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更に更に、その後。

魔王と虚栄心。

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「えっ、ちょっと、何本気で馴染んでんのよ」
「えっ、変ですかね?」

「だって、肌が白いままじゃないの」
「焼けないんですよねぇ、何でか」

「ってそこじゃないわよ、何してんのよ」
「学んでるんです、色々と」

「色々って、向こうの大陸には本が有るでしょうよ」
「読んでますよココで、夜は小屋で本を、日の出てる時間は彼らと過ごしてるんです」

「何で」
「学ぶ為、平和への貢献、問題解決について。色々ですね」

「人間が憎くないの?」
「虫に刺されたら虫を全滅させるんですか?そしたら生態系が崩れて滅びる種が大幅に増えますけど、その結果を望む意味や意義は、何処に有るんでしょう?」

 何この子、今まで凄い馬鹿だったのに。

『何で驚いてるの?』

「アンタ、人間じゃないわね」
『凄い、初めて見抜かれたかも』
「彼、彼女?は、見る目が凄いんですよ、それこそ私に見えないモノも見えるんです」

「オーラ的な何かよ」
『へー、便利?』
「どうなんでしょうね?」

「何でこんな、賢くなっちゃってるのよ」

「賢くなってるんですかね?」
『前よりって事じゃない?』
「そうよ、前は物事を説明するにも大変だったのに」

「ぁあ、暫くは脳を壊されて無いからかと」
『この中の脳、考える機能なんだけど』
「そこは分かるわ、けど、壊されないって、どう言う事なのよ」

「今まで、ココが致命的に壊されると記憶が消えてたんですよ」
『それに古い記憶も、強烈な記憶に押し出されたり上書きされてた、だから前の事が思い出せないんだよね』

「良い記憶より、悪い、嫌な記憶は強烈で大きい。しかも私は良く壊されてたので、学習が身に付かなかった」
『だろう、って予測でこうしてる』

「けど、私の事は覚えてるのね」
「強く強烈なんでしょうね、アナタ達の事は覚えてますよ、存在も遠くで感じ取れますし」
『それ便利だよね』

「ですね」

「アンタ、幸せって理解出来るの?」
「少なくとも君に会えて幸せかも知れないと思ってますよ、虚栄心」
『後は?』

「褒められた時ですかね、彼女に褒められた時」

 えっ、魔王を誑し込むとか何よ、化け物か何かなのかしら。

『偉い偉いってするもんね』
「あ、コレですコレ、新鮮な感覚なんですよね」
「頭を撫でられるて」

 私も、そう経験して来なかったけど。
 そうよね、ずっと魔王として存在してたら、経験するワケ無いのよね。

「どうしたんですか?」
「不快な事は無いの?」

「無いですね、前と違って、あ、ずっと記録を更新してるんですよ、痛みや不快感が無い日数の連続記録。作業に失敗して自分で傷を付けたのとかは除外なんですけど、ずっと、彼女と出会ってから無いんですよ。良い人達なんですよ、彼ら、彼女達、私を傷付け様としないんです」

 こんなの、連れ戻すとか無理じゃないの。

「はぁ、そう、安心したわ」
「でも泣いてますけど、何か不安なんですか?」

「泣いて無いわよ、あくびをしただけ」
「お昼寝していきますか?」

「今度ね、じゃあまたね、魔王」
「はい」

「はぁ」
『ずずっ』
『あ、泣いてる』

『あんなの聞いて、無理よ』
『ローシュも泣いてたんだよね、それで怒ってスペイン潰しちゃったんだけど、ダメだった?』
「いえ、正解よ、正しいわ」

『そっか、良かった、一応悪いかなって少しは思ってるんだ、ローシュ』
「アンタは思って無いのね」

『だってローシュがされて嫌な事を魔王がされてて、そんなのは残しとく意味が無いから、本当は全滅させたかったんだけど。あ、次は理想郷を案内するね』

 何か、この子、凄く怖い。

「あっつ」
『オーストラリア、ココの先住民とも話し合って置かせて貰ってる、隔離して本当の自由をあげてるんだ』

 水も食料も最低限の援助で賄われ、開拓する所から始めさせられて。
 けど下水道だけはしっかりしてる。

 後はもう、本当に何も無い。

「あの食料だとかは」
『各国から、もう数年したら全ての援助は無くなる、その事も知ってる。後はもう囲いの中は近親相姦でも人殺しでも何でもしていい、自由な場所になる予定だよ』

「それ、自由って言うか」
『無法地帯と自由の違いって、何?』

 枠が有るから自由が不自由になる、なら、本当に枠が無くなったら。

『争う余力が有るから人は争う、確かに、開墾や家を建てるので手一杯だものね』
『それも今だけ、好きな様に宗教を捻じ曲げても良いし、争っても良いし、人を操っても良い。この土地でだけ、なら』

「究極の隔離ね」
『うん、あの地は便利だからココに移動させた、不便は自由を得る対価、仕方無いよね?』

「そうね、あの地は悪しき者には便利過ぎるし、人は低きに流れる。帰りましょう、納得したわ」

 それから帰って、私は別室へ。
 ベアトリス、大丈夫かしら。



「何か飲み物は?」
『あの計画は、アナタが?』

「まぁ、行き当たりばったりながらも、はい」
『理想郷へ送ったのは、白人への罰?』

「ぁあ、いえ、殺すと土地が汚れたりと面倒なので。それに命は命ですし、好きに生きる権利を取り上げるワケにもいかないので、隔離をと」
『殺せたのよね、アレら全て』

「まぁ、魔王も居ましたので」
『虚栄心が驚く程に、賢くなってるみたいね、それこそ私も驚いたわ、虫を全滅させる意義の事』

「アレはある意味で事実なので」
『私の母は聖なる書物だけを支えに生きてたの、けど、ココに転生して、子供に全てを伝えてしまった。まだ存在して無かった概念や単語、全て、良い言葉も悪い言葉も知って、私は逃げ出した』

「記憶、消しときましょうか?」
『それも考えたけど、私が私じゃなくなるみたいで。そんな時に虚栄心に拾われたの、それで連れ戻されたけど、母親の悪意から逃げる方法も教えてくれた。私、元はコモ出身なの、スイスの直ぐそこ』

「成程」
『私、どちらかと言えば大罪側なの、虚栄心に溢れて無い虚栄心を知ってるからこそ。魔王とは初めて会ったけど、やっぱりねって感じよね』

「その、他の転移転生者とも」
『虚栄心と会わせて大丈夫そうなのは大罪側に、ダメそうなのは国に。パルマ公の選別には関わって無いの、私が国に働きかけ始めたのは10年も無いから』

「その、他の、大罪側の方は」
『会わせられないわ、それこそ聖人過ぎて、ココの無害な人達と同じ様な感じだったり。他の転移者を恐れてる、警戒してるの、大罪側だから』

「あー、コレでアレは過激ですか」
『魔王の事だけなら良いのだけど、あの理想郷は強烈過ぎると思う、国が隠して当然よね』

「そこが、少し分からないんですが」
『ココまで大きな事を成して、大した事を成さないで残ってる者としては、劣等感。断罪、裁かれる事を恐れてるの、何もしてないって思われるのが怖い』

「それ他の方に言ったんですけど」
『心の何処かで役立たずだと思われるのが嫌だ、怖い、叱らないで欲しい。そう思う者が多いの、ウチで預かってる人も、ガラスの事しか知らなくて申し訳無いって。凄い技術を持ってるのに、今でも窯に向かってるの』

「あの、私、引き籠るべきだと思いますか?」
『いえ、ただ、引き籠りたいなら』
『ローシュを責めたいの?何がしたいの?褒めるフリしてけなしてる様に聞こえるんだけど?』

『そんなつもりは』
『じゃあ逆の立場で考えてよ、ソッチが言った事、もう帰ろうローシュ』
「何か、ごめんなさいね、じゃ」

 私はただ。

「あら、もう終わったの?」
『虚栄心、何か私、間違ったみたい』



 私よりアーリスが怒っちゃって。

「アーリス」
『聞かない、言わない、この話は向こうが謝って来るまで無し』

「じゃあローレンスには話しても良い?」

『良いよ』
「まぁ、ざっと言うと凄いビビられちゃったのよ、理想郷の事で」
『あぁ、まぁ、普通ならビビるでしょうね』

「転生者の子供でも、普通と言えば普通で、しかも大罪側だからビビって当然なのよ」
『で、まるでローシュが酷い人間扱いを受けて怒った、と』

「かしら、と」
『でしょうね、言い掛かりですから』
『ほら、魔王の事も見せたのに、向こうの方が酷い』

「けどまぁ、怖いのは仕方無いのよ、本能だから」
『じゃあ話が通じないじゃん、怖いのばかりに目が向いてる』
『そう受け取れますよね、悪い方にばかり目が向いてる』

「まぁ、そう関わらなければ良いんじゃない?」
『折角、ローシュが話し合える人が出来たかもなのに、きっと協力しないし邪魔する筈』
『でしょうね、どんな協力も拒否する言い訳にも思えますし』

『怖いから何もしない、なのに頑張ったローシュを怖がる、凄くムカつく』
「で、しかも私が何とも思って無いのが更に嫌で。私に怒って欲しい?」

『それも違う、死んで欲しい』
「過激」
『殆ど何もしてないけど、評価されたくない、けど批判したのがマズかったんでしょうね。残忍だと指摘するのは批判と同じなのに、非難していないから批判だとは思わない、怖がるのは残忍だと批判するのと同じだ』

『そう、それ』
「良い通訳ね」
『残忍なのはどっちか、考えたら分かると思うんですけどね』

「考えたくないんでしょう、真っ先に自分への批判が出るから」

 そして、第2の修羅場へ。

《お帰りなさい》
「ただいまステラ、少し劇の事で話し込んじゃって、休ませて貰うわね」

《あら大丈夫?》
「生理前で、少し眠れば収まるわ」

《あぁ、ゆっくりして》
「ありがとう」

 さ、ローレンスに誘いを掛けるかどうか。
 それにしても、どうしてこう、次々と問題が起きるのかしら。

『ローシュが悪いワケじゃないのに、怒ってごめんね』
「私の為でしょ、大丈夫。それより報告に行って欲しいのだけど」

『うん、行ってくるね』



 こんな時だからこそ、ローシュの傍に居たいのに。
 俺は、どうでも良い相手と。

《そんなに白熱したのね》
『まだ脚本にもなってないんですけど、善悪や自由、不自由の事で。ただ誤解も有りそうなので、少し話し合えば問題無いかと』

《そこまで語り合える脚本だなんて、楽しみだわ》
『いや、無理でしょうね、起こしたいのは議論じゃなくて喜びなので。上手く転換出来るまでは無理かと』

《アナタも大変ね》
『いえ、貴族間では良く有る事でしょう』

 全てはローシュの為に。
 だから耐えられていた、寧ろ何とも思わなかったのに。

《アナタも影響されてしまったのかしらね?》
『いえ、ですがココに来るまでに顔色が悪かったので、ローシュの様子見を』

『失礼します、ロレダン家夫人、ベアトリス様からの使者がいらっしゃっていまして』
『俺が行きますよ、もしかしたら仲介に入って頂いた人かも知れないので』

 そして男とも女とも見分けが付かない何かと、相対する事に。

「あら、アーリスやローシュは?」
『部屋で休んでおりますが、何か』

「そう警戒しないで、ちゃんとした知り合いよ、アナタがドレスで悩んでだ子ね?」

『そうですが』
「ベアトリスが残忍だ、恐ろしいとは言わずに非難した事を、代わりに謝罪するわ。ごめんなさいね、アレでも慣れてる方なのよ」

『そうですか』
「慣れてるのね、残忍さに」

『魔王の手足がもぎ取られ、拘束され、性行為を強制されていたのをローシュは見たんです。それに比べたらローシュや俺らの残忍さなんて、比べるまでも無いと思いますけどね』

「ぁあ、また、そうなの」
『俺は非難しますよ、どうして守らなかったんですか』

「脳が破壊された影響でしょうね、スイスで待ってるって言ったのに、忘れちゃってたの。やっと確信したわ、私達とは違うって。私達は覚えてるの、だから忘れてるだなんて思って無かったの、ごめんなさい」

『で?』

「きっつい子ねぇ、あの子は普通の」
『ローシュも普通ですよ、単に合理的で頭が良いだけで。魔王の為に怒って泣く、普通の人です』

「で、アンタの大好きな人ね」

『だから何ですか?協力せず邪魔するだろうとコッチは思っ』
「でもローシュは非難する様な子じゃないのでしょう、なら会わせないとかも無し、用が有れば今後も声を掛けてくれて構わないそうよ」

『結構です』

「ドレス、作ってあげるわよ?」
『店は他にも有りますし、結構です』

「ガキ、ココは妥協案を呑みなさいよ」
『結婚を申し込む為のドレスなんです、嫌な事は紛れ込ませたく無いんで。もう良いですかね、帰って下さい』

「そう、けど私が言った事は伝え」
『ソッチも、直接謝れと言っておいて下さい、じゃ』

 早くローシュに会いたいのに。

《ローレンス》
『様子伺いで伝言を受けたので、様子見に行ってきますね』

《そう、何でも言って頂戴ね》
『はい、ありがとうございます』

 ローシュ。

『あ、ローレンス、ローシュ寝ちゃってるんだけど』
『一緒に寝かせて下さい』

『あ、うん、どうぞ』

 早く抱きたいのに、何も上手くいかない。
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