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25 賢者の時間。

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 お夕飯は一緒にって、ネネちゃんに呼ばれて来たんだけど。
 疲れてるのかな、何か暗い気がする。

《お疲れ様ー?》
「体力ってどうすれば付くんですかね」

《あー、慣れ、じゃないかな?》
「慣れ」

《いや、多分、加減してくれてたんだなって今分かった》
「加減」

《またしたいなーって思わせるプロだなって》
「あぁ、いや、もうしたくないとは思って無いけど。そうか、凄いなプロ」

《そんなに?》

「蛇はヤバい」
《同性だからこそ、加減が難しいのかな?》

「あー、なのかな、リーチの差でテクニカルが炸裂してた」
《あー、って言うか彼らは?》

「コンちゃんは見回り、影ちゃんは影で休んでる」
《影で休む?》

「そうした能力らしい」
《あ、あぁ》

「妖精は人型で生活するからって、登録しに行ってる」
《そこリアルだよね、行政しっかりしてる所》

「あ、もしかしてワンチャン、ゲームの可能性が有ったのか」
《いやでもこんなリアルなゲーム無くない?》

「それこそ近未来に飛ばされてて、何かをクリアすれば、はいお疲れ様でしたって」
《なにそれこわい》

「そこで来訪者としての格付けがなされて、その世界の何処で生きるかが決められる」
《怖い怖い怖い》

「私、多分、ドベだ」
《えっ?何で?》

「しちゃったし」
《でもしない選択肢有る?》

「力を求め過ぎって」
《いやココで加減してたり焦れてたら、危ないイベント来るかもじゃん?》

「でもだって治安良い方だし」
《それこそ王族周囲なんだもん、でも逆に王族周囲だからこそ、自衛も出来るべきじゃない?》

「だとしても、先ずは最低限で」
《ネネちゃん?惚れられたからって試す為にヤらない選択肢、有った?》

「そこは、もう少し、熟考すべきだったかなと」

《何か有ったの?》

「1回で済ませずすまなかったと、殿下に反省された」
《ぉお、世に言う賢者タイム?》

「それと罪悪感」
《あぁ》

 だよね、限られた環境にして好感を得ようとしたんだから。
 まぁ、それで逆に好きになっちゃったのも悩みに含まれるだろうし、好きだからこそ酷い目に遭わせたって負い目も出るワケで。

「本気で好きなのかは分からないけど、酷く落ち込まれて、ショックだった」
《あぁ》

「それと」

《と?》

「やっぱり男って、大して好きじゃなくても出来るんだなって」
《ネネちゃぁん》

「多分、アイツ、ヤる前から浮気してたんだと思う」

《どうしてそう思ったの?》

「体液の、濃さの違い、とか」

《ぁあ、成程》
「まじまじと見たワケでは無いんだけど、全然、違ったし。こう、何もかも、違ったから」

《そっか、それも悩んでたんだ》

「それと、何か、酷い事をしてる感覚で、復讐してるみたいで嫌になる」

《あ、男、男全体にって事?》
「うん、酷い目に遭わせた男への復讐心が無いかと聞かれると、全く無いとは言えないから」

《そりゃ私だってネネちゃんの元彼に酷い目に遭えって思うもん、でもコレって、自分の中の善悪のバランスの問題だと思うんだよね。正義感とか秩序とか不条理とか、そうしたモノが混ざった自分の中の善悪のバランス感覚だと思う。だから行き過ぎなきゃ、何だって良いと思うよ?》

「その、行き過ぎについて悩まれた。制御が難しくて、自制心があまり働かなかったって」
《あー、最中に過度に自制されたの?》

「事後、後悔された」
《善い心が有るって事だよね、それに大好きって気持ちも。うん、どう償えば良いか悩んでるのかもね?》

「どうだろう、最悪は辞退も考えた方が良いって言ったら、考えるって」
《真面目》

「初恋、らしい」
《あぁ、成程》

 向こうでは初恋は叶わないのが定説だけど、コッチは長続きしないって言うのが定説なんだよね。
 賢者タイムは同じ意味なのに、モノによって違いが有る。

「ごめん、悩まなくて済むかと思ってたんだけど」
《ココでのお付き合いって果ては結婚だし、しかも相手は王侯貴族だもん、悩んで当然だよ》

「はぁ、本当ごめん」
《いえいえ、暫く相手の様子見なんだろうし、ゴハン食べよう?》

「食欲無い」
《食べないと言い負かされるかもよ?》

「頂きます」
《うん、頂きます》

 ネネちゃん、そこそこ負けず嫌いで良かった。



《レオンハルト、どうして暗い顔をしてるんだろうか》

 浮かれるとは思わなかった、けれどココまで落ち込むとは。

『自制が効かなかった』
《あぁ、うん、分かるよ》

『忠告を受けながらも、だ』
《凄く美味しい食べ物を目の前にした子供に、その美味しい食べ物から食べて良いと言われたら、誰でもそうなるんじゃないかな。美味しかった?》

『あぁ』

 レオンハルトはネネと同じ様に、真面目で仕方が無い。
 負い目と罪悪感が有る、それにも関わらず、自制が効かなかった。

 だからこそ、事の後に後悔している。
 酷く、激しく。

《騙した事を悔いてる?》

『あぁ、もっと他に道が』
《ココの中にも皇族や元老院の間者が居るんだし、意に沿わない事は不可能だよ、しかもそれで失敗したなら一方的にコチラの責任になる。悪いのは老害、僕らは葛藤しながらも命令には従った、そして結果は失敗》

『どうしても』
《ダメだったなら君に譲る事になるけど、それが神の定めた運命なら、どう足掻いても道から逸れる事は難しい。なる様にしかならない、人事を尽くして天命を待つよ、出来る事は限られるからね》

『彼女は、俺すら選ばないかも知れない』
《それもそれで君にとっては辛い道になるかも知れないけれど、暫くは一緒に居られるんだし、僕はとても羨ましいよ》

『本当に、俺で良いんだろうか』
《少なくとも僕はそう思っているよ、それにネネも嫌では無いからこそ、受け入れたんだしね》

『それはあくまでも、数少ない選択肢の中で』
《上手くやれるか不安なら、寧ろに相談すべきじゃないかな、良い機会だし相談してみると良いよ。どんな答えが返って来るか、楽しみにしているよ》

 きっと、どうせ碌でもない答えだろうけれど。
 それはそれで、ネネとの差別化には必要な事、だしね。



『ユノ』
『あ、レオンハルト様』

『浮かない顔だな』
『すみません、何も上手く出来無くて』

『食事のマナーは勿論、姿勢や話し方については問題無いと聞いているが』

 それは嘘だ。
 ルーイは勿論、レオンハルトにも全て正直に伝えている。

 如何に無知で、不作法で、不出来か。

 正直、俺はネネ様を尊敬しているが。
 それらを差し引いても、比では無い程に、彼女はどうしようも無い。

『でも、それだけなんです、ココの知識は全然ですし。私、相応しくなれるか不安で』

 彼女はレオンハルトの袖に縋り付いた。

 ネネ様なら、絶対にそんな事はしない。
 下品な態度が過ぎる。

 そうした弱った姿を晒す事など、貴族はしてはならない、そう教えているにも関わらず。
 完全に俺の存在すら無視し、目に涙を溜め。

『ユノ、もし戻りたくなったのなら』
『お願いします、私、ココに居たいんです』

 俺が、護衛が居る事を彼女は分かっている筈だ。
 なのにも関わらず、彼女は殿下として存在するラインハルトに、縋ったまま。

 明らかにマナー違反だ。
 彼女は正式な婚約者では無い、表立って婚約者の様に振る舞ったとて、書類上は赤の他人。

 いや、寧ろ彼女には人権すら無い。
 偽名で登録など、出来る筈も無いのだから。

 彼女は、獣以下だ。

『ユノ、向こうでの事を聞かせて欲しい』

『ごめんなさい、まだ』
『なら、初恋は覚えているだろうか、ココでは初恋は長くは続かないと言われているんだが』

 彼女は何かを迷い、暫くして口を開いた。

『少し年上の方でしたけど、強引に関係を迫られて、別れたんです』

 コレも、嘘だ。
 魔道具を使わずとも分かる、彼女は過去を思い出した後、視線を動かし想像しながらも言葉を紡いだ。

 俺は女性を落とす手練手管は教わってはいないが、尋問の技術は習得している。
 この女は、嘘を言い慣れている。

 流石にレオンハルトも、気付いたらしい。

『そうか、すまない』

『でも、アナタに出会えたから』
『その事で、実は相談が有るんだが』

『何でも仰って下さい』

『向こうでは、どう、付き合いを深めていくのか教えてくれないだろうか』

 一瞬だが、目を細めた。
 そして表情を困惑の形に変えると。

『どう、お教えすれば良いのか』
『先ずは全体の流れからで頼めるだろうか、嫌な思いをさせたくないんだ』

『はい、分かりました』

 誤解を生む言い回しが、上手くなったな。
 誰に嫌な思いをさせたくないのか、その明言を避けた事で、彼女は都合良く誤解した。

 嬉々として、ココでは明らかに常識外れな事を並べ立て始めたが。
 レオンハルトは、耐えられるだろうか。

 ネネ様を想っているからこそ、受け入れ難い内容なのだから。



「あ、それは無いですね、そう言われたモノは且つては存在してましたけど」
《うん、性病増えてるし、耐性菌だって増えてるから。うん、万能薬なんて無いですよ》

『では体の相性を重要視し、体を重ねるのは寧ろ当たり前だ、と』
「成程、こうして偽の知識が広まるワケだ」

《確かにそこは心配だけど、うん、無いかな》
「あ、うん、無いです有り得ません」

『はぁ』

 私の偽者さん、嘘とまでは言わないけど、大袈裟って言うか何て言うか。

《ふふふ、大変でしたね、殿下》
《にしても嘘をスラスラ言ってたそうですけど、サイコパスなんですかね?》

《いや、サイコパスの反応こそ、寧ろ穏やかなんだ。だからこそ、魔道具を扱う者の素養も必要とされる》
「成程」
《って言うかサイコパスの概念も有るなら、私達来訪者って逆に要らないと思うんですけど?》

《知識が有ったとしても、時には断片的であったり、専門家の知識では無い場合も有る。それに、来訪者の知識は国同士では共有しない事になっているんだ、例外を除いてね》

「最高位とて、全ては知れないんですね」
『あぁ』
《量が膨大だからね、定例会で議題に上がった内容以外は、有事が起きた場合のみ。書庫の精霊に単語を伝え、関連する本だけが取り出され、読める様になっているんだ》
《便利》

《けれど内容が完全に纏まっていない限り、あくまでも点と点、容易に結論には至れないんだ》
「無知だったとしても、意見による補完が可能かも知れない」

《それだけでは無いけれど、その役目も有るね》
《でも完成した知識なら、そっか、最後の欠片が他国と同じとは限らない》

《けれど来訪者には介入が可能。間違っていると指摘する事も、編纂する事が出来るのも、来訪者が居る場合のみ》
「他国が欲しがりそうなモノですが」

《逆に、面倒を押し付ける場合も有るから、迂闊には接触して来ないんだよ》
「成程」
《国としては何処に行って欲しいとか有ります?》

《今回の君の知識は非常に有意義だからね、特別な貸しと言う事で、各国に教えるつもりだけれど》
「信じるか信じないかは別、査定の為に召還されそうですが」

《うん、そうなるだろうね》

《ネネちゃんも一緒で良いですか?》
《構わないよ、身を守り合うにも2人が良いだろうしね》

《で、もしネネちゃんが他の人が良いってなったら》
《破棄を受け入れるよ、ネネにも選ぶ権利は有るから》

「なら、私の為を思うなら、反対もして下さい」
《勿論》
『ネネの為になる者が現れたなら、決して邪魔はしない』

 何か、キューってするな。
 出会い方が悪かっただけで、今は想い合ってると言えば想い合ってるのに、真っ直ぐにお付き合いが出来ない状態。

《もっと、来訪者用に各国の状態を整えて貰いたいんですけど》
《その為にも、赴く事が必要になりそうだね》
「ですね、先ずはエリザベート様の領土ですかね」

《うん、もう既に書庫の鍵も貰っているんだし、いつでも行ってくれて大丈夫だよ》
『その際は俺が同行する』
「2号のフォローは宜しいんですか」

《そこは僕かカイルがするから大丈夫だよ》
「分かりました、直ぐに伺える様に手配をお願いします」
『あぁ、分かった』

《ネネ、後で少し良いかな》

「分かりました」

 何か、切ないなぁ。
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