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完結?以降は外伝?

ねぇ、ロッサ・フラウ。

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「はい」
《学園なるモノが欲しいのだけど、ウチにも知恵を貸してくれるわよね?》

 ブリテン王国の女王自らのお願い、けれど。

「案は出せますが」
《実働は不可能なのよね、しかも成熟度次第では先延ばしも視野に入れなくてはならない》

「はい」
《大丈夫、良さそうな転生者が居るから、その子に任せようと思って》

「では私は」
《その子は向こうの中つ国の、後宮なる場所で過ごしていたらしいの、ね?》
『ですね』

「ガブちゃん」
『身の保証をするとの事で、敢えて教え、自由にさせています』
《そうなの、全く関わらずに居るわ。ただ、危険が迫れば保護は出来る様に、ソチラで監視して頂いてる子の1人なの》

「成程」
《で、その子に学園を作らせるには基礎知識が少ない、そしてココでも。だからウチはウチで独自に発展させたいの、学園を》

「何故」
《青春なるモノを子に味あわせたいの。奉公制度も良いのだけど、王侯貴族の教育水準は閾値を満たした、なら次の段階へ行っても構わないでしょ?》

 青春と学園の知識は、転生者の書いた本によって広まってしまっている、とは知っていたけど。

「女王陛下」
《婚約者候補の選抜と教育が同時に可能じゃない?しかも直ぐに足切りはしないから良い方向へ変わる子も居る、となれば可能性は広がる、でしょ?》

「仰る通りですが、実質、新たな国を作る程の難しさが有るので」
《知識を出し渋られてるのよ、その転生者に。多分、利用される事を警戒している、それだけの地頭が有る》

「であれば正式な保護に」
『彼女、いえ彼がそうした措置を望んでいないのです』
《でも知恵は出させたい、活躍させたいの。そして安心して貰って、国や貴族位に縛られず自由に生きて欲しい。その為の足掛かりに学園創設をお願い出来たらな、と思って》

 既に似た施設は小規模なら各国に存在している、けれども正史派が。

「正史派が」
《だからこそ、我が国は違うと何処かで示さねばならない。転移転生者を縛らず、利用は最低限に、後は自由に》

「だとしても、まだ少し、早いのでは」
《一定の到達点が見えないからこそ伸び悩む事も有ると思うの》

「仰る通りで」
《じゃあ協力してくれるわよね?》

「あの、本を書き上げた者に協力させれば宜しいのでは」
《既にさせてるけど、ある意味で答え合わせがしたいの、アナタの方が色々と経験が有るから》

 噂では15才のヲタクだったそうで。
 まぁ、確かに私は倍の年数を向こうで過ごしていますし。

 見過ごし、何か有れば後味が悪い。

「抜け漏れを見付け、塞ぐ、ですね」
《お願いね》

 既に断れない状況にさせられていた、流石、女王陛下。



《いや、女王がね、今流行りの本に書かれているような学園なるモノを欲しているんだよ》
《そうなの、お願いね》

 一介の地方領主だった2人の男が突然呼び出され、王命を受け、学園を作る事に。

『どうして、急に、何だ、何を失敗したんだろうか』

 別室へ案内される途中、ひたすらに独り言を呪詛の様に吐き出しながら、親指の爪が無くなりそうな程に噛んでいた彼こそが転生者。

「ギャレット、爪が無くなってしまわないか」

 そして独り言を言いつつ爪を噛む者の幼馴染の名は、トリスタン。

 ある意味で親友とも呼べる存在と言っても過言では無い者が、後に深く学園に関わる事になる。
 と言うか人質に近い、転生者が最も大切にしている存在を敢えて王命を下す場に同席させた、転生者ギャレットはその意味を分からない程の浅慮では無い。

『すまない、トリスタン、本当に』
「いや、君の爪が無くなるのは構わないんだが、痛そうなのは見ていられない」

『そこまでは噛まないよ、こう見えて噛んでいると言うか、主に歯で削ってるんだ』

「何故」
『気を紛らわす為だよ、慣れた習慣は心を落ち着かせるからね』

 トリスタンは前世では女給、女官をしており、王族に関わる迄には長い歳月を要した。

 全ては前世の知識による怯え。
 王族に逆らえば殺される、それを間近で見てしまっていたからこそ、王族からの保護を敢えて避けていた。

 だが食事体系が全く違う西洋、醤を得るには、どうしても成り上がるしか無かった。
 そして医学、薬草の知識を少しづつ披露し、用心深く名声を築き上げていった筈が。

 全ては神や天使、それこそ妖精や女王の手の上で踊らされていたに過ぎない。
 けれども自由も得ていた、女性を娶らずに済む自由、彼の心は今でも女性のまま。

 だが勘違いしないで欲しい、トリスタンにとってギャレットは無二の親友、全くもって性的対象では無い。
 彼女の好みは。

「トリスタン、歯が削れる心配は無いのか?」
『無い、歯の方が硬い』

「そうか」

『すまない、巻き込むつもりは本当に無かったのに』
《どうぞ、コチラです》

 部屋に入ると、目の前にはトリスタンの好物がびっしりと並べられた机が2つ。

 トリスタンは自分の好物ばかりが並べられ、コレが処刑前の最後の晩餐なのかと息を呑んだ。

「これは」

 そしてギャレットは、トリスタンの最後の晩餐なのでは、と。

『先ずは、食事にしよう』
「いや話が先だ」

『あぁ、じゃあ、少し下がって貰えるかな』
《はい、では、失礼致します》

 どこから話そうか、トリスタンがそう思う間も無く。

「で」
『いや、先ずは食べながら、スープでも飲みながら聞いて欲しい』

「これは、最後の晩餐では無いんだな?」
『勿論だよ、うん、どうぞ』

 ギャレットはその言葉を信じる事が難しかった、明確には断言し難いけれど、トリスタンの嘘や誤魔化す時の仕草を熟知してしまっている。
 それが裏目に出たのか、敢えて無視すべきでは無かったのか、そう思いながらもギャレットは澄んだスープを口にした。



 そして数年後なのか、数十年後なのか、その学園に再び転生者が関わる事に。

《五月蠅いわね、いい加減にして頂戴。婚約破棄も、考えているのよ?》

(キターーーーーー!!やっとだ、長かった)
(何なら自分の青春半分以上が無駄に、いや、破棄されれば無駄じゃないか)

 彼の名はイーライ、そして中に入っている魂の性別は。

 いや、性指向は何なのか。
 それすらも実はさして重要では無い、結局は、問題はどう生きるか。

「あの」
『はい、何か?』

 美青年、若しくは美丈夫とも表現される厩務員グルーム、ウォルターとの運命と。

《大丈夫、イーライ》

 彼の幼馴染のパトリックとの運命は、どうなるか、彼らはどう生きるか。



 神々は物語が大好きだ。
 悲劇が好きだ、喜劇が好きだ。

 歌劇で、演劇で、本の中で。
 この地上で行われる、ありとあらゆる人間関係を愛している。

 では、人は。

 人も物語が大好きだ。
 寓話、神話、それこそ機械が紡ぎ出す物語すらも慈しむ。

 では、人と神の違いは?
 人と同じ形をし、物語を愛し、人間関係を愛する。

 そうして時に事象に介入し、時に無視をする。

 何が神と人を分けるのか、世界ちゃんとは、神と世界ちゃんの違いは何なのか。

『で、終わり?スカアハ』
「あぁ、敢えて、ココで終わりだ、アヴァグドゥ」

『問うんだね、世界ちゃんの事を』
「あぁ、閾値へと到達したでな」

 例え文が途切れたとて、物語は終わらぬ。
 人が存在し、神が存在する限り。
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