモゾと動いたグレイブガントに、その背中の上に乗っていた少女は、おや?と下を向き、下から見上げるように見るグレイブガントと目が合った。
「あわわ!」
そう慌てた少女は、バッ!と翼を動かしてグレイブガントから飛び降りた。
その拍子に短いドレスのスカートがヒラリと舞い、中からは純白の逆三角形がチラリと見える。
「ゴメンね!……大丈夫?」
「ああ……むしろご褒美だった……」
「え?」
「いや!なんでもないッ!」
グレイブガントは思わず口から漏れてしまった呟きに、首を傾げる少女へ慌てて両手を振って誤魔化した。
「ところで、君は何処から入ってきたんだい?見たところ……人間ではないみたいだけど……お爺ちゃんの冒険譚に出てくる魔物や悪魔とは何処か違って見えるし……」
「悪魔?!違う違う!私はね──」
黒い蝙蝠のような翼を生やした少女は、チッチッと立てた人差し指を顔の前で振り、ニッと笑い
「女神なんだよ!」
そう自慢げに言ったのだった。
その危機を救ったのは後の英雄と言われる異国から来た一人の傭兵。
その傭兵は、見たこともない数々の道具を使用して、帝国の危機を見事に救い、その褒美として彼は帝国の姫君を嫁にと迎えた。
その傭兵は英雄と呼ばれ、その後も隣の国、ラヴィア公国との戦を回避して友好を結び、戦争状態であった反対隣のガリナ王国とも和平を結ぶなどの功績を打ち立てる。
その功績により、彼は複数の女性を娶り、帝国に……この世界に……生きる全ての者に平和を齎した──
「はぁ……何度読んでも爺ちゃんの冒険譚はカッコいいなぁ……」
パタンと本を閉じて「ほぅ……」と恍惚とした表情を浮かべるのは一人の少年。
名をグレイブガント・スズキ・ギュスターヴ・ブリガント
総祖父から代々受け継がれているらしい父親譲りの金に輝く細い髪と、祖父の色を濃く残したエメラルドの瞳に幼い顔立ち。
そしてこの世界では成人とされる15才になったばかりの彼だが、肉体はまだ育ちきってなく、細身で身長もそこまで高くない。
そんな童顔の彼はブリガント帝国皇族の血筋で、英雄と第一夫人との間に出来た長男の一人息子……つまり、英雄の孫だ。
「今でこそ、メイドや夜の店で尻を触るのが生き甲斐のエロ老人みたいな爺ちゃんも、現役時代は絶対無敵、天下無双の美男子だった!……って婆ちゃんも言ってたもんなぁ」
グレイブガントはそう口にして部屋に飾ってある当時の祖父の、英雄とその妻たちの肖像画を眺めた。
「しかも、全国津々浦々からこれだけの美女をお嫁さんにもらったってんだから……」
若きしの祖父の肖像画は、お世辞抜きにして絶世の美男子で、さらに横には複数のうら若き美女達が描かれている。
何人かはグレイブガントが物心つく前に死んでしまったらしく、会うことは出来ないが、グレイブガントは自分の祖母を含む、何人かの女性とは面識があり、中でも特に親しかった二人の女性は自分の祖母同様「お婆ちゃん」と呼んでいた。
「はぁ……羨ましぐえ?!」
そうボヤいてため息を吐いていた彼の背中に、突然ドスン!と何かがぶつかり、倒れ込んでしまった。
「あいたー……お!やった!転移せいこー!」
グレイブガントは自分の背中の上で陽気にはしゃぐ声に、なんだ?となんとか首を捻って目を向けると……
バサァ──と広がる、漆黒のマントのような何かが視界一面に広がっていた。
よく見ると、それはマントではなく蝙蝠のような漆黒の翼で、棘まで生えててなんだか不吉な物を感じさせる。
しかし、グレイブガントは、その翼を生やした少女の美貌に見惚れてしまい声を出す事すら忘れてしまっていた。
「ん?」
モゾモゾと動いたグレイブガントに、その背中の上に乗っていた少女は、おや?と下を向き、下から見上げるように見るグレイブガントと目が合った。
「あわわ!」
そう慌てた少女は、バッ!と翼を動かしてグレイブガントから飛び降りた。
その拍子に短いドレスのスカートがヒラリと舞い、中からは純白の逆三角形がチラリと見える。
「ゴメンね!……大丈夫?」
「ああ……むしろご褒美だった……」
「え?」
「いや!なんでもないッ!」
グレイブガントは思わず口から漏れてしまった呟きに、首を傾げる少女へ慌てて両手を振って誤魔化した。
「ところで、君は何処から入ってきたんだい?見たところ……人間ではないみたいだけど……お爺ちゃんの冒険譚に出てくる魔物や悪魔とは何処か違って見えるし……」
「悪魔?!違う違う!私はね──」
黒い蝙蝠のような翼を生やした少女は、チッチッと立てた人差し指を顔の前で振り、ニッと笑い
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そう自慢げに言ったのだった。
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