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更に更に、その後。

誤解、とは。

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《折角、誤解も解けたんだ、だから》
「誤解、ですか。では先ず単語選びが不適切である事から指摘しなくては、はぁ、バカですか」

《怒らないでおくれローシュ》
「怒ってはいません、呆れて居るんです。そして怒ると叱る、についてもご理解頂かなくてはいけないとは、はぁ」

《もう君を悲し》
「悲しんでいませんが、もし、悲しむとしたらアナタの頭の悪さについてです」

《こんなにも謝っ》
「謝罪された覚えは有りませんが」

《それは、すまない。ただ、誤解が》
「噂を鵜呑みにする愚行を誤解とは言いません。誤解とは、言葉を互いに尽くしたつもりでも尽くしきれずに起る、思い遣りの行き違い等を指します。アナタのは勘違いでは御座いません、単なる思い込み、浅慮からの愚行です」

《確かにそうかも知れないが、実際に、事前には》
「お相手の事は事前に確認は確かに難しかった。ですが、良く見れば分かった筈です。例え手が荒れていないにしても、道具をどの様に使うのか、手加減が上手か下手か。観察とはただ黙って突っ立って見てる事では御座いません。手際、仕上がり、早さ、それらを吟味する事が観察。どんな事にも通ずる事だ、と教えた筈ですが、ご理解が難しかった様ですね」

《いや、分かってはいても》
「分かる、についてもですね。知る、理解する、この2つには決定的な違いが御座います。文字通り文字の表面をなぞるか、単語と単語の間や行間について書いて有る以上の事を考えられるか。あぁ、この違いも分かって頂けてませんでしたか」

《いや》
「なら正しいお言葉で、正しい単語を使って述べて下さい。アナタは貴族、いずれは当主になる身なのですから」

 事の発端はハンガリーからの要請。
 貴族の教育係として、このバカをどうにかしてくれないかと、彼の親族に泣き付かれての事で。

『あ、もう良いの?』
「あの様に黙り始めたら長いですからね、報告へ行きますよアーリス」

『はーい』

 平和ボケと言うか、素養が無い子を無理矢理育てた結果。

 ネオスの事を考えたかったのに、秘密結社の人数も教育ももう少し頑張らないと。



『次は』
「他の家だけど、ハプスブルク家の繋がりだから、報告相手は同じ」

『数が多いと大変だよね』
「子供は3人まで、でも多いかしら」

『全員、同じ数だけ揃えてから、また考えよう』
「そうね」

 そして次の相手は。

《あの、その分は私のお給金で》
「明らかに足りませんし、そのお給金を出してるのはこの家。どうして、そもそもお断りにならなかったのですか?」

《それは、彼が》
「あの方がエスコートする事も断るべきだった、と言っているんですが」

 どうして黙るんだろ、時間は有限なのに。

《私も、彼が》
「単なるご令嬢でしたら、それでも構いません。ですが、ご自分の身を守る為の教育もさせて頂けてはいない。しかも虐げられるままに無益に時を過ごし、果ては追い出された。そんな貴女が騎士爵と言えど婚約者でも無い男性の家にお世話になっている、それがどれだけの事なのか、分かっていたら直ぐに何処かに身を寄せている筈ですよね」

《そん、ご迷惑だとは》
「はい、そうです、大迷惑です。彼の将来を潰す事になるかも知れない、そう常に彼の為を思い行動して頂ける方とご成婚して頂きたいのですが。この時点で既に幾つもの間違いを犯してらっしゃる、お分かりですかね」

《っすみま》
「謝るなら最初からしないで頂きたかったと、彼のご両親は仰っていますよ」
『馬車のご用意が出来ました』

「ほとぼりが冷めるまで、修道院で過ごして頂きます。決して外部とは連絡を取らぬ様に、彼とも。良いですね?」

《はい》
「では一筆書いて下さい、彼の為に避難する、と」

《はい》

 べっこで置手紙もダメだって分からない、から、こうなってるんだよね。

「金輪際、お付き合いを絶って下さいませ」

『そんな、置手紙位で』
「全ては家名の為です、私はアナタと家名の為に雇われた身。アナタを恋や愛に溺れさせる為に雇われたのではありません」

《ごめん、なさい》
「大事な時に泣かないで下さい、泣けば場が収まるだろうと思う様な愚かな女だと、他の女をも貶める愚行です。控えなさい」
『そんな言い方をしなくても』

「アナタが家名を捨て彼女を取ると言うなら、ご両親を殺して下さい。後始末は我々がします」
《そんな》

「貴女が不用意にも彼の家に匿われてしまった、その時点で彼に汚名を着せるのだと理解し、慎重に行動していれば。こうしてご両親が追い詰められる事は無かったんですが」

『だがまだ周りには』
「王が馬鹿な嫁を娶った、その事に怯えぬ民が居ましょうか。領民や侍従とて同じです、次はどの様な失態を犯すのか、その尻拭いは何処まで波及するのか。果ては何処までなら許されるのだろう、甘えて良いのか、そう舐められる様になる。足元を見られる様になるんですよ」

《そんな、あの人達はそんな悪い》
「今は、です。ですがいつの日か、あの愚かな奥様を大事にしているんだから、この位は大目に見てくれても良いじゃないか。そう要求された時、貴女は何と言って止めるのですか?バカな嫁ですみません、とでも?それで収まらないからこそ、私の様な教育係が居るんです、領地を収めるのがそんなにも簡単なワケが無いじゃないですか」

《けど、ご両親をだなんて》
「今死ぬか、後で無惨にも領民になぶり殺されるか、です。まだ分かりませんか、民は見ているんですよ、貴女達の行動をね。例え王都で起きた事でも、だからこそ、領地に届くまでにどの様な噂になっている事か。例え貴女が耐えられたとしても、お子様は?例え領地で噂されずとも、人の記憶には残ってしまう、お子が王都に戻って虐げられたら貴女達の責任なんですよ」

『そうして、いつか、娶れる相手も養子も居なければ』
「はい、果ては家が滅びます。ですから、今のウチに殺してくれと、ご両親からのお手紙です、どうぞ」

 恋や愛に溺れる事は許す、けど今回は相手が悪い。
 後先を考えたり、立場を考えたり、何より貴族としての振る舞いがなってない。

 最悪は養子を貰うけれど、その場合は2度と領地と王都に近付かず、子孫にも家名や爵位の事も一切伏せるように。

 絶縁状だってローシュは言ってた。

『家名を捨てれば』
「家名を捨てさせる責任を負うか、妾として正妻を大事にさせる事が出来るか、貴女にはそれ以外もう残っていないのです。社交への出席もドレスもお断りしていれば、ご両親も何とかするつもりだった、彼の好意をココで安穏と受け入れた時点で見極めから落第した。平民同士なら、寧ろ私は祝福していましたが、アナタ達は重責を担う貴族の子。示しが付かない事をしてはならないんですよ」

《ごめんなさい、私、家名を捨てさせる事なんて》
『説得する、だから少しだけ』
「その時期は過ぎました、ご両親を信じ連絡するだけでも違ったんです、先に裏切ったのはアナタ達です」

 そこでやっと、2人共に悪いって分かったみたい。
 令嬢の方は修道院に、当主候補は他の女性を選べないからって廃嫡になって、教師用の学校に行く事に。

『何で結婚しなかったんだろうね?』
「新しい家族を作れても、地位や名誉までは与えられないと尻込みしたのでしょう、要は気概と愛が足りなかったのよ」

『ローシュなら、そうした?』
「婚約者が居ないにしても未婚の男性の家に単独でお世話になるのは無理よ、それこそ相手を好きでも、親御さんに怒られたくないもの」

『じゃあ先ずは修道院?』
「そこから通いで関わる為に、先ずはご両親に了承を得てくれないかと。手間を掛けさせる事には繋がるけど、更にその先がね、貴族じゃなければ許されたのに」

『でも両方貴族だしね』
「元、貴族令嬢でも何でも、ね」

 ハプスブルク家のおばちゃんに言って、2つの件は終わったんだけど。
 何か、最後の件でネオスの事で良くない方向に考えてそう。



《お疲れ様でした》
「本当に、表情豊かなお嬢さんで凄く疲れたわ。まるで私がイジメてるみたいで、凄く心が削られた」
『後で美味しいモノを食べて、綺麗なモノを見て、毛皮に埋もれようね』

「ね、と言うか王は何をしてるの?」
《王侯貴族に女性の大切さを、見に行きますか?》

「良いわね、偶には王様っぽい所も見てあげないと」

 そう言ってローシュは静かに戸を開けた先へ。

『男がどうしようとも産み育てるのは女だろ、その女が産みたく無い、育てたくないとなれば結局は子は成せない。そして仮に子を成したとても、男の乳からは何も出ない、子は育たんか育っても病気に弱いか。女に戦も農作業も出来るが、神でも無い限り男に産み乳を出すは不可能、ならばだ……』

 向こうでは男性が優位、だとされている。

 ですがココでは違う、宗教の影響は勿論、早くから男にも不妊の原因が有ると広まったからではと。
 そして魔法の存在だけが違うのでは、とも。

「王っぽい」
『何でこんな話になってるの?』
《女性を貶める発言をした貴族を晒し、教訓とさせているんです》

「大変ね、王様も」
『ローシュもね』
《どちらも。もう終わるかと、戻りましょう》

 そして王と合流後、話題は子供の数へ。

『まぁ、最低でも3人は欲しいが、大丈夫かルツ』
《生めよ増やせよとは言っても、男7人に女が1人より、女7人に男1人の方が増える早さも何もが違いますし。例え3人だとしても、ローシュの負担が増え過ぎですから》

 ブラドはあまりにも多くの血が流れてしまった為、血族を多く残す事に執着は無く、単に愛する者の血が増える事だけを考えている。
 寧ろ真に国家を支えてくれる者が現れたなら、直ぐにでも譲りたい、と世襲制をも否定している。

「もし途絶える寸前なら、ハーレムは非常に有効な手段ですけど」
『そこだ、そこが分からん。男にしてみたら産まれるまでは己の子か分からんし、生まれても分かるかどうか。だが女なら確実に生み出すのは己なのだから、血筋を疑う余地が無い、なら女が家系の長で良いだろうに』
《不貞を疑い争う事も、裁く手間暇も削れますしね》

 良い男、良き子種持ちに女が群がるのは、何処の国でもどの世界でも同じ。
 そして逆もまた然り。

「そこですよ、現状、母体1つに男が3人」
《私はアナタを最優先させますよ、どんな事でも、どんなに恨まれたとしても》
『うん、ローシュが居てこそだし』

 そうした危うさへの回避行動、種全体としての保護本能として、私はアーリスを。
 アーリスは私を、本能的に互いを許容可能なのでは、とも。

《何を残したいか、残すべきか、ですから》
「そこにローレンスも?」

《アレはある意味でスパイスですよ》
『だな』
「王まで」
『王様もエロいの好きだもんね』

『おう、程々にな』
「程々ねぇ」

『なんだよ、王妃から何か聞いてんのか?』
「疲れたので下がらせて頂きますね、立派でしたわよ王様、では」
『ルツ、後で相談が有るから来て、じゃあね』

 そして、相談、とは。

《ネオスの事でしょうか》
『うん、今日の事、貴族だったら許したのにって』

《ネオスはある意味では平民ですし、そう望んで顔を焼きましたしね》
『だから後でちょっと加わって?』

《集中してくれますかね》
『寧ろココで媚薬じゃない?』

《成程》

 私が作った媚薬が効くか。
 いえ、最悪は思い込んで貰いましょう。
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