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第3章 好意。
13 情愛の温度。
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学園での授業が終わった後、急遽アーチュウ様のお屋敷にお呼び出しが有り。
今はシャルロット様とメナート様が同席する状態で、アーチュウ様と居るのですが。
『見て下さいアニエス嬢、私も鍛え始めたんです』
『こら、勝手に見せるのは止めなさい、先ずはベルナルド様に許しを。そう敢えて怒られて喜ぶな、本当に怒るぞ』
『すみませんアーチュウ、つい嬉しくて』
『お前、謝る先が違うだろうに』
『すみませんアニエス嬢、シャルロットはやっぱり優しいですよね』
『まだその話を、すみませんアニエス様、私的な事を持ち込む事に』
「いえ寧ろ大いに持ち込んで頂きたいのですが?」
『優しいですね、アニエス嬢も』
『メナート、反省しないなら暫くは会わないぞ』
そう叱られると、途端に涙目になられて。
『すみません』
「アーチュウ様、ココまではしゃぐメナート様をご覧になるのは」
《いや、初めてだ。だが、すまないシャルロット嬢、もう少し落ち着く様に言い聞かせる》
「え、勿体無いですよ、私達に仲が良いと教えたくてやって下さったんでしょうし、ね?」
『はぃ』
『はぁ、すみません。分かり難いにも程が有るぞメナート』
『ですけど、言ってその通りにしてくれると思えなくて』
「確かにシャルロット様はアーチュウ様同様に少し硬めですから、もしかすればメナート様に偶に合わせる程度で、丁度良くなるのかも知れませんね」
『やはり、私は少し硬いんだろうか』
「私は勿論、メナート様も問題とは思っていなさそうですが、社交場では。あの、もしご結婚の場合はどちらに?」
『私がベルトロン家に入るつもりです、元はベルナルド家の子では無いですし、いずれ誰かの家にと考えられていたそうですから』
「成程、でしたら逆にこのままでも良いのかも知れませんね、社交場ではメナート様の方が強そうですから」
《やはりアニエスもその結論になったか》
『メナートには、暫く四令嬢達の付き添いを任せる事になったんです、彼は表では無名も同然ですから』
「あぁ、もしかしたらお知り合いに遭遇する事を心配なさっているんですか?」
『いや、こう幼い面を見てしまうと』
「一緒に居らっしゃるからかと、幼いのだと私も自己紹介を頂きましたが、今の今までは全くそう思いませんでしたよ?」
《例の店に行った時も、平気だったんだろうか》
「はい、そんなに信用なりませんか?」
『いや、前とはかなり違い』
『大人ぶる必要が無くなりましたからね、余計な手間を省いているだけなんですが、また前の様に』
《いや、そんなに無理をさせていたなら、それは俺らの望む状態では無いんだが》
『いえ、ですが正しい大人とはどの様なものか模索しながらでしたので、少し疲れる程度で』
『いや疲れて欲しくは無いんだ、出来るなら先ずは、勉強に専念して欲しい』
「あぁ、もう少しお若かったら誤魔化せそうですが、流石に学園は難しそうですしね」
《そこなんだが、以前に準男爵家等の成り上がり用に場を設けたいと話していたろう、そこで暫く学んで貰うつもりなんだ》
「成程、お忙しくなりますね」
『ですから満足に会える日が暫く遠のきそうなので、甘えたいんですが』
『鍛えてくれと五月蠅いんだ』
《早く大人になりたいらしい》
「分かりますよ、私も早く大人になればアーチュウ様の口説き文句をいなせるのではと考えた時期が有りましたから、ですが結局は積み重ねなんですよね。どういなすか毎回考え、答えを編み出すか見つけ出す、それは全てに通じる事なのだと。いっそ、どう甘えるなら納得して頂けるのかをシャルロット様に」
どうして今日、急に呼ばれたのか分かりました。
私もウブな方だとルイ先生に困られたのですが、シャルロット様は私を抜き去って1番にウブらしく、真っ赤に。
《こう、こうした事をミラ様には言い出し難いらしくてな》
「是非是非、共に進歩しましょう、シャルロット様」
『あぁ、いや、進む気は無いんだが』
『どう甘えて欲しいか言って下さらないと、私には何が正しく不快にさせないのか分かりませんから、お願いしますシャルロット』
今はまだメナート様の中身が未成年だそうですし、見守る時期なので婚約者では無いそうなのですが。
赤くなれると言う事は、シャルロット様にはそれなりに受け入れる気が少しは有ると言う事でしょうし、だからこそ押し過ぎず見守りつつ応援をさせて頂こうかと。
「では先ず、お2人には出て頂いても?」
《あぁ、頼んだアニエス》
『すみません、アニエス様』
『宜しくお願いしますね、アニエス嬢、では』
「メナート様、見事に大人と子供を使いこなしてらっしゃいますね」
『そうなんだ、本当に、コチラも油断して大人扱いすると、途端に涙目になられて』
「ウチの兄も、制御が効き難い子だったそうです、要するにお調子者でして。それがまた甥っ子にも遺伝子してしまいまして、メナート様よりは素直な子なんですが、偶に非常に分かり辛い、それこそマルタンさんの様な子なんですよ甥っ子」
『それで分かったんですね、メナートの真意を』
「と言うかシャルロット様をお好きだからこそ、良い所を見せたい、先ずはそれが念頭に有る子が多いらしくて」
『あぁ、それで』
「でも私、張り切るっていい事だと思うんですよね、無気力で無欲になられてしまったら、もう何をしても釣れませんから」
『確かに、以前のメナートは無欲さが厄介だったと、シリル様が仰っていたが』
「慣れです慣れ、従業員の家族ともお会いしますけど、大概の男の子はあんな感じです。ジハール侯爵のご子息の方が珍しいんですから、振る舞い以外は幼い、そう思って頂くと、心配ですね確かに」
『そう失敗は無い筈なんだが、つい、万が一を考えてしまい』
「流石に、死ぬ様な失敗は無いのでは、それこそ四令嬢は良い方々ばかりですし」
あぁ、そっちも心配でらっしゃるんですね。
『それは、知っているんだが』
「いざと言う時は懲らしめましょう、しっかり復讐してスッパリ忘れて、次へ向かうんです。コチラが幾ら悩んでも、その頃には既に向こうは楽しくお茶会に出て美味しい思いをしているかも知れない、なら私は気にせず無理にでも前に進むべき。そうルイ先生に諭されました、好きにならない言い訳も用意出来るけれど、先ずは誠意には誠意で応えるべきだって。そして万が一にも裏切られたら、素早く立ち直り次へ進む、進みながらでも復讐出来るから先ずは進みなさい、悪しき者の思う壺は嫌だろうって」
『アニエス様は、少しばかりメナートの過去の仕事を知ってらっしゃるそうで』
「とてもフワッとですが、察する事は出来ているかと、アーチュウ様が知らずシャルロット様が嫌悪している事から、そうかと」
『私は、コレで良いのでしょうか』
「良いと思える方向へ向ければ良いだけなのでは?少なくとも今のメナート様は素直でらっしゃるでしょうし、シャルロット様が大好きでしょうから」
これもまた、察してしまったのですが。
あんなにも素直に愛情表現をして頂けなかったんですね、元婚約者様に。
それなのに可愛げが無いだなんて、可愛げは引き出して頂くモノだって、ルイ先生も仰ってたのに。
全く、女騎士の婚約者の座に甘えながらも努力をしない、それなら今のメナート様の方がマシだと思うのですが。
マシかどうかは、シャルロット様が決める事でらっしゃいますし。
迷いが有るなら解決してから、そこから改めて答えを考えるべきで。
『好いても、おかしくは無いんだろうか』
「行為によって好意が左右されて当然です、もしアーチュウ様がマリアンヌさんやクラルティさんに傾いたなら婚約はお受けしていませんし、その事実が分かった時点で破棄です」
お手紙を解説付きで読ませて頂き、確かに私が読むべきだと理解しました。
あんなにも切実で、困惑しながらも、必死で誤解を解こうとして文言が重複している物も有り。
確かに私を好いてる、誤解を恐れ、不安で堪らないのだと思いました。
その事がもし演技だとしたら、寧ろ私は騙されて当然で悪く無いと思うんです。
そしてもし騙すなら、私が死ぬまで騙し続けて欲しい。
私を愛しているなら、特に。
『やっぱり、大人の方が良いんですかね』
無理をしなくても良い、その言葉に甘えてみたんですが、困惑されてしまいましたし。
私も私で、油断してしまうと制御が難しく、つい。
《前から気になっていたんだが、お前は、怒られるのが好きなのか》
『興味が無いと怒らないかと、褒めるのは利用する為に庶民すら使う手口、ですけど叱るのは情愛からだと母が。チグハグな事を言う人でしたが、そこは正しいかと』
《俺は、叱らせない、怒らせない事も情愛だと思うがな。アニエスが言っていた通り、時に叱る事は異常に疲弊させる、シャルロット嬢に疲れて欲しいか?》
『いえ、ですけど、どう見極めれば良いんでしょうか、情愛なのかお世辞なのか』
《俺はアニエスの言葉は無条件に全て受け入れているつもりだ、だからお前もシャルロット嬢の言葉だけでも素直に情愛の表現なのかを、いっそ尋ねてみるのはどうだ》
『真っ赤になり俯いたままになってしまうんですけど』
《あぁ、それは同意と受け取って構わないだろうが、そこも念の為に尋ねた方が良いかも知れんな》
『聞かないと正解は分からない』
《聞いても分からない場合も勿論有るが、聞かない理由は無いだろう》
『そうですね』
受け入れるかどうかは勿論、そもそも本当にメナートの記憶は戻らないのか。
特に記憶に関し、私の不安を払拭する為にも敢えて積極的にメナートには働きかけているんだが。
『メナート』
『あ、シャルロット』
声を掛ける程度で、ココまで喜ばれてしまうと。
正直、頑なに受け入れないで居る事が、寧ろ悪い事なのではと。
だが受け入れるとなれば容易い事では無い、それこそ全てを受け入れるつもりが無ければ、受け入れるべきでは無い。
私の為、メナートの為にも。
『近い、容易く女性に触るな距離を保て礼儀を弁えろ』
『シャルロットにだけなんですけど、嫌ですか?』
あんなに嫌悪していたのに、嫌では無いから困っているんだ。
『元婚約者にすら、こうした事は』
『婚約者なら構いませんか?私が婚約者は嫌ですか?』
以前なら注意すれば一旦は引いたと言うのに、一体、どうして。
まさかアニエス様が。
いや、寧ろ段階を経るべきだと。
ベルナルド様か。
『ベルナルド様か』
『はい、尋ねるべきだろう、と。読むには経験が無さ過ぎですから、お尋ねすべきかと』
元婚約者は空気を読み、常に。
いや、もしかすれば最初から情愛が無かったのかも知れない。
アニエス様に城で呼び止められたベルナルド様は、それこそ破顔されていらっしゃったのに、彼は。
私の事を理解し、私に合わせてくれていたのだと思ったのは、そもそも私の思い違いなのかも知れない。
単に興味が無く、当たり障りの無い対応をしていたに過ぎず。
コレが本来、情愛の表れ、コレが抑え切れない程の情愛の発露なのか。
『もし、私以外にこうした行為を行った場合』
『殺して下さい、アナタにしかするつもりも有りません、ならきっと薬で操られた私でしょうから殺して下さい』
どうして、嬉しそうに潤んだ目で殺せ等と。
そうか、彼は歪みが強い時期のメナート。
あのメナートは女を抱く事で、ある意味で正しい道筋を学び、表面上でも他と変わりが無い様に装えていた。
確かに、どんな事にも利は有る。
人によって、人其々に利を得られる部分は違う。
『そんなに容易く薬を盛られ操られるなら、死よりも苦痛を味わって生きながらえるべきだな』
『はい、ですね』
『近い触るな、まだ婚約者では無いんだ』
『なら人目が無い所なら良いですか?そんな場所で会ってくれますか?』
若い者が良いとのたまう者の意図が、私には全く分からない。
困る事しか無いだろうに、全く。
『我慢しろ、考えておく』
『ご褒美が無いと頑張れないかも知れません』
『全く、お前は』
『嫌なら我慢します』
アニエス様は良いとして、問題はベルナルド様だな。
既に以前の仕事を察してらっしゃるにしても、メナートに相変わらず甘いままだそうだし、少し釘を刺して頂こう。
『手だけだ、良いな』
『はい』
俺は、俺なりの助言をしたつもりが。
《ベルナルド、シャルロットから聞かせて貰ったのだけれど。アナタ、メナートに何でも尋ねろと仰ったそうね?》
『良かれと思い助言はしましたが、何か』
『ふふふふ』
《シャルロットからの苦情よ、あまり積極的になる様な助言は控えて欲しい、と》
『申し訳御座いません』
『はぁ、うん、本当に人って凄いね。立場と環境が変わるだけで、こんなにも行動や考えが変わるんだから。ふふふふ』
《もう、珍しく不安そうにしてらっしゃったのに、安定したらこうなのですもの。いつもこうだったのかしら?》
《不安そうなシリル様を見た事が無いので》
《まぁ》
『こんなにも先が読めない事は無かったからね、初めて神頼みをした位だよ』
《アナタでも読めなかったんですか》
『全然だよ、だからこそカサノヴァ家にも頼っているんだし、次も心配と言えば心配だしね』
《バスチアン様の事ですわね》
『メナート達の事よりは簡単そうに思えるんだけど、今回みたいに準備前の段階で予期せぬ事故が有るとね、道筋が一気にバラけてしまうから。結局は読めない、読み切れる事なんて殆ど無いんだよ』
《それこそ、そこまで読めては最早、神では》
『うん、僕は神じゃないからね、先を読むのは本当に難しいよ』
《ですが、バスチアン様の事も、勝ち筋は見えてらっしゃるのですよね?》
『まぁ、多少はね』
既にバスチアン様は安定した場所にいらっしゃる筈が、一体、何の勝ち筋なのだろうか。
《ふふふ、あぁ、そう言えばシャルロットが元婚約者とクラルティの様子を見に行くそうなの、念の為に影で見守って下さらない?》
『そうだね、頼むよアーチュウ』
《畏まりました》
シャルロット嬢は一体、何をしに行くんだ。
今はシャルロット様とメナート様が同席する状態で、アーチュウ様と居るのですが。
『見て下さいアニエス嬢、私も鍛え始めたんです』
『こら、勝手に見せるのは止めなさい、先ずはベルナルド様に許しを。そう敢えて怒られて喜ぶな、本当に怒るぞ』
『すみませんアーチュウ、つい嬉しくて』
『お前、謝る先が違うだろうに』
『すみませんアニエス嬢、シャルロットはやっぱり優しいですよね』
『まだその話を、すみませんアニエス様、私的な事を持ち込む事に』
「いえ寧ろ大いに持ち込んで頂きたいのですが?」
『優しいですね、アニエス嬢も』
『メナート、反省しないなら暫くは会わないぞ』
そう叱られると、途端に涙目になられて。
『すみません』
「アーチュウ様、ココまではしゃぐメナート様をご覧になるのは」
《いや、初めてだ。だが、すまないシャルロット嬢、もう少し落ち着く様に言い聞かせる》
「え、勿体無いですよ、私達に仲が良いと教えたくてやって下さったんでしょうし、ね?」
『はぃ』
『はぁ、すみません。分かり難いにも程が有るぞメナート』
『ですけど、言ってその通りにしてくれると思えなくて』
「確かにシャルロット様はアーチュウ様同様に少し硬めですから、もしかすればメナート様に偶に合わせる程度で、丁度良くなるのかも知れませんね」
『やはり、私は少し硬いんだろうか』
「私は勿論、メナート様も問題とは思っていなさそうですが、社交場では。あの、もしご結婚の場合はどちらに?」
『私がベルトロン家に入るつもりです、元はベルナルド家の子では無いですし、いずれ誰かの家にと考えられていたそうですから』
「成程、でしたら逆にこのままでも良いのかも知れませんね、社交場ではメナート様の方が強そうですから」
《やはりアニエスもその結論になったか》
『メナートには、暫く四令嬢達の付き添いを任せる事になったんです、彼は表では無名も同然ですから』
「あぁ、もしかしたらお知り合いに遭遇する事を心配なさっているんですか?」
『いや、こう幼い面を見てしまうと』
「一緒に居らっしゃるからかと、幼いのだと私も自己紹介を頂きましたが、今の今までは全くそう思いませんでしたよ?」
《例の店に行った時も、平気だったんだろうか》
「はい、そんなに信用なりませんか?」
『いや、前とはかなり違い』
『大人ぶる必要が無くなりましたからね、余計な手間を省いているだけなんですが、また前の様に』
《いや、そんなに無理をさせていたなら、それは俺らの望む状態では無いんだが》
『いえ、ですが正しい大人とはどの様なものか模索しながらでしたので、少し疲れる程度で』
『いや疲れて欲しくは無いんだ、出来るなら先ずは、勉強に専念して欲しい』
「あぁ、もう少しお若かったら誤魔化せそうですが、流石に学園は難しそうですしね」
《そこなんだが、以前に準男爵家等の成り上がり用に場を設けたいと話していたろう、そこで暫く学んで貰うつもりなんだ》
「成程、お忙しくなりますね」
『ですから満足に会える日が暫く遠のきそうなので、甘えたいんですが』
『鍛えてくれと五月蠅いんだ』
《早く大人になりたいらしい》
「分かりますよ、私も早く大人になればアーチュウ様の口説き文句をいなせるのではと考えた時期が有りましたから、ですが結局は積み重ねなんですよね。どういなすか毎回考え、答えを編み出すか見つけ出す、それは全てに通じる事なのだと。いっそ、どう甘えるなら納得して頂けるのかをシャルロット様に」
どうして今日、急に呼ばれたのか分かりました。
私もウブな方だとルイ先生に困られたのですが、シャルロット様は私を抜き去って1番にウブらしく、真っ赤に。
《こう、こうした事をミラ様には言い出し難いらしくてな》
「是非是非、共に進歩しましょう、シャルロット様」
『あぁ、いや、進む気は無いんだが』
『どう甘えて欲しいか言って下さらないと、私には何が正しく不快にさせないのか分かりませんから、お願いしますシャルロット』
今はまだメナート様の中身が未成年だそうですし、見守る時期なので婚約者では無いそうなのですが。
赤くなれると言う事は、シャルロット様にはそれなりに受け入れる気が少しは有ると言う事でしょうし、だからこそ押し過ぎず見守りつつ応援をさせて頂こうかと。
「では先ず、お2人には出て頂いても?」
《あぁ、頼んだアニエス》
『すみません、アニエス様』
『宜しくお願いしますね、アニエス嬢、では』
「メナート様、見事に大人と子供を使いこなしてらっしゃいますね」
『そうなんだ、本当に、コチラも油断して大人扱いすると、途端に涙目になられて』
「ウチの兄も、制御が効き難い子だったそうです、要するにお調子者でして。それがまた甥っ子にも遺伝子してしまいまして、メナート様よりは素直な子なんですが、偶に非常に分かり辛い、それこそマルタンさんの様な子なんですよ甥っ子」
『それで分かったんですね、メナートの真意を』
「と言うかシャルロット様をお好きだからこそ、良い所を見せたい、先ずはそれが念頭に有る子が多いらしくて」
『あぁ、それで』
「でも私、張り切るっていい事だと思うんですよね、無気力で無欲になられてしまったら、もう何をしても釣れませんから」
『確かに、以前のメナートは無欲さが厄介だったと、シリル様が仰っていたが』
「慣れです慣れ、従業員の家族ともお会いしますけど、大概の男の子はあんな感じです。ジハール侯爵のご子息の方が珍しいんですから、振る舞い以外は幼い、そう思って頂くと、心配ですね確かに」
『そう失敗は無い筈なんだが、つい、万が一を考えてしまい』
「流石に、死ぬ様な失敗は無いのでは、それこそ四令嬢は良い方々ばかりですし」
あぁ、そっちも心配でらっしゃるんですね。
『それは、知っているんだが』
「いざと言う時は懲らしめましょう、しっかり復讐してスッパリ忘れて、次へ向かうんです。コチラが幾ら悩んでも、その頃には既に向こうは楽しくお茶会に出て美味しい思いをしているかも知れない、なら私は気にせず無理にでも前に進むべき。そうルイ先生に諭されました、好きにならない言い訳も用意出来るけれど、先ずは誠意には誠意で応えるべきだって。そして万が一にも裏切られたら、素早く立ち直り次へ進む、進みながらでも復讐出来るから先ずは進みなさい、悪しき者の思う壺は嫌だろうって」
『アニエス様は、少しばかりメナートの過去の仕事を知ってらっしゃるそうで』
「とてもフワッとですが、察する事は出来ているかと、アーチュウ様が知らずシャルロット様が嫌悪している事から、そうかと」
『私は、コレで良いのでしょうか』
「良いと思える方向へ向ければ良いだけなのでは?少なくとも今のメナート様は素直でらっしゃるでしょうし、シャルロット様が大好きでしょうから」
これもまた、察してしまったのですが。
あんなにも素直に愛情表現をして頂けなかったんですね、元婚約者様に。
それなのに可愛げが無いだなんて、可愛げは引き出して頂くモノだって、ルイ先生も仰ってたのに。
全く、女騎士の婚約者の座に甘えながらも努力をしない、それなら今のメナート様の方がマシだと思うのですが。
マシかどうかは、シャルロット様が決める事でらっしゃいますし。
迷いが有るなら解決してから、そこから改めて答えを考えるべきで。
『好いても、おかしくは無いんだろうか』
「行為によって好意が左右されて当然です、もしアーチュウ様がマリアンヌさんやクラルティさんに傾いたなら婚約はお受けしていませんし、その事実が分かった時点で破棄です」
お手紙を解説付きで読ませて頂き、確かに私が読むべきだと理解しました。
あんなにも切実で、困惑しながらも、必死で誤解を解こうとして文言が重複している物も有り。
確かに私を好いてる、誤解を恐れ、不安で堪らないのだと思いました。
その事がもし演技だとしたら、寧ろ私は騙されて当然で悪く無いと思うんです。
そしてもし騙すなら、私が死ぬまで騙し続けて欲しい。
私を愛しているなら、特に。
『やっぱり、大人の方が良いんですかね』
無理をしなくても良い、その言葉に甘えてみたんですが、困惑されてしまいましたし。
私も私で、油断してしまうと制御が難しく、つい。
《前から気になっていたんだが、お前は、怒られるのが好きなのか》
『興味が無いと怒らないかと、褒めるのは利用する為に庶民すら使う手口、ですけど叱るのは情愛からだと母が。チグハグな事を言う人でしたが、そこは正しいかと』
《俺は、叱らせない、怒らせない事も情愛だと思うがな。アニエスが言っていた通り、時に叱る事は異常に疲弊させる、シャルロット嬢に疲れて欲しいか?》
『いえ、ですけど、どう見極めれば良いんでしょうか、情愛なのかお世辞なのか』
《俺はアニエスの言葉は無条件に全て受け入れているつもりだ、だからお前もシャルロット嬢の言葉だけでも素直に情愛の表現なのかを、いっそ尋ねてみるのはどうだ》
『真っ赤になり俯いたままになってしまうんですけど』
《あぁ、それは同意と受け取って構わないだろうが、そこも念の為に尋ねた方が良いかも知れんな》
『聞かないと正解は分からない』
《聞いても分からない場合も勿論有るが、聞かない理由は無いだろう》
『そうですね』
受け入れるかどうかは勿論、そもそも本当にメナートの記憶は戻らないのか。
特に記憶に関し、私の不安を払拭する為にも敢えて積極的にメナートには働きかけているんだが。
『メナート』
『あ、シャルロット』
声を掛ける程度で、ココまで喜ばれてしまうと。
正直、頑なに受け入れないで居る事が、寧ろ悪い事なのではと。
だが受け入れるとなれば容易い事では無い、それこそ全てを受け入れるつもりが無ければ、受け入れるべきでは無い。
私の為、メナートの為にも。
『近い、容易く女性に触るな距離を保て礼儀を弁えろ』
『シャルロットにだけなんですけど、嫌ですか?』
あんなに嫌悪していたのに、嫌では無いから困っているんだ。
『元婚約者にすら、こうした事は』
『婚約者なら構いませんか?私が婚約者は嫌ですか?』
以前なら注意すれば一旦は引いたと言うのに、一体、どうして。
まさかアニエス様が。
いや、寧ろ段階を経るべきだと。
ベルナルド様か。
『ベルナルド様か』
『はい、尋ねるべきだろう、と。読むには経験が無さ過ぎですから、お尋ねすべきかと』
元婚約者は空気を読み、常に。
いや、もしかすれば最初から情愛が無かったのかも知れない。
アニエス様に城で呼び止められたベルナルド様は、それこそ破顔されていらっしゃったのに、彼は。
私の事を理解し、私に合わせてくれていたのだと思ったのは、そもそも私の思い違いなのかも知れない。
単に興味が無く、当たり障りの無い対応をしていたに過ぎず。
コレが本来、情愛の表れ、コレが抑え切れない程の情愛の発露なのか。
『もし、私以外にこうした行為を行った場合』
『殺して下さい、アナタにしかするつもりも有りません、ならきっと薬で操られた私でしょうから殺して下さい』
どうして、嬉しそうに潤んだ目で殺せ等と。
そうか、彼は歪みが強い時期のメナート。
あのメナートは女を抱く事で、ある意味で正しい道筋を学び、表面上でも他と変わりが無い様に装えていた。
確かに、どんな事にも利は有る。
人によって、人其々に利を得られる部分は違う。
『そんなに容易く薬を盛られ操られるなら、死よりも苦痛を味わって生きながらえるべきだな』
『はい、ですね』
『近い触るな、まだ婚約者では無いんだ』
『なら人目が無い所なら良いですか?そんな場所で会ってくれますか?』
若い者が良いとのたまう者の意図が、私には全く分からない。
困る事しか無いだろうに、全く。
『我慢しろ、考えておく』
『ご褒美が無いと頑張れないかも知れません』
『全く、お前は』
『嫌なら我慢します』
アニエス様は良いとして、問題はベルナルド様だな。
既に以前の仕事を察してらっしゃるにしても、メナートに相変わらず甘いままだそうだし、少し釘を刺して頂こう。
『手だけだ、良いな』
『はい』
俺は、俺なりの助言をしたつもりが。
《ベルナルド、シャルロットから聞かせて貰ったのだけれど。アナタ、メナートに何でも尋ねろと仰ったそうね?》
『良かれと思い助言はしましたが、何か』
『ふふふふ』
《シャルロットからの苦情よ、あまり積極的になる様な助言は控えて欲しい、と》
『申し訳御座いません』
『はぁ、うん、本当に人って凄いね。立場と環境が変わるだけで、こんなにも行動や考えが変わるんだから。ふふふふ』
《もう、珍しく不安そうにしてらっしゃったのに、安定したらこうなのですもの。いつもこうだったのかしら?》
《不安そうなシリル様を見た事が無いので》
《まぁ》
『こんなにも先が読めない事は無かったからね、初めて神頼みをした位だよ』
《アナタでも読めなかったんですか》
『全然だよ、だからこそカサノヴァ家にも頼っているんだし、次も心配と言えば心配だしね』
《バスチアン様の事ですわね》
『メナート達の事よりは簡単そうに思えるんだけど、今回みたいに準備前の段階で予期せぬ事故が有るとね、道筋が一気にバラけてしまうから。結局は読めない、読み切れる事なんて殆ど無いんだよ』
《それこそ、そこまで読めては最早、神では》
『うん、僕は神じゃないからね、先を読むのは本当に難しいよ』
《ですが、バスチアン様の事も、勝ち筋は見えてらっしゃるのですよね?》
『まぁ、多少はね』
既にバスチアン様は安定した場所にいらっしゃる筈が、一体、何の勝ち筋なのだろうか。
《ふふふ、あぁ、そう言えばシャルロットが元婚約者とクラルティの様子を見に行くそうなの、念の為に影で見守って下さらない?》
『そうだね、頼むよアーチュウ』
《畏まりました》
シャルロット嬢は一体、何をしに行くんだ。
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