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1章 帝国と姫
24 鈴木、人生の分岐路に立つ!
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俺は使用した巻物の効果で、一瞬の浮遊感の後、イザベラの屋敷のサロンへと戻って来た。
目の前にはテーブルにモーニングティーセットを用意していたエレイラが食器を並べる姿勢のまま固まっている。
よっ!と手を上げると硬直の解けたエレイラが目を吊り上げて迫ってきた。
「よっ!じゃない!貴様、今どっから湧いた!」
「外から?んでこれ、お土産の朝食の食材ね」
俺は目と鼻の先でイキるエレイラに『何慌ててんのこいつ?』ばりに首を傾げ、手に持った荷物をボトッと床に落とした。
その俺が落とした物に視線を向け──瞬間息を飲むと、俺の襟首を掴んでガクガクと揺らし始める。
「おまッ!これ人間じゃないか!貴様はお嬢様の屋敷を人食いの拠点にするつもりか?!」
「ははは!朝から面白いねエレイラは!」
怒りに顔を染めて俺を前後に揺らすエレイラを笑い飛ばしていると、バトラーのクラスタさんが現れた。
「スズキ様。おはようございます」
「あぁ。クラスタさんおはよう」
未だにガタガタと揺らしているエレイラのせいで揺れる視界の中、クラスタさんと軽い朝の挨拶を交わすと、クラスタさんはスッと視線を床に転がっているソレに移す。
「おや……そちらの方は……」
「クラスタさんの知ってる人?」
「はい。その方はガマ=ローテツ=ワガテ様で、位は子爵。派閥は宰相だったかと……しかし何故気絶していらっしゃるのですか?」
結構長ったらしい名前だったガマにクラスタさんは鋭利な刃物のような目を向ける。
これは何かあるな?と思い、何時までも揺らしているエレイラ頭に手刀を落とし、解放された俺は昨日の深夜から早朝にかけての出来事を説明した。
「いやさ、実は昨日の夜なんだけど、この屋敷に複数の暗殺者が送り込まれてたんだけど、クラスタさんは気が付いてたよね?」
俺の問にクラスタさんはコクリと静かに首肯したのを確認して話を続ける。
「んで、ちょっとした事故で暗殺者さん達は一人を残して全滅してたんだ。んで、生き残った一人を逃したらコイツの屋敷に逃げ込んだって訳でな。ちょっとお話ししようと思って連れてきちゃったんだよね」
俺があらましを説明しおえると、クラスタさんはかなり強烈な覇気を全身から放ち始める。エレイラなぞ覇気に当てられ、座り込んでは涙目で股座を押さえている。
「なるほど……そうですか。朝の掃除に苦労させられたのはこの方のせいですか」
「そうなるね。だからクラスタさんさ、コイツに話を聞いといてもらえる?」
「私が……ですか?」
クラスタさんの口調こそ遠慮してる風だが、実はズゴゴゴゴと、今にも地面を足裏で割り出しそうな程の圧を発しながら、今にも人ひとりを睨み殺しそうな眼力で足元に転がっているガマを見る。
俺はニヤリと他人が見たら性犯罪者と呼ばれ……呼ばれたような顔でクラスタさんに「出来るんでしょ?」と言えば──
「……承りました」
そう言ってクラスタさんはガマの足首を掴んで何処かへと引き摺っていった。
一息吐いた俺は、未だに座り込んでいるエレイラの肩をポン!と叩いてやると、エレイラの恐怖で引き攣った顔を元に戻してホッと息を吐いた。
「パンツは大丈夫か?エレイラ」
「だいじょう……びゅぅ!」
エレイラは返事をしようとして変な声を上げるとバッ!と立ち上がって慌てて走り出していった。
ホッとして緩んだのだろう。エレイラが立ち去った後には点々と床に水滴が溢れていた。
俺が舐めるべきか、はたまた布で拭き取って瓶に絞って保存するか──滴の前に胡座をかいて真剣に悩んでいると、ようやくイザベラが若干眠たそうな顔でサロンに姿を現した。
「あら?スズキ様?何してるんですか?」
「あぁ。今俺は、人生の分岐路に頭を悩ませているところだ……」
「朝から馬鹿な事を……あら?水漏れかしら?そこのアナタ?拭いておいてもらえるかしら?」
そう言ってイザベラは近くにいたメイドさんに声をかけて、水滴を拭くよう指示を出す。
「え!ちょッ!まッ!」と俺があたふたしている間に、イザベラは優雅にテーブルに着席した。そして指示されたメイドさんが直ぐに布を取り出して、ササッ!と全てを拭き取り何処かに去って行ってしまった。
「スズキ様?なんで泣いてますの?」
「これは汗だ……心の汗だ……」
俺が膝と両手を突いて四つん這いの状態でシクシクと涙を流しているのを、イザベラは「?」と首を傾げていた。
しばらくして、エレイラが戻ってきた辺りで俺も復活し、三人はモーニングティーとスコーンを齧りながら、俺が深夜に起こったあらましをイザベラや震えて聞いてなかったエレイラに説明した。
「ま、クラスタさんは気が付いていたみたいだけどね。あの爺さん何者なんだ?」
「クラスタは帝国きっての凄腕の密偵でした。歳で引退したのを切っ掛けで、私の下で屋敷の管理をお願いすることになりました」
「なるほど。確かに、あの威圧はなかなかのものだったが納得したよ。な!エレイラ?(まぁ、最初に覇気を飛ばされた時に『覗き』しといたんだねどね)」
俺はニタァと口を三日月に開いてエレイラを見ると、彼女は顔をパプリカのように赤くして「ななな!にゃんのきょとかにゃ!」とカミカミな言葉遣いになってしまい、更に顔を赤くしている。
「さぁ……なんだろうな?はは!」
そう笑い飛ばす俺に、ぐぬぬと歯噛みするエレイラ。それを見て頭に?を浮かべて首を傾げるイザベラ。
俺達はそうやって賑やかな朝のひとときを過ごす。
それにしても、まさかクラスタさんのステータスがギリアムに匹敵する程とは思わなかったよ。
「ん?何か言いました?」
「いや。なんでもないよ。──んじゃそろそろ……一度城へ行こうか?イザベラ」
「え?!」
「父親を助けるんだろ?」
「──はい!」
俺はイザベラとエレイラを伴って帝城へ向かうのだった。
目の前にはテーブルにモーニングティーセットを用意していたエレイラが食器を並べる姿勢のまま固まっている。
よっ!と手を上げると硬直の解けたエレイラが目を吊り上げて迫ってきた。
「よっ!じゃない!貴様、今どっから湧いた!」
「外から?んでこれ、お土産の朝食の食材ね」
俺は目と鼻の先でイキるエレイラに『何慌ててんのこいつ?』ばりに首を傾げ、手に持った荷物をボトッと床に落とした。
その俺が落とした物に視線を向け──瞬間息を飲むと、俺の襟首を掴んでガクガクと揺らし始める。
「おまッ!これ人間じゃないか!貴様はお嬢様の屋敷を人食いの拠点にするつもりか?!」
「ははは!朝から面白いねエレイラは!」
怒りに顔を染めて俺を前後に揺らすエレイラを笑い飛ばしていると、バトラーのクラスタさんが現れた。
「スズキ様。おはようございます」
「あぁ。クラスタさんおはよう」
未だにガタガタと揺らしているエレイラのせいで揺れる視界の中、クラスタさんと軽い朝の挨拶を交わすと、クラスタさんはスッと視線を床に転がっているソレに移す。
「おや……そちらの方は……」
「クラスタさんの知ってる人?」
「はい。その方はガマ=ローテツ=ワガテ様で、位は子爵。派閥は宰相だったかと……しかし何故気絶していらっしゃるのですか?」
結構長ったらしい名前だったガマにクラスタさんは鋭利な刃物のような目を向ける。
これは何かあるな?と思い、何時までも揺らしているエレイラ頭に手刀を落とし、解放された俺は昨日の深夜から早朝にかけての出来事を説明した。
「いやさ、実は昨日の夜なんだけど、この屋敷に複数の暗殺者が送り込まれてたんだけど、クラスタさんは気が付いてたよね?」
俺の問にクラスタさんはコクリと静かに首肯したのを確認して話を続ける。
「んで、ちょっとした事故で暗殺者さん達は一人を残して全滅してたんだ。んで、生き残った一人を逃したらコイツの屋敷に逃げ込んだって訳でな。ちょっとお話ししようと思って連れてきちゃったんだよね」
俺があらましを説明しおえると、クラスタさんはかなり強烈な覇気を全身から放ち始める。エレイラなぞ覇気に当てられ、座り込んでは涙目で股座を押さえている。
「なるほど……そうですか。朝の掃除に苦労させられたのはこの方のせいですか」
「そうなるね。だからクラスタさんさ、コイツに話を聞いといてもらえる?」
「私が……ですか?」
クラスタさんの口調こそ遠慮してる風だが、実はズゴゴゴゴと、今にも地面を足裏で割り出しそうな程の圧を発しながら、今にも人ひとりを睨み殺しそうな眼力で足元に転がっているガマを見る。
俺はニヤリと他人が見たら性犯罪者と呼ばれ……呼ばれたような顔でクラスタさんに「出来るんでしょ?」と言えば──
「……承りました」
そう言ってクラスタさんはガマの足首を掴んで何処かへと引き摺っていった。
一息吐いた俺は、未だに座り込んでいるエレイラの肩をポン!と叩いてやると、エレイラの恐怖で引き攣った顔を元に戻してホッと息を吐いた。
「パンツは大丈夫か?エレイラ」
「だいじょう……びゅぅ!」
エレイラは返事をしようとして変な声を上げるとバッ!と立ち上がって慌てて走り出していった。
ホッとして緩んだのだろう。エレイラが立ち去った後には点々と床に水滴が溢れていた。
俺が舐めるべきか、はたまた布で拭き取って瓶に絞って保存するか──滴の前に胡座をかいて真剣に悩んでいると、ようやくイザベラが若干眠たそうな顔でサロンに姿を現した。
「あら?スズキ様?何してるんですか?」
「あぁ。今俺は、人生の分岐路に頭を悩ませているところだ……」
「朝から馬鹿な事を……あら?水漏れかしら?そこのアナタ?拭いておいてもらえるかしら?」
そう言ってイザベラは近くにいたメイドさんに声をかけて、水滴を拭くよう指示を出す。
「え!ちょッ!まッ!」と俺があたふたしている間に、イザベラは優雅にテーブルに着席した。そして指示されたメイドさんが直ぐに布を取り出して、ササッ!と全てを拭き取り何処かに去って行ってしまった。
「スズキ様?なんで泣いてますの?」
「これは汗だ……心の汗だ……」
俺が膝と両手を突いて四つん這いの状態でシクシクと涙を流しているのを、イザベラは「?」と首を傾げていた。
しばらくして、エレイラが戻ってきた辺りで俺も復活し、三人はモーニングティーとスコーンを齧りながら、俺が深夜に起こったあらましをイザベラや震えて聞いてなかったエレイラに説明した。
「ま、クラスタさんは気が付いていたみたいだけどね。あの爺さん何者なんだ?」
「クラスタは帝国きっての凄腕の密偵でした。歳で引退したのを切っ掛けで、私の下で屋敷の管理をお願いすることになりました」
「なるほど。確かに、あの威圧はなかなかのものだったが納得したよ。な!エレイラ?(まぁ、最初に覇気を飛ばされた時に『覗き』しといたんだねどね)」
俺はニタァと口を三日月に開いてエレイラを見ると、彼女は顔をパプリカのように赤くして「ななな!にゃんのきょとかにゃ!」とカミカミな言葉遣いになってしまい、更に顔を赤くしている。
「さぁ……なんだろうな?はは!」
そう笑い飛ばす俺に、ぐぬぬと歯噛みするエレイラ。それを見て頭に?を浮かべて首を傾げるイザベラ。
俺達はそうやって賑やかな朝のひとときを過ごす。
それにしても、まさかクラスタさんのステータスがギリアムに匹敵する程とは思わなかったよ。
「ん?何か言いました?」
「いや。なんでもないよ。──んじゃそろそろ……一度城へ行こうか?イザベラ」
「え?!」
「父親を助けるんだろ?」
「──はい!」
俺はイザベラとエレイラを伴って帝城へ向かうのだった。
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