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真実 3
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衝撃の発言だった。親戚だと?
「ちょっと待てよ、君がいくら親戚だからって顔を間違えることがあるか?」
佐々木が間に入ってきた。
「俺はこの娘が遥ちゃんじゃないってことはすぐに分かったよ」
「それはお前が、遥が死んだことを知っていたからだろう」
「それもそうだけど。俺が思うに、伊吹の中の遥ちゃんは十四歳のままなんだよ」
「……まあな」
「お前は遥ちゃんの写真を一枚を持っていないだろう?」
「そういえば持ってないな。卒業アルバムにもいなかったし」
「俺はキャンプの時の写真を一枚持ってたんだ。確かにこの娘と遥ちゃんは似ている。
だけど、実際に遥ちゃんが生きていて成長していたとしたら、はやり顔立ちは少し違う
だろう。写真や映像に残っていた物を伊吹が持っていたら、最初から彼女を遥ちゃんと
思っていなかったかも知れない」
「いくら何でもそれはないだろう」
「伊吹が最後に見た遥ちゃんは十年前で、それ以降の写真も何も持っていない。今のお
前は遥ちゃんの顔をはっきり覚えていないはずだ。それにこの娘が似ているのは遥ちゃ
んじゃなくて、むしろ琴音ちゃんなんだ」
「琴音に?」
「そうだ、ねえ、君が伊吹の前に現れたのはいつなの?」
佐々木の問いに彼女は「琴音が亡くなった日です」と応えたので、私が「そんなはずない、君が現れたのはここ一カ月くらいのことだ」と、それをすぐに否定した。佐々木が「うーん」と言いながら自身の考えを披露する。
「俺はこの娘の意見が正しいと思う。琴音ちゃんが亡くなってから、彼女が現れるまで
に期間が開いていたなら、お前は『琴音ちゃんの死』をもっと実感していたはずだ。琴
音ちゃんに似ている彼女がすぐに現れたことで、伊吹の現実逃避が始まったんだ。
おそらく君は、敷島さんと一緒に琴音ちゃんの遺品整理をした時に伊吹のマンション
の住所と自室の鍵を手に入れんたんじゃないのかな?」
彼女は頷くだけだ。
「だいたい、何で君は俺に近づいたの?」
「伊吹、俺が知ってる遥ちゃんに関することは、全部彼女から訊いたんだ。それに彼女
は……」
8年前に死んだことも彼女から?それなら、佐々木とこの娘はその時から知り合っていたことになる。説明をしようとする佐々木を軽く制して、彼女がようやく口を開いた。
彼女は二人で話をしたいと申し出た。
私が戸惑っていると、佐々木が軽く頷いた。
二人になっても大丈夫だというサインだ。私が頷き返すと、病院の屋上に行くことにした。
無言のまま二人で屋上に出る。外は太陽の光が暖かかったが、頬を真っ赤にする冷たい微風が吹いていた。私達は自然と外が見える場所に移動する。
「理由なんて単純よ」
彼女が風でなびく髪を抑えながら、おもむろに口を開いた。
「姉妹二人を守ることができなかった俺を……」
「そんなんじゃないわ。私が本田君を好き。ただそれだけ」
「本田君は気付いていなかったと思うけど、私はあなと会うのは今回が初めてじゃない
の。
ずっと、ずっと好きだった。けど私があなたに思いを伝えることは一度もなかった。
いや、できなかった。あなたが遥のことを好きだったのは知っていたしね。そのまま本
田君が大学に入り、就職して地元を離れて、どこに行ったかも分からないまま時間は経
過していった。そんなある日、所要で祖母の家に行った時、驚くべきことを訊いたの」
「俺と琴音が婚約するって話か?」
彼女が首を縦に振る。琴音が水族館で、『おばあちゃんに電話する』と嬉しそうに婚約の報告をしていたことを思い出した。
「琴音からおばあちゃんに電話があって、婚約するって電話が来ていたの。
それを訊いた私は心から祝福したわ。
おばあちゃんから電話を代わってもらって『あんなに苦労したんだから、報われて良
かった。
幸せになってね』って伝えたら、琴音も嬉しそうにしてたわ。
電話を切ろうとした時に、何となく婚約相手の名前を訊いてみたの。
その時はまさか琴音から『本田伊吹』の名前を訊くことになるとは夢にも思わなかっ
た。
只々驚いた。
何で琴音が本田君と出逢ってるの?
婚約しているの?
訊きたいことは山ほどあったけど、只々身体が震えて息が出来なくなって、音もなく
なって……、気がついた時には電話が切れていた」
「琴音が死んだのは、その日の夜だ」
「知ってる。さっきまで幸せそうだったのに自殺するなんて、意味が分からなかったわ。
でも、私は不謹慎にも琴音の葬儀に行くことで本田君に再会できることを期待してしま
った。でもあなたは来なかった。
その後一段落して、私が敷島さんと遺品整理をしていると、本田君のマンションの住所
と鍵を手に入れて、その足であなたのマンションに向 かったの」
「俺はその時のことを覚えていないんだ」
「そうでしょうね。私が再会した時、あなたの精神状態はどう見ても正常といえるもの
ではなかったわ。
自分の母親と佐々木君に『遥と婚約した』って言ってたくらいだったから。
理解できない行動の繰り返しでかなり戸惑ったこともあったけど、再会した喜びと、あな
たを支えないといけないという気持ちだけで、私は毎日あなたの世話をした。
琴音には悪かったけど、私は幸せを感じていた。当時のあなたは毎日うなされていたわ、
琴音の名前を何回訊いたか分からない」
彼女の話し方は、私の封印されていた記憶を少しづつ紐解いていった。それに比例して、彼女が誰だったのかも思い出してきた。
「本田君の苦しむ姿を見て、私は琴音を心から憎んだわ。こんなにこの人を苦しめるな
んて許せない、って。
それと同時に、本田君の記憶が混乱したままなら、親戚連中から似ていると言われて
いる私が『琴音』になろうと思ったの」
彼女の言葉は次第に熱を帯びていった。
「私は二人に負けないくらい本田君を好きだったの。
あなたが私を見てくれるのなら、正直私のことを誰と勘違いしてもらっても構わなかった。
そんなある朝、あなたが私に予想外のことを言ってきたの」
「月野遥さんですか?」
私が再現して見せると、彼女は苦笑した。
「バカな私は咄嗟に『琴音』と言ってしまったの。
あなたが出勤した後、私は散々後悔したわ。
でもすぐに考えを改めて『遥』として生きることにした。
それから私は中学時代の遥の写真を手にすると、すぐに髪を切りにいって髪型を似せ、
メイクで遥の眼鼻立ちをマネたの。
そして琴音は最初からいないことにしようと思って、あなたが風呂に入っている間に、
携帯電話を確認して全ての記録を消したの。
番号は当然、メールの記録から何から何まで」
私は確信した。彼女が誰なのかを……。
「ちょっと待てよ、君がいくら親戚だからって顔を間違えることがあるか?」
佐々木が間に入ってきた。
「俺はこの娘が遥ちゃんじゃないってことはすぐに分かったよ」
「それはお前が、遥が死んだことを知っていたからだろう」
「それもそうだけど。俺が思うに、伊吹の中の遥ちゃんは十四歳のままなんだよ」
「……まあな」
「お前は遥ちゃんの写真を一枚を持っていないだろう?」
「そういえば持ってないな。卒業アルバムにもいなかったし」
「俺はキャンプの時の写真を一枚持ってたんだ。確かにこの娘と遥ちゃんは似ている。
だけど、実際に遥ちゃんが生きていて成長していたとしたら、はやり顔立ちは少し違う
だろう。写真や映像に残っていた物を伊吹が持っていたら、最初から彼女を遥ちゃんと
思っていなかったかも知れない」
「いくら何でもそれはないだろう」
「伊吹が最後に見た遥ちゃんは十年前で、それ以降の写真も何も持っていない。今のお
前は遥ちゃんの顔をはっきり覚えていないはずだ。それにこの娘が似ているのは遥ちゃ
んじゃなくて、むしろ琴音ちゃんなんだ」
「琴音に?」
「そうだ、ねえ、君が伊吹の前に現れたのはいつなの?」
佐々木の問いに彼女は「琴音が亡くなった日です」と応えたので、私が「そんなはずない、君が現れたのはここ一カ月くらいのことだ」と、それをすぐに否定した。佐々木が「うーん」と言いながら自身の考えを披露する。
「俺はこの娘の意見が正しいと思う。琴音ちゃんが亡くなってから、彼女が現れるまで
に期間が開いていたなら、お前は『琴音ちゃんの死』をもっと実感していたはずだ。琴
音ちゃんに似ている彼女がすぐに現れたことで、伊吹の現実逃避が始まったんだ。
おそらく君は、敷島さんと一緒に琴音ちゃんの遺品整理をした時に伊吹のマンション
の住所と自室の鍵を手に入れんたんじゃないのかな?」
彼女は頷くだけだ。
「だいたい、何で君は俺に近づいたの?」
「伊吹、俺が知ってる遥ちゃんに関することは、全部彼女から訊いたんだ。それに彼女
は……」
8年前に死んだことも彼女から?それなら、佐々木とこの娘はその時から知り合っていたことになる。説明をしようとする佐々木を軽く制して、彼女がようやく口を開いた。
彼女は二人で話をしたいと申し出た。
私が戸惑っていると、佐々木が軽く頷いた。
二人になっても大丈夫だというサインだ。私が頷き返すと、病院の屋上に行くことにした。
無言のまま二人で屋上に出る。外は太陽の光が暖かかったが、頬を真っ赤にする冷たい微風が吹いていた。私達は自然と外が見える場所に移動する。
「理由なんて単純よ」
彼女が風でなびく髪を抑えながら、おもむろに口を開いた。
「姉妹二人を守ることができなかった俺を……」
「そんなんじゃないわ。私が本田君を好き。ただそれだけ」
「本田君は気付いていなかったと思うけど、私はあなと会うのは今回が初めてじゃない
の。
ずっと、ずっと好きだった。けど私があなたに思いを伝えることは一度もなかった。
いや、できなかった。あなたが遥のことを好きだったのは知っていたしね。そのまま本
田君が大学に入り、就職して地元を離れて、どこに行ったかも分からないまま時間は経
過していった。そんなある日、所要で祖母の家に行った時、驚くべきことを訊いたの」
「俺と琴音が婚約するって話か?」
彼女が首を縦に振る。琴音が水族館で、『おばあちゃんに電話する』と嬉しそうに婚約の報告をしていたことを思い出した。
「琴音からおばあちゃんに電話があって、婚約するって電話が来ていたの。
それを訊いた私は心から祝福したわ。
おばあちゃんから電話を代わってもらって『あんなに苦労したんだから、報われて良
かった。
幸せになってね』って伝えたら、琴音も嬉しそうにしてたわ。
電話を切ろうとした時に、何となく婚約相手の名前を訊いてみたの。
その時はまさか琴音から『本田伊吹』の名前を訊くことになるとは夢にも思わなかっ
た。
只々驚いた。
何で琴音が本田君と出逢ってるの?
婚約しているの?
訊きたいことは山ほどあったけど、只々身体が震えて息が出来なくなって、音もなく
なって……、気がついた時には電話が切れていた」
「琴音が死んだのは、その日の夜だ」
「知ってる。さっきまで幸せそうだったのに自殺するなんて、意味が分からなかったわ。
でも、私は不謹慎にも琴音の葬儀に行くことで本田君に再会できることを期待してしま
った。でもあなたは来なかった。
その後一段落して、私が敷島さんと遺品整理をしていると、本田君のマンションの住所
と鍵を手に入れて、その足であなたのマンションに向 かったの」
「俺はその時のことを覚えていないんだ」
「そうでしょうね。私が再会した時、あなたの精神状態はどう見ても正常といえるもの
ではなかったわ。
自分の母親と佐々木君に『遥と婚約した』って言ってたくらいだったから。
理解できない行動の繰り返しでかなり戸惑ったこともあったけど、再会した喜びと、あな
たを支えないといけないという気持ちだけで、私は毎日あなたの世話をした。
琴音には悪かったけど、私は幸せを感じていた。当時のあなたは毎日うなされていたわ、
琴音の名前を何回訊いたか分からない」
彼女の話し方は、私の封印されていた記憶を少しづつ紐解いていった。それに比例して、彼女が誰だったのかも思い出してきた。
「本田君の苦しむ姿を見て、私は琴音を心から憎んだわ。こんなにこの人を苦しめるな
んて許せない、って。
それと同時に、本田君の記憶が混乱したままなら、親戚連中から似ていると言われて
いる私が『琴音』になろうと思ったの」
彼女の言葉は次第に熱を帯びていった。
「私は二人に負けないくらい本田君を好きだったの。
あなたが私を見てくれるのなら、正直私のことを誰と勘違いしてもらっても構わなかった。
そんなある朝、あなたが私に予想外のことを言ってきたの」
「月野遥さんですか?」
私が再現して見せると、彼女は苦笑した。
「バカな私は咄嗟に『琴音』と言ってしまったの。
あなたが出勤した後、私は散々後悔したわ。
でもすぐに考えを改めて『遥』として生きることにした。
それから私は中学時代の遥の写真を手にすると、すぐに髪を切りにいって髪型を似せ、
メイクで遥の眼鼻立ちをマネたの。
そして琴音は最初からいないことにしようと思って、あなたが風呂に入っている間に、
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