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1章 帝国と姫

27 鈴木、中身35才の黒歴史を作る!

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「ゥオォォォォォ!」

 部屋に飛び込んできた四つん這いのケダモノ。
 3メートルはありそうな大きな体躯に緑色のボディ、目玉はギョロリとしていて大きな口からは長い牙と長い舌が見え隠れして、大変太い尻尾が床を叩いている。
 それは大きな雄叫びを上げ、ギラリと光る眼光で陛下をギョロリと睨み付けると、のわわ!と皇帝は腰を抜かしてへたり込んでしまう。
 それを見たケダモノは嬉しそうにして大きな牙を剥き出しにすると、ヨダレを撒き散らしながら皇帝へと飛び掛かった!

 そのを察知した俺は、抱えていたイザベラをベッドに放り投げて一気に加速しケダモノの顔面を殴りつける!

 ドガン!という重い鉄を打ち付ける音と同時にケダモノは激しく吹き飛び、横の壁を突き破ったところでヒラリと着地。

「全員ベッドの裏に隠れてろ!」

 俺は叫ぶと、振り返らずにケダモノが居る部屋へと飛び込んで、隣の部屋から簡易結界発生機を皇帝の部屋に投げ入れる。

「これで一先ずは安心だな……さて、まさかこんな所に現れるとはね。お前はフィールドボスだったはずだけど?」

 そう言って俺はケダモノに向けてエビルナイトソードを構える。
 奴はヘルハウンドと言って、ゲームでは後衛泣かせの範囲固定ダメ5000を12秒クールで撃ち込んでくるイカレたボスだ。
 そのスキルがクールの間も秒間平均2000ダメを叩いてくるという鬼畜ぶり。
 ヒーラーがタンクの回復に躍起になっている間に、範囲ダメでヒーラーが落ち、回復の無くなった前衛が落ちるという流れが一般的だが──

「護符も付けてるし、回避優先で範囲攻撃はモーション見てカットすれば余裕だな」

 そう呟いた俺は、エビルナイトソードを駆け抜け様に一閃!
 ヘルハウンドの前足を切り落とすつもりで放った一撃は、ほんの少し皮膚を斬っただけで、ヘルハウンドは俺に向けて太くて逞しい尻尾を叩きつける。

「はは!お前の攻撃モーションなんて頭に入ってんだよ!」

 この世界の住人にとっては確かに脅威だが、俺にとってはゲームで何度も何度も殺したボスの一体でしかない。
 しかもフィールドボスと言えば殺し飽きるくらい殺してる、仲良しな相手なのだ。もはやヤツの動きはツーカーである。

「おっと!範囲来るか?!させねーよ!ブラストナックル!」

 俺はヒューマンがLv55で覚えるスキル【ブラストナックル】を使用した。
 剣を握っていない方の拳が光り、それを叩き付ける事で対象のスキル発動を100%の確率で無効化しつつダメージを与える事が出来る壊れスキルなのだが、リキャストタイムが30秒というのが欠点だ。

「グルオオオオ!」

 スキルをカットされたヘルハウンドは怒りの雄叫びを上げて前足を交互に振って俺を足止めした後、大きな顎門で俺を噛み砕こうと噛みつきを試みるが

「だから無駄だ!エアトスハンマー!」

 俺は風の鎚をヘルハウンドの下顎から突き上げるように発動させ、重い身体を仰け反らせる。

「顎が上がったぁ!真気解放!ディスティニーソード!」

 続けてヒューマンがLv60になると習得出来る剣スキル【ディスティニーソード】を真気のステータス上昇効果を乗せて発動させると、ヘルハウンドの頭上に光の刃が無数に出現し、大きく開けた口内に向け、それらが雨あられと降り注ぐ!

 これをマトモに文字通り喰らったヘルハウンドは体内をズタボロに傷付けられ、毛穴のいたる所から出血し、そのダメージから身動きが鈍る。

「さしものフィールドボスも厳しそうだな!っと!危ない!タイガーシャウト!」

 12秒クールの範囲攻撃スキルの発動モーションを見て、俺はヒューマンがLv65で覚える範囲気絶スキルを発動させた。
 ガオン!と虎のエフェクトが前面に発生し、黄色いオーラが自分を中心に周囲に円上に広がると、それに触れたヘルハウンドをまんまと気絶スタンさせる!

「目が回ってるな!今起こしてやるよ!」

 俺は高々と飛び上がり、目を回しているヘルハウンドの頭部目掛けて全力の斬り下ろしを喰らわせてやると、横にズデンと転がって痛みに呻いている。

「ほう。リアルになると痛みを感じるのはお前も同じか!これはいい事を知ったぞ!そら!これはどうだ?!」

 痛みにのたうち回るヘルハウンドの目玉にエビルナイトソードを突き立てれば「ググオオオオ!」と強い痛みに涙を流し始める。

「人食い四足獣が泣くんじゃあない!」

 俺は涙を流している無事な目も貫いて、トドメとばかりにエアトスサイクロンを目の中に撃ち込めば、荒れ狂う竜巻がヘルハウンドの頭部を内部から蹂躙し、ついでとばかりに全身を切り刻む。

 ヘルハウンドはサイクロン先生の働きによって、肉片一粒も残さずに風に溶けるように消滅した。サイクロン先生パねーっす!

「ふぅ……ちょっと熱くなり過ぎたな。スキル名叫んで大暴れとか、中身35才オッサン的には黒歴史過ぎるわ……」

 そうボソッと零して結界を解き、皇帝の部屋へと戻ると、あんぐりと大口を開けて俺を見るオッサンがいらっしゃった。
 なんだか顔色がよろしくない。
 俺が一歩近づくと「ひぃ……」と小さな悲鳴を上げて後退るのを見て、俺はニタアと粘着くような笑みを浮かべてゆっくりと接近する。

「えっと……さっき皇帝陛下はなんか言ってませんでした?誰が誰を許さないとかなんとか?」

 俺がそう言ってゆっくり、ゆっくりと皇帝の下へ歩みを進めると、後退り過ぎた皇帝は遂に背中が壁に着き、退路を絶たれると、突然人形のように立ち上がり、怪しい口調で喋りだす。

「ハハハ!ナニカノキキマチガイダヨ!」
「おやおや……言葉遣いが怪しいですが、大丈夫ですか?」
「モチロンダヨ!ハハハハハ」

 俺はそう言って口を三日月に開けると、皇帝は頬を引き攣らせダラダラと脂汗を流しながら壊れたロボットのような声で笑い出す。

「あの……スズキ様。お父様を虐めるのはその……仮にもまだ帝国の皇帝なんで……」
「仮……まだ……」

 そのやり取りを見ていたイザベラが、ため息を吐きながらそう言うと、その言葉に陛下で父親な彼はズーンと両膝両手を床に突き「うっうっ」と泣き始めてしまった。
 最早帝国の皇帝としての威厳は欠片も無かった(そもそも最初から無かった気もするが……)

「おいイザベラ。オーバーキルだぞ?」

 俺がそうイザベラを窘めるが

「いいんですよ。スズキ様に噛み付いたバツですから……」

 そう言って実の父親を残念な物を見るような瞳で見下ろしていた。頑張れパパ! 


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