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里帰り 3
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母は手を休めないままフライパンで肉を焼いている。
「その電話したのっていつだっけ?」
「そんなこといちいち覚えてないわよ。あっ、でも確かお父さんの一周忌の辺りだった
気がするわ」
父が死んだのは8月だった。今から3ヶ月くらい前だ。佐々木と同時期に婚約することを報告したことになる。
婚約する相手として二人に伝えた名前は遥だった。やはりおかしい。
どうして出会ってもいない相手の名前を伝えているんだ?
「琴音って名前じゃなかった?」
冗談っぽく言ってみる。
「あれ?そうだったっけ?そうだったかもね」
「何だよ、いい加減だな」
「そう言われるとそんな気がしただけよ。琴音ちゃんって名前なの?」
興味のなさそうな母の態度に苛立ちながら、「さあな」とだけ応えた。
だが、母が遥という名前を出したということは、母はやはり私からその名前を聞いたのだろう。
私と佐々木以外で遥と婚約することを知っている人間はこの町にいない。佐々木が母に伝えるというのも考えにくい。
母が琴音という名前を聞いた時の反応はよくなかった。母の性格から考えるとその名前は初耳だったように感じる。
早めの晩御飯を食べた後、帰宅することにした。実家を出ると辺りは既に暗くなっており、寒さが増していた。
マンションに着いて車から降りると、言いようのない違和感に突如襲われた。周囲を見渡してみるが帰宅途中のサラリーマンが一人歩いているだけで、他には誰もいない。
気のせいか。
エントランスに入る場所でマンションの鍵を落としてしまった。
軽い溜息が出た。立ったまま鍵を拾うと、逆さになった視界に何かが見えた。
「ん?」
即座に鍵を拾い上げて振り返るが、そこには何もなかった。
あれは何だったんだろう。マンションの柱の横に女の人が立っていた?
まあいいか……。帰ろうとするが、気になって踵を返すと柱へ駆け寄った。
そこには誰もいなかった。
やはり勘違いだろうか。
「その電話したのっていつだっけ?」
「そんなこといちいち覚えてないわよ。あっ、でも確かお父さんの一周忌の辺りだった
気がするわ」
父が死んだのは8月だった。今から3ヶ月くらい前だ。佐々木と同時期に婚約することを報告したことになる。
婚約する相手として二人に伝えた名前は遥だった。やはりおかしい。
どうして出会ってもいない相手の名前を伝えているんだ?
「琴音って名前じゃなかった?」
冗談っぽく言ってみる。
「あれ?そうだったっけ?そうだったかもね」
「何だよ、いい加減だな」
「そう言われるとそんな気がしただけよ。琴音ちゃんって名前なの?」
興味のなさそうな母の態度に苛立ちながら、「さあな」とだけ応えた。
だが、母が遥という名前を出したということは、母はやはり私からその名前を聞いたのだろう。
私と佐々木以外で遥と婚約することを知っている人間はこの町にいない。佐々木が母に伝えるというのも考えにくい。
母が琴音という名前を聞いた時の反応はよくなかった。母の性格から考えるとその名前は初耳だったように感じる。
早めの晩御飯を食べた後、帰宅することにした。実家を出ると辺りは既に暗くなっており、寒さが増していた。
マンションに着いて車から降りると、言いようのない違和感に突如襲われた。周囲を見渡してみるが帰宅途中のサラリーマンが一人歩いているだけで、他には誰もいない。
気のせいか。
エントランスに入る場所でマンションの鍵を落としてしまった。
軽い溜息が出た。立ったまま鍵を拾うと、逆さになった視界に何かが見えた。
「ん?」
即座に鍵を拾い上げて振り返るが、そこには何もなかった。
あれは何だったんだろう。マンションの柱の横に女の人が立っていた?
まあいいか……。帰ろうとするが、気になって踵を返すと柱へ駆け寄った。
そこには誰もいなかった。
やはり勘違いだろうか。
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