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更に更に、その後。

ネオスと誤解と。

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 明らかに避けられていると分かった頃には、既に。

『あの、どうして避けられているのか教えて下さい、ローシュ』

「仲の良い子が居るでしょう織り師の子、だからもう、私とは」
『ちょっと待って下さい、誰の事ですか?』

「エイル」
『それは誤解です、彼女に好意は有りません』

「気付いて無いだけじゃない?」
『無いです、アナタに感じる性欲も何も感じない、ただの知り合い、友人です』

「でも、アーリスが確認した時、アナタが恋をしてるって」

『それは、いつの事か分かりませんけど。多分、アナタを重ねて対応していた時だと思います』

「ん?どう言う事?」
『もしアナタがココで生まれ育っていたら、転移転生者でも何でも無いローシュは、どう育っていたか。そう考えて、それと、ローレンスを真似て接してみようと思ってた時が有るので』

「何故、いえ、後半の、ローレンスを真似てみたのは何故?」
『私は結局、ローレンスとは違い、周りを良く見ないでいられる環境に居た。なら私も、機会が有るならと』

 そうして最初は重ね、そう重ねる事への罪悪感から、ローシュがココで何も無しに育っていた場合を考えながら接していて。
 ずっと、年頃の女性を相手にする時は特に、ローシュかも知れないと。

「エイルがアナタに恋してるらしいんだけど」

『絶対に無い筈です。それに私は本当に、アナタの事だけしか考えてませんからね?』

「でも、何か用意してると聞いてたけど、ソッチからは何も無いから」
『落ち着いたらと、思ってて。ですけどこの前はハンガリーに行ってしまってましたし、それからは会う機会も無くて』

「行く前に、王から、エイルと親しげにしているのを見たって。実際に私も、アナタの家の前でエイルが青い布地を持って」
『それは相談を受けてたんです、好きな相手が居て、贈り物をしたいって』

「あら、なら」
『けどダメになって、それで相談のお礼にと貰っただけで、なので好意は向こうも無い筈なんです』

「あら、凄い引っ掛かるわソレ」
『本当に何も、家にも入れてませんし、2人で会うのも来られた時に外で離れてますし』

「何回来られたの?」

『多分、5回は、ですけど』
「ガブちゃん、エイルは最近失恋した?ネオスが好き?」
『最初の質問に対しては、いいえ、次の質問の答えはハイ。ですね』

「凄い、相談女って居るのね、ココにも」

『あの、それは』
『相談を持ち掛け親しくなろうとする戦略を行使する女性、ですね』

『そんな回りくどい』
「好きになって貰うには回数、会う頻度が重要、直結するのよ。本能で分かってるのかしら、凄い、興味深い子ね」
『因みに転生者です』

「またまた、冗談はよし、本当に?」
『はい』

「えっ」
『害になりそうな知識も無かったので、問題無いかと放置していました』

「それ、デュオニソス様も?」
『うん。ただ、記憶の鮮明化が遅かったのと、今回の事が有るから、ちょっと困る事になるかも』

「と言いますと?」
『記憶の混濁が起きてて、ココが自分の思い描いたゲームが現実になったんだと思い始めてるんだ』
『所謂乙女ゲー、ですね』

「またまた」
『考えてもみてよ、転生後の肉体が得た何かと同調して記憶が蘇ってる。けど前に殆ど体験していなかったら?』

「感情だけが誘因となって、記憶を思い出す?」
『しかも転生前の記憶もあやふやなら』
『人は勝手に辻褄を合わせるそうで』

「例外オブ例外が、ココに」
『私でも評価や見極めが難しい、不安定な状態なのです』
『僕も初めて聞く状態だから、少し気を付けて接してあげて欲しいかも』

「はぁ」
『すみません、私が勘違いさせたのも』
『その前からですから問題は無いかと』

「だそうなので、報告に行きましょう」

 そして王の前で自分の愚行を述べた後。

『で、乙女ゲーって何だ?』
「そこ説明するの苦痛だわ」
『では私が』

 女性が男性を攻略するのが目的だ、と。

『攻略って、城かよ』
「まぁ、落とす、とも言いますし。堅牢な城か、ガバい城を攻略するか、ですから」
『私は崩れた些末な城の筈なんですが』
『呪いが掛けられ外見に被害が出ている、そうした者かも知れない、と』

「まぁ、そうとも言える、的外れじゃないのが凄いわねぇ」
『本当に、私の影響は無いんですか?』
『皆無とは言い切れませんが、原動力が攻略、ですので』

「まさかハーレムルートとか」
『彼女の中に存在している単語ですね』

「あらー、ネオスを落としてから次は誰に向かうのかしら」
『ルツですね、良く顔を合わせますから』

「あら王道」
『そんな王道有るかよ』

「あ、定番、ね」
『定番なら俺は?』
『除外されています』

「ぐふっ」
『姉上ェ』

「ごめんなさい、笑い事じゃないわね、ぶふっ」

『良いのか姉上、姉上と似た好みだぞ』
「ネオス」
『結構です』

「ネオスとルツ以外は?」
『プロイエシュチの……』

 確かに、私の知る限り、ローシュの好みと非常に似通っている。

「まさか、でも姪っ子は色々と体験してる筈で」
『アレじゃねぇか、思い出したく無いとか、転生者にも有るんじゃないか?』

「確かに、精神的な記憶障害だった場合、全て思い出したら死を選んでしまうかも知れない。そうした安全装置が効き過ぎてたか、思い出せる状態が心身共に整ったか」
『全てを思い出せないかも知れんよな』
『アナタの姪御さんは不幸だったかも知れませんが、絶対に私には無理ですからね。アナタしか嫌なんです、渡させて下さい、準備していたモノを』

「あ、はい」



 ショック療法にはなってしまうけど。

『結婚し、引っ越す事になりました』

 この子が姪っ子かも知れないと思うと、死にそう。

《あ、そうなんですね、おめでとうございます》
『ありがとうございます、では、失礼します』

 泣かれたら死ねる。
 そう思ってたのに。

 スン、ってしてる。
 凄く冷静で、寧ろ逆に怖い位に無表情で。

「もしかして、逆?」

『逆、とは』
「元は普通でも、転生体の方がサイコパスだったとしたら」

『得られる感覚や感情、誘因が少ない』

「分からないけど、可能性が無いとも言い切れない。しかも前世での記憶を頼りに模倣しているなら、見分けも難しい」

『どう、しますか?』
「結婚させてしまう案しか浮かんでこない」

 心身共に安定させ、無茶をさせない為に。
 けど、そんな事の為に結婚させるのも。

『凄く自分勝手で申し訳無いんですが、後は他に任せて、先ずは私の贈り物を受け取って貰えませんか?』

「あ、はい」

 家かドレスか、正直、そう思っていて。

『敢えて木造にしました』

 日本家屋。
 の、横に。

「滝」
『水辺をと思い、嫌でしたか?』

「いえ、音も、静か過ぎなくて良いと思う」
『ですよね、前に言ってたのを思い出して。あ、中にどうぞ』

 畳。
 井草の匂いの、畳。

 土間、お釜まで揃って。

「禁忌が詰め込まれてる」
『私達だけの予定で、もし子供が居ても、入れないつもりです』

「夫婦だけの安全地帯」
『はい』

「そんなに日本に来て欲しく」
『寧ろローシュが遠慮している事を気にしていましたよ、近くを散策しても良いのに、何もせずに直ぐに帰ってしまうって』

「万が一にも他の誰かに会ったら、迷惑を掛けると思って」
『他にも、要求が少ないとも、なので譲って頂けたんです、色々と』

「白無垢」
『着た事が有るかも知れませんが、もう1度お願いします、私の為に』

「何故?」
『色々と見せて貰ったんですが、コレが1番、綺麗だと思ったので』

「断れない、ズルいし、卑怯では?」
『ですよね、私もそう思います』

「本当に良いの?」
『生まれ変わってもローシュが良いんです』

「次は顔を焼かないで済む世界で」
『それでも要求されたら喜んで焼きますよ、アナタだけで十分なんですから』

「宜しく、お願いします」
『コチラこそ、宜しくお願いします』



 やーっと、ネオスの贈り物を見れたんだが。

『お前、ズルいな?』
『ローシュにも言われました』
《その当人は眠ってるみたいですが》
『何か、ちょっと涙の匂い』

『泣いて、蹲って、そのまま眠ってしまって』
『子供か』
《かなり緊張してましたからね》
『中々寝付けなかったのに、早く起きちゃってたし』

『ニヤニヤしやがって、嬉しいかネオス』
『はい』

『クソ、良いなぁ滝が近いの、俺もこんな別荘欲しい』
『候補地が何ヶ所か有るので、どうぞ』

『手際が良いな、偉い』
《それで、彼女の事は》
『ローシュが言うには……』

 想定とは逆かも知れない。
 普通の人生を送っていて今はサイコパスの体に入っているからこそ、記憶を呼び起こす誘因が少ないのかも知れん。と。

『複雑だなおい』
『安定の為にも結婚させる案しか浮かばない、と、なので他に任せる事を前提に連れて来たんです』
《成程、その事も有って泣いてしまったのかも知れませんね》
『今は、大丈夫、ぐっすり』

『まぁ、結婚で安定するってのは間違い無いと思うが』
《恋をする機会を減らす事になるので、懸念点はそこかと》

『んなもん結婚してからでも出来るだろ、相手に』
《そうした相手であれば、ですが》
『それはもう私達が厳選に厳選を重ねて吟味して』
『選んだから大丈夫』
『私も協力しましたので、後は選んで頂くだけかと』

『娘さんに選ばせる、ってか、なら場をどうにかせんとな』
『そこは任せるわ、じゃあね』
『頼んだよ』
『宜しくお願いしますね』
《だそうなので、私達に任せて下さい》
『あ、あの白い、着物?は?』

『着て貰うつもりだったんですけど、もう、後回しにしようかと』
『だね、ローシュを起こそう、起きてローシュ』

「ん、何、アーリス」
『唾液』

「んー、後にして」
『違うんだって、ネオスとおめでとうローシュ』

「あー、ブラドも来たのね」
『おう、おはよう姉上』
『ほら、もう僕ら帰るから』

「待って、せめて口をゆすがせて」

 寝起きにキスさせてくれないんだよな、ウチのも。
 別に今更気にせんのに。

《後の事は任せて下さい》
「んー、お願い」
『はい、おめでとう』

 身内のキスはな、気まずい。



『凄い綺麗な生地だね、刺繍と地模様両方有るし』
「コレは確か」
『花車、貴族が乗る牛車を篭に見立てているんだそうです』

「私より知ってる」
『ですけど着付けは全然、結局はローシュに手伝って貰いましたし』

「まぁ、浴衣位は着れてたし」

『被り物は、ベールの代わり?』
「綿帽子ね」
『その通りで、ベールと殆ど同じだそうです』
『口元だけ見えるのって、エロいですよね』
《真っ白な衣装に真っ赤な口紅は、確かにエロいですね》

『ですね』

 良かった、ネオスもローシュも喜んでる。

 けど、僕のドレス、喜んでくれるかな。
 もう貰い飽きちゃってるかもだし。

 最後にって、しなきゃ良かったかな。

『にしても姉上、何か防御力が高そうだな』
「帯って殆どコルセットだから、って言うか、どうして女ばっかりこうなのかしらね」
『苦しいなら脱いでも良いですよ、羽織って貰ってるだけでも嬉しいので』
『ネオスもネオスで、それなりにエロいんですよねぇ』
《その発想も、ですけどね》

『寒い?暑い?』

「んー、今、丁度良いわね」

 僕の、寒いかも。

『コレ、脱がせるのが大変そうですよね』
「着るのも脱ぐのも、特に帯、本当にコルセットと同じで大変なのよ」
《ある意味でネオス専用ですね》

「あぁ、確かに」

 何か、自信が無くなってきたかも。

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