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クラス会
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故郷に戻るというのは悪いものではない。
私は地元の田舎加減が嫌で都会に出た訳ではない。
むしろ地元に留まっていたいとおもっていた類だ。私が都会に出たのは、単純に仕事をするためだ。田舎にも仕事がない訳ではないが、圧倒的に少ないという点は否めない。
クラス会が行われる居酒屋に着く。酒を飲んで実家に泊る予定だったが、今日は遥がマンションで待っていることもあり、酒は飲まないことにした。
居酒屋の暖簾をくぐると懐かしい顔ぶれがこちらを見た。
店の様子からすると、今日は貸し切りにしてもらっているようだ。
「おっ、ひっさしぶりだな伊吹ー!」
佐々木が立ち上がってグラスを近づけてきた。
「この前会ったばっかじゃねえか……」
こいつはすでに出来上がっているらしく、茹でダコのように顔を真っ赤にゆらゆら揺れている。
「おうっ、そうだったっけなー」
まぁ、いつも通りの佐々木だ。卒業以来会っていないクラスメイトから声をかけられる。懐かしい顔だらけだ。中には子供を連れてきている女性もいた。
子供にご飯を食べさせているのはクラスのアイドル倉木だ。私の視線に気付いたかのように佐々木が耳打ちしてくる。
「倉木結婚したんだってよ」
「みたいだな」
「それがよう、相手誰か知ってるか?」
「知ってる訳ねえだろ。誰なんだよ?」
「俺も知らねーよー」
佐々木は絶叫した。知らねえのか。回りのクラスメイトに頭を叩かれている。男女問わず。
店内をざっと眺めてみた。来ているのは三十人くらいといった感じだろう。一クラス四十人くらいだったので出席率は高いといえる。
これも佐々木の人柄あってのことだろう。私も佐々木の頭を叩いておいた。当然感謝の意味を込めて強く叩いた。
「いてっ、最後殴った奴誰だよ」
腹這いになったまま必死の声を上げた酔っ払いを無視して、中学時代の話で盛り上がった。
皆変わってないなぁ。いや、一部頭が薄くなってたり、かなりお太りになった方が見えるが、それは気にしない。自然に眼が行くのを必死に堪える。
クラス会は3時間で終わった。最初は静かに始まったと訊いていた会も、終わった頃には最高潮に盛り上がっていた。
「ばいばーい」
「またねー」
酒を飲んで気分の良くなった若者達が三々五々に散っていった。
やはりクラス会に行って良かった。
中学時代の同級生達はそれぞれ別々の人生を歩んでいた。当たり前のことだ。
しかし、自分達が中学生だった頃、いずれ大人になるということを知っていながら、本当に大人になる姿など誰も想像できていなかった。
心のどこかで、永遠に子供のままでいられる、若いままでいられる、そう信じていた。
当時おじいさんに見えた理科の先生を見て、この先生にも中学生だった時代があったのかと疑っていた。
私が中学、高校、大学を卒業して、大人になるにつれて気付かされることがあった。時間は平等だということだ。他人に話したら笑われそうなことだが、案外理解できていない人が多い気もする。
社会人になって、今までの考えが完全に玉砕された。
大人の社会は想像を絶する程厳しいものだった。私は中学生の時、年中スーツを着て電車に乗る大人を見下していた。
そこまでして自分を殺して何が楽しいんだよ。
生きてるか死んでるか分からん顔するくらいなら会社なんて辞めちまえ。
そんな自分の考えを信じて疑わなかった。俺?俺は自分の才能を伸ばして金を稼ぐんだよ。
……今考えると恥ずかしい。
あの根拠のない自信は何だったんだ。そもそも、それに見合う努力すらしてこなかった。
大人の社会は生きづらい。子供が考えているより遥かに生きづらい。
会社の先輩や上司でプライドを捨ててまで頭を下げまくる姿を見ていると、今は心から尊敬する。 あの人達の多くは自分の家族のために身を削っていることを知ったから。
例え反抗期の子供が口を利いてくれなくても、家族から蔑まれてもだ。
私は地元の田舎加減が嫌で都会に出た訳ではない。
むしろ地元に留まっていたいとおもっていた類だ。私が都会に出たのは、単純に仕事をするためだ。田舎にも仕事がない訳ではないが、圧倒的に少ないという点は否めない。
クラス会が行われる居酒屋に着く。酒を飲んで実家に泊る予定だったが、今日は遥がマンションで待っていることもあり、酒は飲まないことにした。
居酒屋の暖簾をくぐると懐かしい顔ぶれがこちらを見た。
店の様子からすると、今日は貸し切りにしてもらっているようだ。
「おっ、ひっさしぶりだな伊吹ー!」
佐々木が立ち上がってグラスを近づけてきた。
「この前会ったばっかじゃねえか……」
こいつはすでに出来上がっているらしく、茹でダコのように顔を真っ赤にゆらゆら揺れている。
「おうっ、そうだったっけなー」
まぁ、いつも通りの佐々木だ。卒業以来会っていないクラスメイトから声をかけられる。懐かしい顔だらけだ。中には子供を連れてきている女性もいた。
子供にご飯を食べさせているのはクラスのアイドル倉木だ。私の視線に気付いたかのように佐々木が耳打ちしてくる。
「倉木結婚したんだってよ」
「みたいだな」
「それがよう、相手誰か知ってるか?」
「知ってる訳ねえだろ。誰なんだよ?」
「俺も知らねーよー」
佐々木は絶叫した。知らねえのか。回りのクラスメイトに頭を叩かれている。男女問わず。
店内をざっと眺めてみた。来ているのは三十人くらいといった感じだろう。一クラス四十人くらいだったので出席率は高いといえる。
これも佐々木の人柄あってのことだろう。私も佐々木の頭を叩いておいた。当然感謝の意味を込めて強く叩いた。
「いてっ、最後殴った奴誰だよ」
腹這いになったまま必死の声を上げた酔っ払いを無視して、中学時代の話で盛り上がった。
皆変わってないなぁ。いや、一部頭が薄くなってたり、かなりお太りになった方が見えるが、それは気にしない。自然に眼が行くのを必死に堪える。
クラス会は3時間で終わった。最初は静かに始まったと訊いていた会も、終わった頃には最高潮に盛り上がっていた。
「ばいばーい」
「またねー」
酒を飲んで気分の良くなった若者達が三々五々に散っていった。
やはりクラス会に行って良かった。
中学時代の同級生達はそれぞれ別々の人生を歩んでいた。当たり前のことだ。
しかし、自分達が中学生だった頃、いずれ大人になるということを知っていながら、本当に大人になる姿など誰も想像できていなかった。
心のどこかで、永遠に子供のままでいられる、若いままでいられる、そう信じていた。
当時おじいさんに見えた理科の先生を見て、この先生にも中学生だった時代があったのかと疑っていた。
私が中学、高校、大学を卒業して、大人になるにつれて気付かされることがあった。時間は平等だということだ。他人に話したら笑われそうなことだが、案外理解できていない人が多い気もする。
社会人になって、今までの考えが完全に玉砕された。
大人の社会は想像を絶する程厳しいものだった。私は中学生の時、年中スーツを着て電車に乗る大人を見下していた。
そこまでして自分を殺して何が楽しいんだよ。
生きてるか死んでるか分からん顔するくらいなら会社なんて辞めちまえ。
そんな自分の考えを信じて疑わなかった。俺?俺は自分の才能を伸ばして金を稼ぐんだよ。
……今考えると恥ずかしい。
あの根拠のない自信は何だったんだ。そもそも、それに見合う努力すらしてこなかった。
大人の社会は生きづらい。子供が考えているより遥かに生きづらい。
会社の先輩や上司でプライドを捨ててまで頭を下げまくる姿を見ていると、今は心から尊敬する。 あの人達の多くは自分の家族のために身を削っていることを知ったから。
例え反抗期の子供が口を利いてくれなくても、家族から蔑まれてもだ。
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