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更に更に、その後。

ビジュードレス。

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「助かりますわ、ステラ、こんな素敵な仕立て屋を紹介して頂けるなんて」
《良いのよ、アナタの滞在中に女王陛下が訪問なさるなんてね、きっと運が良いのね》

「かも知れませんね」

《けど、どうせなら、あの子の意見を取り入れないとね》
「と言いますと?」

《アナタに婚約を申し込もうとしてるのよ、ドレスと共に》
「あら」

《けど、アナタは本気では無いでしょう?》

「出来るなら、相応しい方と一緒になって欲しいと思ってるんです。初恋に引き摺られず、あの子には幸せになって欲しい」
《もう、初恋だけじゃないのでしょう?》

「その、ステラは、大丈夫でしたか?」
《大丈夫、凄く優しい手付きで、慣れてもいたし、きっとアナタのお陰ね》

「ぁあ、いえ、私は単なる伯母ですから」

 動揺して、こう言うしか無いわよね。

《あら、折角だし、食べてしまえば良いのに》
「一応、結婚する相手とだけ、致す様にと言っていたのですが」

《なら私は合格って事かしらね。アナタとしてはどうかしら?》
「ローレンスには勿体無いかと、既に盤石の体制でらっしゃいますし、まだ特に成果も無いローレンスでは不釣り合いかと」

《既にブリテンでは商才を発揮しているじゃない、女性用用品で。それに今は顔を売る時期、コレからもっと良い男になる筈、だから私にローレンスを頂戴》

「私では無く、ローレンスと」
《ならドレスの案は私に、私の為に聞き出して下さらない?》

「そうですね、そうさせて頂きますわ」

 まだ、今なら私の横恋慕程度で収められる。
 まだ隙は有る、機会は有る。

《どうかしら、ローレンス》
『お2人共、良くお似合いですよ』
「タイト過ぎよ、せめてコルセットを付けたいわ」

『コルセット有りでも良いですけど、今度は胸が強調されてしまいますよ?』
《私だったらその方が良いかも知れないけど、ローシュはそのままで良く似合ってるわ》

 本当に、悔しい位に引き締まっている。
 僅かに見えた足も、背中も。

『そんなに恥ずかしいなら、ビジューレースのマントとかどうですか、あそこのみたいに』
「肌の露出の問題じゃないのよぉ」
《体の形が出るものね、分かるわ。でも、だからこそよ、後はもうビジューをどうするかね》

『純白に透明なのも良いですけど、もう少し敷き詰めたいですよね、ビーズ』
「贅沢にし過ぎると悪目立ちするわよ」
《でも折角ベネチアに来たのよ、らしいのを作って?》

『ほら、ね?』
「分かったわ、けどステラのドレスもお願い、少し見回らせて頂戴」

『やっぱり、ステラは柔らかくて優しい風合い、色合いが似合うかと。ローシュとは真逆が良いと思うんですけど、今までとは違うのが良いですか?ステラ』

 きっと彼なら新しい装いへの意見も、今まで通りだったとしても、どちらにしても私を褒めてくれる。
 似合わないとなれば諫めてくれるだろうし、きっと、彼が居れば私は完璧になれる。

《少し、今までとは違う装いをしてみようと、思うのだけれど》
『なら、赤色にしてみましょう、赤地に黒のビーズ。アナタが着るからこそ、上品さと格式高く見える筈、どうですか?』

《それこそ、少し、派手じゃないかしら?》
『ならいつ派手な格好をしてくれるんですか?俺は見てみたいですよ、コルセットも赤で、黒いビーズを纏わせたドレスを着てる姿。ただ格下からも声を掛けられるかも知れないんで、俺がエスコートしないと、それとも他の誰かに案内させる予定ですか?』

《ローシュは良いの?》
『先約が有ると断られました、本当に俺に気が無い素振りばかりなんですよね、何処でも』

《こんなに良い男なのにね》
『でしょう』

《そうね、本当に。ローシュ、私は赤色と黒にするわ、アナタは?》
「私は青にするわ、形も、残念だけどコレ、コルセット無しは心もとないもの」
『じゃあ胸元はきっちり首まで生地で覆って下さいよ、俺がエスコート出来無いんだし』

「はいはい、言われなくてもそうします」

 私の方がアナタを幸せに出来る筈、だから私を見て、ローレンス。



『物騒な事を言われてしまったわね』
「本当に、だから1番人気が無いって聞いた型と色にしておいたわ」
『すみませんベアトリス、ローシュ、迷惑を掛ける事になるなんて』

『それを言うなら私の方よ、彼女がマトモだと思って紹介したんだもの』
「どれだけ技術を駆使したのかしらね?」

『手だけです、本当に』
『で、火が付いて』
「ちょっとローレンス、泣かないの」

『すみません、一線を引いて、彼女も了承してた筈なのに』
『ローシュを見て、逆に惜しくなったんでしょうね』
「となると私のせいみたいよ」

『すみません』
『ローシュが居るとすっかり別人になるわね、本当に』

『すみません、甘えてる、ワケじゃ、無いんですけど』
『いいえ、甘えよ。ローシュ、ちょっと席を外してくれない?』
「ごめんなさい、お願いねベアトリス」

『で、何が嫌だったのか、先ずは私にハッキリ仰い』

『本当に、ドレスを、贈るつもりだったんです』
『ぁあ、それで作戦はバレるわぶち壊されるわで、立ち直れないのね』

『もう、どう立て直せば良いのか』
『まだまだね、更にこの裏で作りなさいよ、もっと更に別の案を出すの。しかもローシュが気に入るかどうか考えず、アナタが気に入るドレス、アナタだけのドレスをローシュに着せるの』

『俺だけが、気に入るドレス』
『着せて脱がせたいドレスをアナタが考える、そうね、アナタにはローシュがどう見えてる?』

『エロい』

『後は』
『エロい』

『流石、男の子ね』
『なんならもう、最低限、ビジューレースだけ纏ってくれてるとか、凄いローシュらしいしエロい』

『ぁあ、なら少し手間は掛るけれど良い案が有るわ。世界で1番エロいビジュードレス、仕立てさせましょう』

 先ずは、虚栄心と連絡を取らないとね。

「で、私を呼んだってワケ?」
『手が早いと言えばアナタだもの、それにエロいの専門家でしょう』

「エロいは私じゃないわよ、色欲よ」
『どうなの?最近』

「魔王が居ないでしょ?だから探そうって」
『あら、知らないのね』

「知ってるならさっさとどうなってるか教えなさいよ」
『新大陸でネイティブインディアンと仲良く暮らしてるそうよ』

「は?」
『転移者が移送して説得したの、両者を』

「えっ、ちょっと、何も知らないんですけど」
『スペインが壊滅状態になったのは知ってるわよね?』

「ブリテンとフランク王国で何とかしたんでしょう?」
『魔王と転移者よ、復讐の手伝いのついでに一掃して、スペインのは別の新大陸へ送ったの』

「アンタそれ、黙って見過ごしたの?」
『母が元、母の前世が教会派ってだけで、私はココの生まれで多神教的で自然崇拝大好きだもの。当然よ、寧ろ天罰、ざまぁ無いわ』

「エグいわねぇ、マザコンギリギリアウトよ?」
『子供も居るんだもの大丈夫、それよりドレスよ、協力してくれるのくれないの?』

「対価は船よ」
『そんな事で良いの?直ぐに魔王に会わせてあげられるわよ?』

「本当に無事なの?」
『魔王を守る為、記憶を消させない為の隔離だと女王陛下から聞いてるわ。彼には知識、教養が足りないからこそ騒動が起きてる面も有る、だから教えて安定させる為だそうよ』

「何、その発案者は聖人か何かなの?」
『転移者、しかも本当にあっさり手放して、偶に現地に様子を伺いに行くだけだそうよ』

「手籠めにもせず」
『便利に使いもせず、学ばせてる』

「怪しいんじゃない?」
『私もそう思ったのだけど、天使様、少し宜しいですかね』

『どうも、ガブちゃんですよ』
「やだ、ダブルピース、すっかり汚染されてるじゃない」
『まぁ、ガブちゃんのお墨付きも有るから、魔王に関しては裏が無いのよ』

「けど転生者的にはどうか、よね」
『向こうからの要求も無いし、会わせて無いわ』
『彼女は接触すれば争いが起きると懸念していますから、不必要な接触は避けているのです』

「懸命ね、賢い選択だわ」
『ですが、色欲には会いたがっていましたよ』
『何故』

『フェロモン、吸血鬼達が惑わす為に出すとされる分泌物や何かが効くのかどうか、相殺は可能か。そして困っているなら制御具の相談にも乗るそうです』
「やだ、聖人過ぎて逆に怖いわ」
『でしょう、だから困ってるのよね、そのドレス彼女用なの』

「エロい東洋人だけど聖人、何それ、同一人物なの?」
『二面性どころじゃないわよねぇ、裏表が激し過ぎよ』
『そうでも無いですよ?』

『けど、でも、よね』
「性善説全ブリそうな天使様に言われてもねぇ、じゃあ逆に根が悪い子って居るのかしらって話よね」
『悪い、と言うか異質だと思う者は居ますね』

「あら、何処の誰よ」
『モロッコの女王ですね』
『キャラバンすら操ってるって噂の女王なら、寧ろ、でしょうね』

「まぁ、逆に、そうよね」
『お会いすれば分かるかと』
『けど接触で問題が起きても困るわ、私が様子見をするからドレスをお願い、船は用意させるわ』

「けど最悪は仕上げる前に逃げ出すわよ」
『良いわ、私もアナタが害されるのは見たく無いもの』

「じゃあ、お願いね」



 ステラの件もだけど、アーリスが全て聞いてたのよねぇ。

「まさか、ベアトリスが転生者の子供だなんてね」
『な、どうして』
『僕が全部聞いてた、ステラの事も、僕がローレンスに教えたんだ』

「この子、感覚が凄く鋭くて」
『だからこうした魔道具を使うんだ』

 話を漏らさない為の魔道具。

 そうよね、普通ならアーリス並みの耳の良いのは居ないんだし。

『その、アナタを害そうとかは』
「警戒しての事よね、転生者の子供として。良いの、スペランツァも信用してないのはある意味では正しい、実際に転覆させられてたんだし」
『でもスペランツァは良い子だよ、今でも節制、倹約してるし』

「語るより見せるべきよね、案内するわ、魔王の場所へ。ただベールは付けて欲しいの、魔道具のベール」
『病気を持ち込ませないって約束だから』

『じゃあ、それで、虚栄心に会わせてあげて欲しいの』
「分かったわ、ただ会わない様にしましょう、お互いの為にも。アーリス、お願いね」
『うん』

 さ、後はローレンスの方。
 すっかり立ち直った風だけど、まだステラの相手をしないとなのよね。

「ローレンス、良い?」

『慰めに来てくれたんですか?』
「まぁ、そうね」

『どうぞ』

「本気で狙われたのは初めて?」
『いえ、アナタに害が有るかも知れないのが、凄く嫌なんです』

 さりげなくハグするの、凄いわよね本当。

「あの人、そんなに相手にされないワケじゃないわよね?」
『寧ろモテる方で、若いのから同い年、それこそ年上も寄って来てますよ』

「何でアナタに執着するのかしら」
『そこが分からないから、失敗しました、すみません』

「まだギリギリ失敗じゃないわよ、別にドレスなんて欲しくないし」
『俺は本気でアレを着て欲しかったんですけどね』

「エロ過ぎじゃない?」
『そこが良いんじゃないですか、何も付けないで着て欲しいですし』

「流石に社交場では無理、恥ずかしくて死ぬ」
『ふふふふ、見たいな、今からでも変えましょうよ』

「無理、ステラの機嫌を損ねるのは面倒。他の機会にね」
『じゃあ勝手に仕立てさせておこうかな、店は他にも有るし』

「着るのは別の機会なら、考えておく」
『分かりました、じゃあお茶会の話をしましょう、女王が非難されない上品なお茶会について』

「モスリンドレスでのお茶会で非難されないって、無茶よ」
『それこそ妊婦や子供を呼んで、如何に楽か、楽しかったかを広めさせましょうよ』

「代わりに炎天下で倒れられたら悪評が立つわよ」
『なら医師も大勢呼びましょうよ、アレも白ですよ』

「そこは、悪く無いわね、彼らへの慰問にもなるのだし」
『そこで検診をして貰う、とか』

「ぁあ、先ずは診て貰って、良さや改善点を語らって貰いましょう」
『ですね』

 子供扱いしないでくれと言われたけど。
 つい、トントンしたくなるのよね、落ち込まれると。

「何かご褒美をあげないとね」
『じゃあローシュで』

「それ以外となると?」
『俺って謙虚なんで他に欲しいモノって特に無いんですよね』

「土地」
『それは別件で王に貰う予定なので』

「家」
『それもですね』

「馬」
『それアナタが欲しいんじゃ?』

「逃げるのよぉ、アーリスの恩恵で」
『何か生き物が触りたいなら居るじゃないですか、ココに』

「直ぐ発情するのはちょっと」
『今はしませんよ、流石に無理です』

「本当に?」
『本当に、手だけしか出してませんからね、キスも口には無し。誰とも』

 で、あの執着は。

「見せはしたでしょう?」

『まぁ』
「アレかしらね、大きさへの執着?」

『そんな大きいですかね?』
「そこはちょっと言えないわね」

『え、逆に、小さいとか?』
「さぁ?」

『あ、見せましたけど触らせてませんからね?』
「ステラには、ね?ほら、言わないで良い事まで言う事になるかも知れないんだから、もう少し、楽な相手にしたら?」

『真に受けてませんよね、あの女の言う事』
「私以外で良い人が居たらとは思ってる、だって独占は不可能なんだもの」

『今、こうして独占出来てます』
「私はアナタが誰かを抱くのは嫌だけど、アーリスに抱かれちゃう、そうした矛盾と一生付き合っていく事になるのよ?」

『俺が他を抱いたり抱かれたく無いんですか?』
「まぁ、私のモノになった場合ね、そうなると本来の私の意思とは違う事になるから」

 あら、ぎゅぅうと。

『何だ、嫌なんですね』
「私のモノになったら」

『どうでも良いのかと思ってた』
「好きとは言ったでしょうよ」

『俺が脅して言わせただけだし』
「その自覚は有ったのね」

『出来たら本当に言って欲しいけど、ふふふ、良かった』
「あの、私が最初に願ったのは、私のモノじゃないローレンス・カサノヴァなのよ」

『俺はずっとアナタのモノになりたかったんですけど?』

「じゃあ、どうするのよ、色男で間者のローレンスは」
『体を使わないで間者が出来るのが1番、それを目指して頑張ります』

「至ったら受け入れる」
『無理です、我慢にも限界は有る、させてくれないと間違っちゃうかも』

「なら受け入れない」
『不安になるのが嫌ですか?』

「そらね、嫌です」
『信じてくれませんか?』

「信じてるけど」
『裏切りません、だって実際にも裏切って無いし。そうだ、今度から一緒に行動しましょうよ、そしたら俺を見張れるでしょ?』

「仕事の内容が」
『外では甥と伯母のままで、部屋に入ったら恋人、夫と妻』

「したいだけでは」
『アナタとだけ。逆に、比べてアナタが1番なんですよ?凄いと思いません?』

「入れて無いでしょうよ」
『指は入れてますもん』

「妬くわよ?」
『妬いて無いでしょう、その位は分かりますよ』

「って言うか指を入れただけで分かるもの?」
『解説してあげましょうか』

 コレはマズいわね、完全にスイッチが入ってる。

「残念だけど来客がそのままなの、ベアトリスと、多分、虚栄心も」
『招き入れたんですか』

「と言うかアーリスに任せたわ、魔王に会いたがってて、私が会って拗れても嫌だし」
『俺が妬く』

「は、何でよ」
『綺麗な顔してたじゃないですか、魔王』

「アレは絶対に手を出さないと決めてるの」
『姪っ子か、クーリナの為?』

「クーリナ、女の子で転生したら、どうなるのかしら」
『ほら妬かせる』

「それでハーレムに入れるの?」
『アーリスやルツさんは良いんです、俺が勝てない部分が有るから』

 確認したいけど、ココでネオスの事は余計よね。

「どうだか」
『やっぱり試してみましょうか、アーリスと3人で』

「変態」
『大変ですね、変態に好かれて』
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