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更に更に、その後。
反省会。
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クララの事以外は特に何も無く、次の開催がベーコン家で行われる事に。
なので反省会をしてるのだけど。
「寧ろ枢機卿に褒めて貰ったのが、逆に怖いわ」
『逆に、何か裏が有りそう?』
「とか、社交辞令とか」
『それは無いよ、少なくとも不快だって思って無かったもん』
「なら良いんだけど、他は何か有る?」
『いえ、特には』
『もっと暑くなるのが楽しみだって』
《ですね、早く出回る事に期待している状態でしたね》
『うん、妊婦さんも子供も、別荘地を建てる案も出てたよね?』
『避暑地案ですね』
「観光地化に近付いてるわね、先んじて何処かに建てて貰いましょうか、ベーコン家に」
《ですね》
「後は、何か有るかしらね?」
あら、この空気は一体。
《ローシュ、少し、2人だけで良いですか?》
「まぁ、他が無いなら」
『じゃ、俺はココで、失礼しますね』
『僕も、先に部屋で待ってるね』
コレ、何が始まるのかしら。
《部屋に、来て貰えませんか?》
あらやだ、凄く深刻そう。
「行きます」
そして部屋での長い沈黙の後。
《嫌われるのが、凄く怖いんです》
また、ぽろぽろと。
「えっと、私、何か」
《いえ、寧ろ私の問題です。愚かなので、凄く、不安なんです》
「愚か、と申しますと?」
《パンドラの箱の問題です、あの答えは私には出なかった》
「それは、考えてた年数とか」
《私も以前から知っていて、私はどんな希望なのか、どんな絶望なのかと。それだけしか考えず、中道の考えが無かった、アナタが生まれる前から知っていても出て来なかったんです》
「私の存在がアナタの自信を失わせてるなら、一緒に居ない方が」
それは嫌なのね。
《自信が無い事より、嫌われたり、こうして困らせるのが嫌なんです》
綺麗な顔で、ぽろぽろと。
何か、可哀想。
「一生、本当の愛だとかを知らなければ、そう苦しまなかったのでは?」
《そこに後悔は無いんです、寧ろ知ろうとしなかった、学ぼうとしなかった事を後悔しています》
「そこはほら、諸刃の剣だし、キャラバンの教育は正しかったと思うわよ?」
《私が、これだけ動揺しているから、ですよね》
「ただ、賢い子には効き過ぎたのかな、とは思うわ」
《賢さは、せめて、アナタと同程度が良かった》
「私の自己評価につられて下がってない?」
《いえ、気付いたんです、素地の違いに》
「そこは、育った環境で、私は捻くれて無いとダメで、アナタは合う環境で育ったから、だと思うのだけど」
《だとしても、年齢で、補えていないのが、愚かな証拠かと》
「愚かだから可愛いと言うか、その感じ、可愛いわね?」
《愚かだから、では》
「愚か者はこうならないのよねぇ、寧ろ不器用な者が、器用にこなせないのが悔しい?」
《アナタを喜ばせられる事が何も出て来ない、愚かで不器用だと自覚し、いつ拒絶されるか、同情心から相手をされるのが、嫌なんです、不安で堪らない》
「前は、どうだったの?」
《アナタを知らなかった、知れば何か、喜ばせられる事が増えるかと。でも、増えず、怒らせ、今は困らせている》
クソ可愛いと思うのはアレかしらね、劣等感の裏返し?
「アナタの事を今でも賢いと思ってる、恋愛に関しては知らないから、考えないって拒否反応を正しく示してたから仕方無い。ただ相手が悪かった、ココの女性とも微妙に違う、どうしたら喜ばせられるのか難しい相手で、初心者には確かに難しいと思うけど。愚かで不器用だからと、嫌われて欲しい?」
《本当は、そんな相手に時間を割いて欲しく無いんです、でも構われたい、愚か者だとは思われたくない、役に立つ相手だと思われたい》
「志が高いから悩む事よね、しかも問題が起きて無いのにちゃんと悩んでる、少なくとも今までで1番賢い人よ?」
《いえ、もっと、喜ばれる賢さが欲しいんです》
本当に意識高いわねぇ。
「そこは悪かったわ、喜ぶ事がそもそも少ない、着飾るのが好きじゃ、自信が無いから好きじゃない面も有って、ごめんなさいね」
《それは、寧ろ、私の愚かさが》
「違うのよ、見るのは本当に好きだし、性別が逆なら凄く楽だったろうとは思う。逆なら、直ぐに受け入れてたと思う、こんなに拗れて無い筈」
あ、何かコレ嫌味っぽいわね。
けど男だったら妊娠のリスク、出産のリスクが無い。
しかもココで求められる基準値を下回らなければ、求めに応じるだけで良い。
男が気軽なのはある意味で仕方無い、しかも子育てを確実に免除されるなら、私でもホイホイ種付けるかも。
《私も、アナタの子が欲しいんです》
ぁあ、やっぱりそこよね。
「それ嬉しい事なのだけど、どうして泣くの?」
《私と欲しいと、思って貰えていないからこそ、ダメなのかと》
「産みたい?」
《産ませて貰えるならと、けれど自信が無いんです、アナタが嫌がる様な子供に育ったら、相手をして貰えなくなるかも知れない。構われない事が何より嫌なんです》
「構う、とは」
《身体的な、接触と、対話です》
対話、してるのだけど。
「好きって言われたいとか?」
《はい》
あら、言って無かったかしら。
「こうして真面目な所が特に好きよ?」
ぎゅぅうって、どんだけ。
いえ、コレだけ好きだとは分かってたのだけど、だから許せなかったのよね。
好きなのに手放すとか何なのよ、と、理屈は分かるんだけど。
《ずっと、こうしたかったんです》
一応は一線を引いてたのね、真面目。
「だけ?」
《他も、ですけど暫く、少し時間を下さい、もっと、ちゃんとしてから、お願いさせて下さい》
まぁ、今日は忙しかったし。
「はい、待ってます」
記憶が戻らないとしても、だからこそ。
《結婚式を、しようかと》
ローレンスが驚くのは勿論、アーリスや王まで。
コレは、間違えたんでしょうか。
『あ、ルツ、うん、良いと思うけど、どうしたの急に?』
《私との事を忘れているにしても、区切りが必要だと感じたので》
『あぁ、区切りな、うん、そこは大事だ』
『で、結婚式、ですか』
《少数、それこそ王と私達だけでも、そこでローシュの意志を確認したいんです。何となく流され、後で後悔されるより、ハッキリと決めて、最悪は、諦めるべきかと》
『だー、泣くな泣くな、大丈夫だって、俺らも手伝うんだから、なぁ?』
『王命じゃなくても手伝いますよ、俺もしたいんで』
『ドレスはアレ?』
《少し願いを変えてしまう事にはなるんですが、はい》
『アレって、何だ?』
『青と緑の涙壺色のドレスが欲しい、見たいんだそうです』
『僕に着せるとか言ってたけど、可愛いのじゃないから、そこまで嫌がらないと思う』
《出来るなら着て喜んでる姿が見たいなと、私の我儘なんですが、私の思いと合わないなら、諦めるべきかと》
『おいルツ、何で諦める選択肢が増えてんだ?』
《万策尽きたので》
『ほらアレ、贈り物は』
《花も食べ物も何もかも自分で見付けて手に入れ、しかも改良までしてしまう。式や行事でローシュを関わらせずに用意する、準備するだけでもう、限界なんです》
『アレか、もう、結婚式しか無いってか』
《はい、振り上げた拳を下ろす機会となると、寧ろコレしか無いかと》
『そうか』
《はい》
『で、いつ何処でやるか、だな』
『だね』
『時間帯も、朝にやるか昼にやるか、それこそ夜でも良いんですし』
《ドレスとなれば着る準備も大変でしょうから、用事の後や、あまり遅くなるのは、どうかと》
『上手く行けば色々と忙しくなるもんね』
『色んな意味で』
『主に性的な事でな』
《どうして、上手く行った場合だけの事しか語ってくれないんでしょうか》
『そら上手く行く様に仕向けるからだろ』
『規模はともかく、食べ物と飲み物の準備が必要だよね』
『それに花も、アンジェリークにも手伝って貰いましょうよ』
『だね』
『はいじゃあ王命な、何も惜しむ事無く協力して頑張る様に』
『はい』
《ありがとうございます》
そして協力はウムトにも。
『やっと、いつ頼んでくれるか待ってたんだよ、伯父上』
《至るのが遅くてすみませんでしたね》
『いやいやいや、そんな、てっきり覚悟し難かったのかと』
《結婚式を好まない人なので至れなかったんです、着飾る事も、大勢に見られる事も嫌がる人なので。今回は、小規模で、してみようかと》
『だとして、どうして悩んでる間、俺に相談してくれなかったのかな?』
《眼中に無かったと言うか、君の案で解決するのが、悔しかったのかも知れません》
『あー、はい、成程』
《ですが、ココで更に詳しい者が必要になったので、泣く泣く、致し方無く》
複数経験している者の意見を聞かないのは、流石に愚か過ぎる。
『天気は良い方が良い、それこそ寒過ぎたりだとか暑過ぎるのは良く無い、風が強いと化粧も衣装も崩れ易くなってしまうし。それと後の事を考えると特に、静かで穏やかな場所で、飲食物が豊富で美味しいと花嫁が喜ぶ。あ、楽団員が遠くで演奏しているのを気に入った妻も居るよ、静か過ぎるのが嫌な子も居るからね』
《では、家から、でしょうか》
『家から、成程』
家から、とは。
『何故だ?』
《扶桑では結婚を申し込む際に家を建てるそうで、その、準備や終えた後の場所にと》
『つまりヤる気なんだな』
《そうなれたら、と》
『なら家が先だな、オラディアのハンガリー側に別荘として建てろ。アレだ、観光地化、新婚の為の宿の見本にさせるとかしろ。ドアも使え、今こそだ』
《ありがとうございます》
『礼は成してからだ、意地でも成功させるぞ』
《はい》
アレだな、媚薬も用意させたいが。
『それとだ、媚薬も、一応、用意しておこう』
《失敗の予防策ですか?》
『それもだが、有ると便利そうじゃないか?』
《便利って》
『いやさ、ほら、子供が増えるとしたくなくなるとか聞くだろ?』
《王》
『で、ほら、ついでにな?有るとお前も安心だろ?』
《まぁ、はい》
『はい、家と媚薬な、全力で頼むぞ』
困るよなぁ、有能な者程欲深く無いから要求して来ないんだよ、だから余計に褒章を多く与えるしか無くなるのに。
アレか、コレ、ルツが姉上に悩んでる事と同じか。
けどなぁ、意外と何でも喜ぶんだから、そこまで考え無くても。
『王、宜しいでしょうか』
『おう、何だ』
『王妃の生誕日の品物なんですが』
『ぁあー、そうだったな、うん、そうだそうだ、姉上を呼ぼう』
良い機会だ、探ってやろう。
「無難なのはリボンかと」
『もう結構な数が有るぞ?』
王妃様はリボン集めるの大好きなんだよね、特に変わった生地とか刺繍とか入ってるのが好きで、子供にも触らせない位に大事にしてる。
ローシュにも王から相談されたらリボンでって伝える位、本当にリボン好きなんだけど、王様はそんな興味無いから毎回贈り物で悩むんだよね。
「だからこそ、毎年の事なんですし、思い出と一緒に変わったリボンをお渡ししてはどうかと」
『今回は、紗か?』
「それとガラスのビーズ、最近の流行りだそうで」
『アレか、ベネチアのガラス製品か』
「はい、観光客も商人も同じ店で買える、所謂直売店なので安心して買えるのが良いんだそうです」
『直売店』
「作っている店が仲買を通さないので安い、しかも種類が選べる、持ち運びにも便利」
『そら買うな』
「でしょう、ですけど奥様の体調も考慮すると難しいので、いつか内密にお出掛けしようとお渡しすれば良いかと」
『良いのか?魔ドアを私用で使って』
「息抜きも公務の1つ、鎖国前なら特には、まぁ鎖国しても奥様とお子様の為ならお好きにどうぞ、王にも楽しみは必要ですしね」
『ならローレンスとアーリスとで下見を頼む、それとプレゼントもだ』
「王が図案や図柄、色合いを考えて下さいね」
『姉上も手伝ってくんね?』
「最小、最低限だけね」
コレは、良い流れかも。
『じゃあ、僕は先にローレンスと相談してくるね』
「宜しくね」
『おう、任せた』
ルツには家とか結婚式の準備をさせて、その間はローレンスと僕とでイタリアのベネチアに。
劇の事も有るから、多分ローシュはルツの準備に気付かない。
『ローレンス、良い流れになったよ』
結婚式だけじゃなく、家まで。
『何で家を』
『あぁ、ローシュの国とは違うんだけど、扶桑の国では結婚を申し込むのに家を建てるって伝説をローシュが知ってて。それをルツとウムトが覚えてて、そうなった』
『まぁ、確かに、財力もですけど、相手の事を知って良く考えているかどうかの判断は。確かに、良いですね、俺も建てたい』
『僕とネオスとかの候補は、キエフ側のチェルノフツィとか、端か真ん中に建てる予定』
『えー、じゃあ俺はヤシで』
『地図と少し違うし栄えてるけど良いの?』
『だからですよ、同じだと飽きられても嫌だし、見せびらかしたいし』
『見せびらかしたら取られるかもだよ?』
『恥ずかしがるローシュを見る為には仕方無いんですよ』
『出た、変な性癖』
『そんなに変ですかね?』
『そんなに貴族に多いの?その性癖』
『ドレスに口出しして社交界に連れ出す輩の殆どがそうだと思ってるんで、そうかと』
『あー、ルツも口煩いもんね、そこは相変わらずだし』
『ほら変じゃない』
『取られたらどうするの?』
『可能性が殆ど無いから良いんじゃないですか、それに、そんな軽いなら違う方法で楽しみますし』
『分かんないなぁ、困るのが楽しい性癖』
『歪んでるんでしょうね、俺もルツさんも』
『自覚は有るんだ』
『ですね』
『ルツ、自覚して、自己嫌悪?』
『ぁあ、マトモだと自負してたら、でしょうね』
『そっか、成程』
『あの、ベネチアの件は』
『あ、そうだった、ルツ抜きで下見。僕とローレンスとローシュで、夜会の次の日に出発かな』
『そうですね、水路ですし、近いと言えば近いですし』
『凄いよねキャラバン、冬の合間にイタリアからココまでの水路を作っちゃったんだもん』
『細い水路ですし、ルツさんが眠ってたんですから無理は出来ませんよ。今年の冬ですよね、ココの水路を作り始めるの』
『冬も忙しいんだよね僕ら、雪室も有るし』
『氷室次第ですよね、ココの人達が氷を作る魔法を知らないとか知りませんでしたよ』
『だって何に使うのって感じだったし、保存食で何とかなってたんだもん』
『そこですよね、何とかなってると変えない』
『ウチの王様が食べるの好きで良かったよね、ゼリーも気に入ってたし』
『居るんですかね、食べ物に興味が無い王や女王って』
『居るんだよねぇ、モロッコの女王がそうみたい、食べるのも仕事だーとか』
『居るんだ、実際』
『ね』
『ベネチアの美味しいお店、探さないとですね』
『ウムトに、ウムト便利』
『ですね』
なので反省会をしてるのだけど。
「寧ろ枢機卿に褒めて貰ったのが、逆に怖いわ」
『逆に、何か裏が有りそう?』
「とか、社交辞令とか」
『それは無いよ、少なくとも不快だって思って無かったもん』
「なら良いんだけど、他は何か有る?」
『いえ、特には』
『もっと暑くなるのが楽しみだって』
《ですね、早く出回る事に期待している状態でしたね》
『うん、妊婦さんも子供も、別荘地を建てる案も出てたよね?』
『避暑地案ですね』
「観光地化に近付いてるわね、先んじて何処かに建てて貰いましょうか、ベーコン家に」
《ですね》
「後は、何か有るかしらね?」
あら、この空気は一体。
《ローシュ、少し、2人だけで良いですか?》
「まぁ、他が無いなら」
『じゃ、俺はココで、失礼しますね』
『僕も、先に部屋で待ってるね』
コレ、何が始まるのかしら。
《部屋に、来て貰えませんか?》
あらやだ、凄く深刻そう。
「行きます」
そして部屋での長い沈黙の後。
《嫌われるのが、凄く怖いんです》
また、ぽろぽろと。
「えっと、私、何か」
《いえ、寧ろ私の問題です。愚かなので、凄く、不安なんです》
「愚か、と申しますと?」
《パンドラの箱の問題です、あの答えは私には出なかった》
「それは、考えてた年数とか」
《私も以前から知っていて、私はどんな希望なのか、どんな絶望なのかと。それだけしか考えず、中道の考えが無かった、アナタが生まれる前から知っていても出て来なかったんです》
「私の存在がアナタの自信を失わせてるなら、一緒に居ない方が」
それは嫌なのね。
《自信が無い事より、嫌われたり、こうして困らせるのが嫌なんです》
綺麗な顔で、ぽろぽろと。
何か、可哀想。
「一生、本当の愛だとかを知らなければ、そう苦しまなかったのでは?」
《そこに後悔は無いんです、寧ろ知ろうとしなかった、学ぼうとしなかった事を後悔しています》
「そこはほら、諸刃の剣だし、キャラバンの教育は正しかったと思うわよ?」
《私が、これだけ動揺しているから、ですよね》
「ただ、賢い子には効き過ぎたのかな、とは思うわ」
《賢さは、せめて、アナタと同程度が良かった》
「私の自己評価につられて下がってない?」
《いえ、気付いたんです、素地の違いに》
「そこは、育った環境で、私は捻くれて無いとダメで、アナタは合う環境で育ったから、だと思うのだけど」
《だとしても、年齢で、補えていないのが、愚かな証拠かと》
「愚かだから可愛いと言うか、その感じ、可愛いわね?」
《愚かだから、では》
「愚か者はこうならないのよねぇ、寧ろ不器用な者が、器用にこなせないのが悔しい?」
《アナタを喜ばせられる事が何も出て来ない、愚かで不器用だと自覚し、いつ拒絶されるか、同情心から相手をされるのが、嫌なんです、不安で堪らない》
「前は、どうだったの?」
《アナタを知らなかった、知れば何か、喜ばせられる事が増えるかと。でも、増えず、怒らせ、今は困らせている》
クソ可愛いと思うのはアレかしらね、劣等感の裏返し?
「アナタの事を今でも賢いと思ってる、恋愛に関しては知らないから、考えないって拒否反応を正しく示してたから仕方無い。ただ相手が悪かった、ココの女性とも微妙に違う、どうしたら喜ばせられるのか難しい相手で、初心者には確かに難しいと思うけど。愚かで不器用だからと、嫌われて欲しい?」
《本当は、そんな相手に時間を割いて欲しく無いんです、でも構われたい、愚か者だとは思われたくない、役に立つ相手だと思われたい》
「志が高いから悩む事よね、しかも問題が起きて無いのにちゃんと悩んでる、少なくとも今までで1番賢い人よ?」
《いえ、もっと、喜ばれる賢さが欲しいんです》
本当に意識高いわねぇ。
「そこは悪かったわ、喜ぶ事がそもそも少ない、着飾るのが好きじゃ、自信が無いから好きじゃない面も有って、ごめんなさいね」
《それは、寧ろ、私の愚かさが》
「違うのよ、見るのは本当に好きだし、性別が逆なら凄く楽だったろうとは思う。逆なら、直ぐに受け入れてたと思う、こんなに拗れて無い筈」
あ、何かコレ嫌味っぽいわね。
けど男だったら妊娠のリスク、出産のリスクが無い。
しかもココで求められる基準値を下回らなければ、求めに応じるだけで良い。
男が気軽なのはある意味で仕方無い、しかも子育てを確実に免除されるなら、私でもホイホイ種付けるかも。
《私も、アナタの子が欲しいんです》
ぁあ、やっぱりそこよね。
「それ嬉しい事なのだけど、どうして泣くの?」
《私と欲しいと、思って貰えていないからこそ、ダメなのかと》
「産みたい?」
《産ませて貰えるならと、けれど自信が無いんです、アナタが嫌がる様な子供に育ったら、相手をして貰えなくなるかも知れない。構われない事が何より嫌なんです》
「構う、とは」
《身体的な、接触と、対話です》
対話、してるのだけど。
「好きって言われたいとか?」
《はい》
あら、言って無かったかしら。
「こうして真面目な所が特に好きよ?」
ぎゅぅうって、どんだけ。
いえ、コレだけ好きだとは分かってたのだけど、だから許せなかったのよね。
好きなのに手放すとか何なのよ、と、理屈は分かるんだけど。
《ずっと、こうしたかったんです》
一応は一線を引いてたのね、真面目。
「だけ?」
《他も、ですけど暫く、少し時間を下さい、もっと、ちゃんとしてから、お願いさせて下さい》
まぁ、今日は忙しかったし。
「はい、待ってます」
記憶が戻らないとしても、だからこそ。
《結婚式を、しようかと》
ローレンスが驚くのは勿論、アーリスや王まで。
コレは、間違えたんでしょうか。
『あ、ルツ、うん、良いと思うけど、どうしたの急に?』
《私との事を忘れているにしても、区切りが必要だと感じたので》
『あぁ、区切りな、うん、そこは大事だ』
『で、結婚式、ですか』
《少数、それこそ王と私達だけでも、そこでローシュの意志を確認したいんです。何となく流され、後で後悔されるより、ハッキリと決めて、最悪は、諦めるべきかと》
『だー、泣くな泣くな、大丈夫だって、俺らも手伝うんだから、なぁ?』
『王命じゃなくても手伝いますよ、俺もしたいんで』
『ドレスはアレ?』
《少し願いを変えてしまう事にはなるんですが、はい》
『アレって、何だ?』
『青と緑の涙壺色のドレスが欲しい、見たいんだそうです』
『僕に着せるとか言ってたけど、可愛いのじゃないから、そこまで嫌がらないと思う』
《出来るなら着て喜んでる姿が見たいなと、私の我儘なんですが、私の思いと合わないなら、諦めるべきかと》
『おいルツ、何で諦める選択肢が増えてんだ?』
《万策尽きたので》
『ほらアレ、贈り物は』
《花も食べ物も何もかも自分で見付けて手に入れ、しかも改良までしてしまう。式や行事でローシュを関わらせずに用意する、準備するだけでもう、限界なんです》
『アレか、もう、結婚式しか無いってか』
《はい、振り上げた拳を下ろす機会となると、寧ろコレしか無いかと》
『そうか』
《はい》
『で、いつ何処でやるか、だな』
『だね』
『時間帯も、朝にやるか昼にやるか、それこそ夜でも良いんですし』
《ドレスとなれば着る準備も大変でしょうから、用事の後や、あまり遅くなるのは、どうかと》
『上手く行けば色々と忙しくなるもんね』
『色んな意味で』
『主に性的な事でな』
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『規模はともかく、食べ物と飲み物の準備が必要だよね』
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『だね』
『はいじゃあ王命な、何も惜しむ事無く協力して頑張る様に』
『はい』
《ありがとうございます》
そして協力はウムトにも。
『やっと、いつ頼んでくれるか待ってたんだよ、伯父上』
《至るのが遅くてすみませんでしたね》
『いやいやいや、そんな、てっきり覚悟し難かったのかと』
《結婚式を好まない人なので至れなかったんです、着飾る事も、大勢に見られる事も嫌がる人なので。今回は、小規模で、してみようかと》
『だとして、どうして悩んでる間、俺に相談してくれなかったのかな?』
《眼中に無かったと言うか、君の案で解決するのが、悔しかったのかも知れません》
『あー、はい、成程』
《ですが、ココで更に詳しい者が必要になったので、泣く泣く、致し方無く》
複数経験している者の意見を聞かないのは、流石に愚か過ぎる。
『天気は良い方が良い、それこそ寒過ぎたりだとか暑過ぎるのは良く無い、風が強いと化粧も衣装も崩れ易くなってしまうし。それと後の事を考えると特に、静かで穏やかな場所で、飲食物が豊富で美味しいと花嫁が喜ぶ。あ、楽団員が遠くで演奏しているのを気に入った妻も居るよ、静か過ぎるのが嫌な子も居るからね』
《では、家から、でしょうか》
『家から、成程』
家から、とは。
『何故だ?』
《扶桑では結婚を申し込む際に家を建てるそうで、その、準備や終えた後の場所にと》
『つまりヤる気なんだな』
《そうなれたら、と》
『なら家が先だな、オラディアのハンガリー側に別荘として建てろ。アレだ、観光地化、新婚の為の宿の見本にさせるとかしろ。ドアも使え、今こそだ』
《ありがとうございます》
『礼は成してからだ、意地でも成功させるぞ』
《はい》
アレだな、媚薬も用意させたいが。
『それとだ、媚薬も、一応、用意しておこう』
《失敗の予防策ですか?》
『それもだが、有ると便利そうじゃないか?』
《便利って》
『いやさ、ほら、子供が増えるとしたくなくなるとか聞くだろ?』
《王》
『で、ほら、ついでにな?有るとお前も安心だろ?』
《まぁ、はい》
『はい、家と媚薬な、全力で頼むぞ』
困るよなぁ、有能な者程欲深く無いから要求して来ないんだよ、だから余計に褒章を多く与えるしか無くなるのに。
アレか、コレ、ルツが姉上に悩んでる事と同じか。
けどなぁ、意外と何でも喜ぶんだから、そこまで考え無くても。
『王、宜しいでしょうか』
『おう、何だ』
『王妃の生誕日の品物なんですが』
『ぁあー、そうだったな、うん、そうだそうだ、姉上を呼ぼう』
良い機会だ、探ってやろう。
「無難なのはリボンかと」
『もう結構な数が有るぞ?』
王妃様はリボン集めるの大好きなんだよね、特に変わった生地とか刺繍とか入ってるのが好きで、子供にも触らせない位に大事にしてる。
ローシュにも王から相談されたらリボンでって伝える位、本当にリボン好きなんだけど、王様はそんな興味無いから毎回贈り物で悩むんだよね。
「だからこそ、毎年の事なんですし、思い出と一緒に変わったリボンをお渡ししてはどうかと」
『今回は、紗か?』
「それとガラスのビーズ、最近の流行りだそうで」
『アレか、ベネチアのガラス製品か』
「はい、観光客も商人も同じ店で買える、所謂直売店なので安心して買えるのが良いんだそうです」
『直売店』
「作っている店が仲買を通さないので安い、しかも種類が選べる、持ち運びにも便利」
『そら買うな』
「でしょう、ですけど奥様の体調も考慮すると難しいので、いつか内密にお出掛けしようとお渡しすれば良いかと」
『良いのか?魔ドアを私用で使って』
「息抜きも公務の1つ、鎖国前なら特には、まぁ鎖国しても奥様とお子様の為ならお好きにどうぞ、王にも楽しみは必要ですしね」
『ならローレンスとアーリスとで下見を頼む、それとプレゼントもだ』
「王が図案や図柄、色合いを考えて下さいね」
『姉上も手伝ってくんね?』
「最小、最低限だけね」
コレは、良い流れかも。
『じゃあ、僕は先にローレンスと相談してくるね』
「宜しくね」
『おう、任せた』
ルツには家とか結婚式の準備をさせて、その間はローレンスと僕とでイタリアのベネチアに。
劇の事も有るから、多分ローシュはルツの準備に気付かない。
『ローレンス、良い流れになったよ』
結婚式だけじゃなく、家まで。
『何で家を』
『あぁ、ローシュの国とは違うんだけど、扶桑の国では結婚を申し込むのに家を建てるって伝説をローシュが知ってて。それをルツとウムトが覚えてて、そうなった』
『まぁ、確かに、財力もですけど、相手の事を知って良く考えているかどうかの判断は。確かに、良いですね、俺も建てたい』
『僕とネオスとかの候補は、キエフ側のチェルノフツィとか、端か真ん中に建てる予定』
『えー、じゃあ俺はヤシで』
『地図と少し違うし栄えてるけど良いの?』
『だからですよ、同じだと飽きられても嫌だし、見せびらかしたいし』
『見せびらかしたら取られるかもだよ?』
『恥ずかしがるローシュを見る為には仕方無いんですよ』
『出た、変な性癖』
『そんなに変ですかね?』
『そんなに貴族に多いの?その性癖』
『ドレスに口出しして社交界に連れ出す輩の殆どがそうだと思ってるんで、そうかと』
『あー、ルツも口煩いもんね、そこは相変わらずだし』
『ほら変じゃない』
『取られたらどうするの?』
『可能性が殆ど無いから良いんじゃないですか、それに、そんな軽いなら違う方法で楽しみますし』
『分かんないなぁ、困るのが楽しい性癖』
『歪んでるんでしょうね、俺もルツさんも』
『自覚は有るんだ』
『ですね』
『ルツ、自覚して、自己嫌悪?』
『ぁあ、マトモだと自負してたら、でしょうね』
『そっか、成程』
『あの、ベネチアの件は』
『あ、そうだった、ルツ抜きで下見。僕とローレンスとローシュで、夜会の次の日に出発かな』
『そうですね、水路ですし、近いと言えば近いですし』
『凄いよねキャラバン、冬の合間にイタリアからココまでの水路を作っちゃったんだもん』
『細い水路ですし、ルツさんが眠ってたんですから無理は出来ませんよ。今年の冬ですよね、ココの水路を作り始めるの』
『冬も忙しいんだよね僕ら、雪室も有るし』
『氷室次第ですよね、ココの人達が氷を作る魔法を知らないとか知りませんでしたよ』
『だって何に使うのって感じだったし、保存食で何とかなってたんだもん』
『そこですよね、何とかなってると変えない』
『ウチの王様が食べるの好きで良かったよね、ゼリーも気に入ってたし』
『居るんですかね、食べ物に興味が無い王や女王って』
『居るんだよねぇ、モロッコの女王がそうみたい、食べるのも仕事だーとか』
『居るんだ、実際』
『ね』
『ベネチアの美味しいお店、探さないとですね』
『ウムトに、ウムト便利』
『ですね』
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