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14 招待状。

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 立食会は良い試金石になったらしく、2号ちゃんに大量の招待状が届いた。

『これら全てが、近衛や皇族が警戒している家の物だ』

「あー、寧ろマトモなのは」

『コレだけだが、かなり日付が遠い』
《要するに社交辞令だね》
《おぅ、何て良い釣り餌》
「撒き餌効果効き過ぎ」

《2人の場合、2人一緒に招く招待状がマトモ、単独での招待はどの道受けさせないからね》
「うん、こうして後ろ盾無しの方が試金石になれるワケだし、サンキュー2号ちゃん」
《アレ着てたらね、まさに殿下のってなってただろうしね》

 今回の件で、この国への評価がかなり上がった。

 2人をけしかけたのは、コチラを見極める為だけでは無く、多分殿下の為。
 しかも市井での治安の良さは本物らしく、2回目に食材を見に行った時も、特に騒動は無かった。

 件の2人は事情を寸劇で演じながら各地を転々とさせているそうで、ユノちゃんがナイス悪しき見本の使い方、とか言っててちょっと驚いた。

 どうやらこの世界は、悪しき者に人権は無いらしい。
 そこは善人なら喜ばしき事だけれど、冤罪の発生率は勿論、基準が問題。

 でも全く、何も問題が無いと、ココへの査定を行う事は難しい。

 平和の維持は勿論、如何に問題を解決するか、そこで国の真価が問われるワケでして。
 となると、やはり。

「お茶会、出るしか無いでちゅね」

《何それネネちゃん、何、その可愛い喋り方》
「ココでは実質赤ちゃんと同じだ、と侍女が言ってくれたので、正しく初心を忘れない様にと思いまして」

《侍女ナイス》
「はぁ、でも問題はドレス、白は本当に神経を使うから2度と着たくない」

《分かる、想像するお茶会で着続けるとか本当に無理》
「殿下、黒とか着たいんですが」

『黒は、あのバートリー家の色なんだが』

 白は来訪者、又は同等の高貴な色となる。

 そして赤色が憤怒、薄紫色が色欲、悲嘆は青。
 緑色は怠惰、虚栄が黄色、美食はピンクことマゼンタカラー。

 強欲が黒。
 其々の色に意味が有ると言えば有るそうで、黒が強欲なのは全ての色を含有しているからこそ。

 それは来訪者の白も同様、全ての要素を含有しているからだ、とされているらしい。
 色と光の三原色が綺麗に纏まって、ガッツリ作為的なのがちょっと気になるが。

「彼女は」
『彼、でも有るんだ』

《へっ》

『本当だ』

「遠目と言えども全く分からなかった」
《マジで?》

『血統主義と言うより、特性主義なんだ』

 何でも、代々両性具有が当主、の家系だそうで。
 少しでも血筋に両性具有が現れたら、はい当主、と言った感じらしく。

「アバウト」
《でも子孫繁栄には最適だよね》
『ただ、一時は血が濃くなった時代も有ったんだ』

「あぁ、近親交配による作為的な両性具有の発現?」
『あぁ』
《動物だと繁殖率低下しませんでした?》
《うん、だから一時的に、一部の者がやろうとして直ぐに発覚。帝国が暫く居留して、絶対禁忌だとして分からせた》

 ぐう有能。

《そこで何か問題でも起きたの?》
『いや』
《どっちもイケるから警戒してる》
「成程」

 そりゃ使えるもんを使って最大限楽しむなら、まぁ、ハーレムも仕方無いか。
 向こうの世界より、遥かに娯楽が少ないんだし。

《でも近隣諸国の中では断トツで力が強いんでしょ?》

『かなり、自由なんだ』

 無法地帯と自由は紙一重。
 ただ、混乱無く治安が安定しているなら、寧ろ統治力としてはかなり優れている事になるんだけど。

「何でそんな躊躇います」

《もしかして、本当に嫉妬だけ?》

 あ、頭を抱えた。

「おい」
『いや』
《混血がかなり多様で、それだけ、外見が良い者も揃ってるんだ》
《あぁ、成程》

『しかも、魔獣の森と聖獣の巣を有している』
《魔法、能力を得るにはかなり良い立地なんだけど》
《ネネちゃんを奪われちゃうかも、か、成程》

「だとしても、嫉妬で邪魔は幼稚過ぎでしょうよ」
『すまない』
《それだけ誘惑も多いんだよ、夢魔の系譜も多いから、本格的な娼館も有るし》
《マジ売春?》

《うん、しかも男も女も、相手を探す為って名目でしっかり管理されてるけど》
『首に鎖が付いているワケでも、何か目印が有るワケでも無く、普通に市井で暮らしているんだ』

《で、したくなったら娼館に行く》
『あぁ』

「わぉ」
《わぉわぉ、未成年立ち入り禁止だぁ》
『いや、そこは問題無い』
《未成年に手を出すと厳罰、生殖器を丸ごと切り取り生かす、名前と絵姿付きで展示される》

「正に厳罰」
《うん、全ての国に絵姿と名前が記録されるから、未成年と関わる事は一生出来無い。例え自分の子供でも孫でも、関われない》
《正に厳罰だ》

「けど、そう罪を擦り付けられたら困るんですが」
『そこは魔道具と魔法も使い、真偽判定が行われる』
《そっか、魔法有るんだった》
《未成年から誘う事も十分に考えられるからね、未成年は未成年の証を付けてる、額に紋様が有れば未成年》

「あ、あぁ、アレか」
《各国共通なんだね》
《紋様は各国で違うけれど、そうした策は同じ。未成年から唆した場合、更生施設で再教育後、結婚相手が決まるまで出られない》

《バレなきゃ良いとか有りそう》
『あぁ、円満な付き合いなら、問題化しなければ問題とはならない』
《けれど別れ話が拗れたら》
「そら両者訴え合いますわな、施設はパンパン?」

『あぁ』
「成程、だから船乗りさんは知らないワケだ、関わりが無いんだし」
《あ、会わないの?》

「勘違いかも知れないけど、若干の好意を感じた気がするので止めておく」
《モテモテぇ》

《ネネは黒髪で黒い瞳だからね》
「能力でモテましてもね」
《若しくは後ろ盾とか家柄でモテてる、としか思えないもんね》
『ネネ、俺もルーイもそうではないんだ』

「はいはい、原点回帰しますよ、ドレスですよドレス」
《で、黒を着るならバートリー家に許可が必要?》
『あぁ』

「で、バートリー家の招待状は」
《コレかな?》
『あぁ』

 真っ黒な封筒に金文字、超素敵。

「出席します」
《だね》



 無気力な人って、どうしてそうなるのかなと思ってたんだけど。
 ネネちゃんを見てると何となく分かった気がした、常に比べられ続けて、しかも自分より周りの付属品にばかり気を向けられたら。

 私だって無気力になってたと思う。
 じゃあ、もう頑張らない、頑張ったって嫌な事ばっかりじゃんって。

 でもネネちゃんは家族に恵まれたからこそ、あんまり拗ねないで曲がらなかった。
 だから今でもこうして、ココで程よい成果を出す為にも、見極ようとしてる。

「何故、不意に頷いてるけど、何を納得しているんでしょうか」
《ネネちゃん、単に褒めるだけじゃなくて、小言もワンセットだった人とか居た?》

「えっ、透視能力が本当に」
《いや、知り合いに居てさ、秒で反撃出来る子。共通点ってそれかなと思って》

「成程、知り合いが糧になるタイプ」
《見習いたいなと思って、でも上手く出来無くて、そうした素地の問題かなって》

「ユノちゃん十分に殺傷能力を有してそうだから、こんな居合切りは、心配してくれてる?」
《まぁ、それなりに》

「小学校の時、褒めた後、でもお姉さんはお兄さんはって続ける人が居て拒否った」
《そりゃ拒否るよね》

「中学の時も、アナタのお姉さんはこうだった、アナタのお兄さんはこうだったって始まって。もしかして違う教育のされ方をしているんじゃないか、話し合いをしたいが時間は取って貰えるのか、そもそもご家庭で問題が有るなら言ってくれって」

《善意にしても言い方が有るよね》
「その時はもう姉に雑誌社の知り合いが居て、少し相談したら、もしかしたら情報を売ろうとしてるんじゃないかって。冗談半分でそのまま姉が探偵を雇ったら、大当たり。息子さんが引き籠りで、老後の蓄えの為に小遣い稼ぎするつもり、だったらしい」

《そら人間不振になるよぉ》
「でも、他の人は有る有るって。実際、塾の講師に、そうやって情報を引き出させられようとした子も居たんだよね」

《あぁ、金持ちのゴシップに一体何の生産性が有るって言うんだろ》
「ぶっちゃけ無いよね、けど金融系に関わってると、結局は株価に響く場合も有るから」

《あぁ、そっか、家族経営で大問題とか出たもんね》
「まぁ、悩みも青天井だから、大した事無いじゃんで終わるワケですよ」

《若いと特に不幸マウンティングのし合いとか有るもんねぇ》
「かと言って、全容を暴露すれば売られるだろうから、程々の友達しか出来無い」

《あ、言わないからね、絶対》
「いや、信用してるし、そんなに戻る気無いし」

《それ、どうなっちゃうんだろう》

「年間の失踪者の人数、知ってる?」

《あー、色んな国の情勢を調べた時ウチの国は確か、10万以下だった気がする》
「うん、年間約8万人前後の届け出が出てる、でほぼ同数が生存確認されてる」

《でも全部じゃないんだよね》
「うん、完全に失踪状態になるか、死亡かなと思う」

《ネネちゃんは、どっちが良いと思う?》

「家族にしてみたら、どっちもどっちだとは思うけど、死亡かなって思う」
《探し続ける負担が有るもんね》

「死んでても、後悔が残るだろうとは思う」
《戻るとか、それこそ行き来するとかは?》

「行き来」
《うん、出来たらしたいなと思って》

「それ、どっちみち、どっちで死ぬかで」
《あ、そっか》

「まぁ、それが出来るなら、1度無難な場所に渡航して。でもなぁ、定期的にビザの更新だとか有るから、クソ面倒そうだなって思ってしまうな」
《あー、結構ネネちゃんの家族ってベッタリなんだ?》

「あぁ、まぁ、騒動に巻き込まれがちと言うか、舐められ易いらしくて」
《それは騒動に気付けてるとも言えるんじゃない?気にしないで突っ走って終わりとかも有るんだし》

「その速度も無く、絡まれがちだから、構われがちでは有ると思う」
《でも、折角なんだし、皆幸せが良いなぁ?》

「ちょっと、考えてみる、ありがとう」
《出来たらだから、うん、ついでついで》

「でも、ありがとう」

 こうやって優しいから、無気力になっちゃうんだろうなって思った。
 心配させないってなると、結局は無難に生きる事になるし、無難って本当に難しいし。

 誰も悪く無いんだけど、ほんのちょっと相性が悪かったんだと思う。

 はいはいって、気が付かないで居られたら。
 もう少しだけ、ネネちゃんは幸せを感じられたのかなって。

 でもなぁ、目の付け所がシャープだなと思う時も有るし。
 難しいよね、家族って。

 そうか、そりゃそうか、相手選びに慎重になるワケだよね。
 家族との相性の悪さを、ずっと感じてたんだし。
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