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ゆらめき
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次第に眼が慣れてくると、君島は縷々子さんを探そうとしたが、探すまでもなかった。
教室の隅に少女はいた。
弱くて薄青い光を放った縷々子さんが、確かにそこにいた。
さっきまではなかったはずの光に、クラス中の視線が集まっているのが空気で伝わってきて、君島は思わず息を飲んだ。
縷々子さんは両手を胸の前に持ってきて手から白い靄のような物を出すと、それは意思を持っているかのようにゆっくりと、そして儚くゆらめき始めた。
白い靄のゆらめきは勢いを増していくと身体中を震わすほどの冷風をもたらし、すぐに鼓膜をぶち破るほどの轟音と共に純白を増した竜巻の柱となると、窓ガラスを容易に破りゴゴゴッという鈍く低い音を伴って壁を引き剥がした。
クラス中はパニックになり、悲鳴をあげる者やその場にしゃがみ込む者、吹き飛ばされる者まで出ていたが、人間の憤怒や積年の憎悪が入り混じった呻き声のような音が全てをかき消し、教室中をかき乱した。
君島はガラスの破片や掲示物が飛び交う中、必死の思いで片方の瞼を開いた。次の標的が誰かをこの眼で見ておきたかったのだ。腕で顔を庇いながら室内を伺う。
1つの場所で眼が止まった。
薄青い光を放ちながら立っている縷々子さんと席に座ったままの一人の女子生徒。
川原玲子だった。
彼女は縷々子さんの顔を茫然と見ていた。
何で川原さんに?
そんな疑問が君島の脳裏をよぎった。
周囲が惨害に見舞われている中、それが全く無縁であるかのように2人は見つめ合っている。
縷々子さんは川原の席に両手をついてゆっくりと彼女に顔を近づけると、吸い寄せられるような漆黒の長い髪を人差し指で耳にかけた。
君島は何とか縷々子さんの顔を見ようとするが、彼女の位置からはかろうじて繊細で幼さの残るふっくらとした白い頬が見えるだけだった。
川原は髪を掻き上げた縷々子さんの顔を見て明らかに動揺の色を呈したかと思うと、何故か口の端を皮肉に歪めてネチャリと微笑んだ。その笑顔は木島の時と似ていた。いや、木島そのものだった。君島は縷々子さんより、川原に薄気味悪いものを感じていた。
ふと、2人に近づく影が視界の隅に入った。
その影を見た君島は息を飲んだ。鈴原が風を防ぎながら縷々子さんに歩み寄っていたのだ。
「鈴原っ」
怒鳴るように呼びかけるが、轟音が響き渡る室内で鈴原の耳に届くはずがなかった。彼は何度か身体を持っていかれそうになりながらも、床や剥がれかけの壁にしがみつきながら前進した。
そんな様子に気付く気配のない川原は、薄気味悪い笑みを浮かべたまま縷々子さんを見つめると、縷々子さんの両手に掲げられた白い靄の核に手を伸ばした。
まるで靄に魅入られたかのように、超自然に触れようとした川原の腕を鈴原が掴んだ。川原は鈴原に眼も暮れないまま腕を振り払う。その眼は完全にイっていた。
このままだと川原どころか鈴原まで連れていかれてしまう。
靄の核に触れることが逝くことに繋がる。
君島は覚悟を決めた。
その思いに突き動かされるように身体が軽くなった。
自由を奪っていた竜巻が身の周りにだけ当たらなくなったのだ。
君島は一直線に三人の元へ駆けると、今にも核に触れようとしている川原と、それを防ごうとしている鈴原を暴風の勢いのままに突き飛ばそうとした。
二人にぶつかった衝撃で鈴原が飛ばされると、君島は全体重をかけて川原の腕を奪い取ろうとした。
だが、君島の非力を嘲笑うかのように、華奢で細い川原の腕が核に触れると、黒い光が君島と川原を覆う。
雲の上で寝ころぶように君島の身体がフワリと浮いた。深い眠りにつく前の心地良い感覚が彼女を包む。
ゆっくりとまどろむ中、君島は微笑んだ。
鈴原を救えて良かった。
教室の隅に少女はいた。
弱くて薄青い光を放った縷々子さんが、確かにそこにいた。
さっきまではなかったはずの光に、クラス中の視線が集まっているのが空気で伝わってきて、君島は思わず息を飲んだ。
縷々子さんは両手を胸の前に持ってきて手から白い靄のような物を出すと、それは意思を持っているかのようにゆっくりと、そして儚くゆらめき始めた。
白い靄のゆらめきは勢いを増していくと身体中を震わすほどの冷風をもたらし、すぐに鼓膜をぶち破るほどの轟音と共に純白を増した竜巻の柱となると、窓ガラスを容易に破りゴゴゴッという鈍く低い音を伴って壁を引き剥がした。
クラス中はパニックになり、悲鳴をあげる者やその場にしゃがみ込む者、吹き飛ばされる者まで出ていたが、人間の憤怒や積年の憎悪が入り混じった呻き声のような音が全てをかき消し、教室中をかき乱した。
君島はガラスの破片や掲示物が飛び交う中、必死の思いで片方の瞼を開いた。次の標的が誰かをこの眼で見ておきたかったのだ。腕で顔を庇いながら室内を伺う。
1つの場所で眼が止まった。
薄青い光を放ちながら立っている縷々子さんと席に座ったままの一人の女子生徒。
川原玲子だった。
彼女は縷々子さんの顔を茫然と見ていた。
何で川原さんに?
そんな疑問が君島の脳裏をよぎった。
周囲が惨害に見舞われている中、それが全く無縁であるかのように2人は見つめ合っている。
縷々子さんは川原の席に両手をついてゆっくりと彼女に顔を近づけると、吸い寄せられるような漆黒の長い髪を人差し指で耳にかけた。
君島は何とか縷々子さんの顔を見ようとするが、彼女の位置からはかろうじて繊細で幼さの残るふっくらとした白い頬が見えるだけだった。
川原は髪を掻き上げた縷々子さんの顔を見て明らかに動揺の色を呈したかと思うと、何故か口の端を皮肉に歪めてネチャリと微笑んだ。その笑顔は木島の時と似ていた。いや、木島そのものだった。君島は縷々子さんより、川原に薄気味悪いものを感じていた。
ふと、2人に近づく影が視界の隅に入った。
その影を見た君島は息を飲んだ。鈴原が風を防ぎながら縷々子さんに歩み寄っていたのだ。
「鈴原っ」
怒鳴るように呼びかけるが、轟音が響き渡る室内で鈴原の耳に届くはずがなかった。彼は何度か身体を持っていかれそうになりながらも、床や剥がれかけの壁にしがみつきながら前進した。
そんな様子に気付く気配のない川原は、薄気味悪い笑みを浮かべたまま縷々子さんを見つめると、縷々子さんの両手に掲げられた白い靄の核に手を伸ばした。
まるで靄に魅入られたかのように、超自然に触れようとした川原の腕を鈴原が掴んだ。川原は鈴原に眼も暮れないまま腕を振り払う。その眼は完全にイっていた。
このままだと川原どころか鈴原まで連れていかれてしまう。
靄の核に触れることが逝くことに繋がる。
君島は覚悟を決めた。
その思いに突き動かされるように身体が軽くなった。
自由を奪っていた竜巻が身の周りにだけ当たらなくなったのだ。
君島は一直線に三人の元へ駆けると、今にも核に触れようとしている川原と、それを防ごうとしている鈴原を暴風の勢いのままに突き飛ばそうとした。
二人にぶつかった衝撃で鈴原が飛ばされると、君島は全体重をかけて川原の腕を奪い取ろうとした。
だが、君島の非力を嘲笑うかのように、華奢で細い川原の腕が核に触れると、黒い光が君島と川原を覆う。
雲の上で寝ころぶように君島の身体がフワリと浮いた。深い眠りにつく前の心地良い感覚が彼女を包む。
ゆっくりとまどろむ中、君島は微笑んだ。
鈴原を救えて良かった。
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