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更に更に、その後。

やっと、夜会。

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 劇場で知り合った奥様が言ってた通り、淫靡。
 コレ本当に教会の庭園でやってたら、どうなってた事か。

《あまり私から離れないで下さい、ローシュ》
「ルツ、物陰でベタベタしないならね」

《3日有れば物理的に溜まるので難しいかと》
「もー、螢でも飛んでたら違うのに」

 満月だからこそ風流な庭園での夜会を目指してたのに、若いのはもう、隙あらば誘って口説いて。
 違うの、そうじゃないのよ本当に。

「ホタル、とは?」
《光って飛ぶ虫、ですね》

「ほう」
「ダメですよ、幾らスカアハ様のご要望でも、明らかに外来種を放つのは無理です」

《ですが、隔離されているなら問題無いのでは》
「うむ、ウチで飼うかな、虫籠は用意するで中身を頼む」
「ですが私は関わりませんからね、ネオスにお願いしてみますけど、期待しないで下さいよ」

「うむ」
《楽しみですね》

「うむ」

 画面越しや画像なら良いけど、虫は虫だから苦手なのよ、マジで無理。

《神々には甘いんですよね》

「ちょっ、主催者側まで飲まれてたら」
《フランソワなら既に食べられてましたよ、休憩室で》

「なっ」
《男同士の密約で仕方無く、立ち入られない様にしておいたので大丈夫ですよ》

「なら余計に私がしっかりしてないと、はい、どいて、見回りを続けるわよ」
《そうなりますよね》

 本当にもう、夜の庭園だとか満月の美しさだとかを楽しんで貰いたかったのに。

『やぁ、見回りが大変そうだね、ローシュ嬢』
「フランシス、すみません、初めての催しで不慣れでして」

『いやいや、若いのは仕方無い、目の前の美しい夜の庭園よりも肉欲に負けるのは若さ有ってこそ。私は満月の夜の庭園に感動しているよ、妻もね』
「ぁあ、なら良かった、ありがとうございます」

『アレだね、次の開催は若いのと分ければいい、それこそ上弦は私ら年寄り用だとかね』
「ココまで盛り上がってしまうとは、完全に見誤ってしまいました、以後気を付けさせて頂きます、申し訳御座いませでした」

『いや、催し自体は良いんだ、しかも初めてなら仕方無い。それに子孫繁栄は平民貴族に関係無く喜ぶべき事、ウチでも知り合いを呼んだ時には真似させて貰うよ、呼んでくれてありがとうローシュ』
「いえ、コチラこそ、ありがとうございます」

『まぁまぁ、気にしない気にしない、君も楽しんでおくれ』
「はい」

 改めて彼と接触して驚いた事は、彼の妻がシェイクスピア研究家の転生者だった。
 その妻の名はデリア、シェイクスピア研究家なら知っている名前だそうで、フランシス・ベーコンの名を持つ彼に出会った事で運命だと思い結婚し、デリアに改名したらしい。

 そしてミリツァの協力でフランシス・ベーコンの著書を書き、夫の名で出し、既に結社の広告塔として動いていた。

《コレなら例の問題の収束も、早く叶うかも知れませんね》
「そう希望を抱きつつ、不測の事態に備えないといけない、マヨネーズを食べさせてた時の方が楽しかったわ」

《新しい料理、しかも生の卵料理を喜んで食べていましたからね》
「誰もが使えれば良いけど、菌の事を詳しく、それこそ菌が排出する毒素について教えないとだし。難しいわね、マヨネーズの布教」

《菌が消えても毒素は残る、しかも加熱しても毒素は消えない、実に厄介ですからね》
「そうなのよ、向こうでも定期的に出てるから。あ、ご苦労様ローレンス、ご案内していたお嬢様は?」
『小部屋で別の男性と休んでますのでご心配無く』

「アナタねぇ」
『アナタよりも簡単に体を明け渡そうとする者には、興味が無いんです』

「だから、それは」
『試すにしてももう少し知り合って、出来たら焦らして欲しいんですよね、本気なら特に』

「産むのだから体力が」
『なら相手の中身を見極めるべきでは?』

「それで良いと思ったからこそで」
『俺には見極められてるだろう手応えは無いですけどね』
《まぁ、ローレンスの好みの問題も有るでしょうし、見回りを続けましょう》

「はぁ、そうね」

 動き回るとこの季節でも暑いのよね、この生地。

 もうアレかしらね、クーちゃんが残してくれた白いネグリジェ期、到来させちゃおうかしら。
 けど、はしたないとか批判を受けたのよね、マリーアントワネットが。

 でもココで貴族の夜会で広まっても。

 いえ、寧ろ教会の庭園で女性だけで、とかならいけないかしら。

《何か思い付きましたか?》
「女性だけで、軽装で庭園なら、大丈夫かしら?」

《相手が居ない場合は良いかも知れませんが、その場合、男性はどうなるんでしょうか?》

「こう、レースの衝立で仕切る、とか」
《それは昼なのか、夜なのか》

「昼は衝立、夜は、ショートベール?」

《軽装とは、何処までの事を》
「アレ、クーちゃんの、シュミーズドレスとかモスリンドレス」

《良いかも知れませんが、軽装の理由は何か》
「暑いんだもの、動き回ると特に、コレで暑いんだから夏場はどうなる事か」

《でしたら昼はロングベール、夜はショートベールだけで良いのでは?》
「ぁあ、それもそうよね、暑さと疲れで頭が回らないのかも」

《少し休んで下さい、良い案かも知れませんし、見回りは続けますから》
「ごめんなさい、お願いね」

 ネグリジェだけの外出がダメなのは分かるけど、ショートドレスがダメだとか、素足がダメだとか。
 アレ絶対、脚フェチの言ってる事よね。

『大丈夫?』
「アーリス、ダメみたい、暑い」

『コルセットだもんね、氷貰って来るよ』
「ありがとう、お願い」



 ちょっと目を離した隙に、口説かれてる。

『ローシュ、はい氷』
「ありがとう、付き添いも居ますのでお気になさらす、どうか会を楽しんで下さい」

 直ぐに引き下がってくれたけど、残念そう。

『もしかして口説かれてた?』
「そうなの、本当に驚きよね、外国受けが良いみたい」

『引っ越したい?ネオスの方に』
「そしたらきっと凄い馴染むけど、アナタ達が凄く目立つから嫌」

『僕らが目立つの嫌なんだ?』
「変なのが寄って来たら嫌なんだもの」

『その中間、無いのかな?』

「アレは、シルクロード沿いなら中間なんじゃない?」
『確かに、僕ら両方が目立たない場所が有るかもね』

 そう思って、ルツが近くに来た時に聞いたんだけど。

《砂漠地帯の方は無理ですね、私達が誘拐したのでは、と疑われる場所が殆どです》
『えー』
「上の、本来のシルクロードは?」

《キエフ公国の横、ヴォルコグラードだけですね、それ以上アジア寄りになると私達が異物扱いを受けますので》
「意外と、境界線がハッキリしているのね」

《中つ国や日の出国の者は平民貴族に関係無く、アジア圏から出る際は正式な書類が複数必要なんです。血を守る為と言うより技術を守る為、周辺諸国へ通達する書簡を用意し、各所で見せる。ただ例外は存在します、言葉が話せれば書類は不要、先祖返りも有るので例外措置が既に存在しているんです》

「強固」
《知識、技術は財産ですから》

「キャラバンだけと言うより、各国も同じ思惑で乗ってるって感じだけど」
《アナタの憂慮している通り、ある意味では囲い込み、ですので見た目が同族でも他国の言葉を話せる者は現地では警戒されるんです》

「間者として」
《はい》

「そう、ありがとう、見回りに行きましょう」
『うん』

 コレで僕が一緒に行ったから、ルツが変な事に巻き込まれちゃった。

『この人が、私を』
《誤解や勘違いと言うより、先ず有り得ないんですが》
「一応、向こうでお話を聞かせて頂きたいのですが」

『他の方もお願いします、彼、貴女の知り合いでしょう』
「分かりました、では、デリア・ベーコン侯爵夫人で宜しいかしら」

『その方なら、はい』

 ルツに迷惑を掛けられたって。
 多分、前に会った時にルツに惚れちゃったんだと思う、ローシュとフランソワが初めて会った夜会に居たし。

『なら私が君の話を聞こうかね』
《ありがとうございます、フランシス侯》

 まぁ、案の定、誘って断られて困らせ様と思ったみたい。

『まぁ、他にも見てた者は居るんだし、良く有る事だから気にしない方が良い。けど1人で動くのは今後も控えた方が良いね、特にローレンスと君は印章持ちだからね』
《はい、以後気を付けさせて頂きます》

 僕は指輪無しだったから良いけど、こう言う問題が有るんだよね、貴族って。
 凄く面倒。

「良いかしら?」

『ぁあ、もう終わったのかな?いや、拗れてるのかな』
「はい、今は奥様にお任せしてるんですが、どうにも頑なに迫られたと仰ってまして」
《本当に無いですからね》

「そこは信じてるから大丈夫、問題は彼女、バートリー家の次期当主だそうで」
『だからこそ私も直ぐに収まると思ったんだが、そう、どの程度酔っているのかな?』

「いえ、ほぼ素面かと」
『となると、参ったね、本気で惚れたのかも知れないね』
《お断りします》

『まぁ、君もローシュ嬢狙いだろうから分かるが。甥に言い寄られる彼女の身になってみても、そう言い切るのかな』
《はい》

『だがローレンスとはどうするんだい』
《既にとある約束をしていますので問題は有りません》

 この時の為に口裏合わせをしてたんだけど、本当に必要になるなんて。
 貴族って本当に面倒。

『そうか、なら後は彼女の方の問題だけだが、フランソワは』
「コルセットが不慣れな子でして休憩させていたんですが、今、向こうで話を聞いてるかと」

『ぁあ、元は侍女、しかも今日は少し暑いからね。妻も心配していたんだ、若くて不慣れで、しかも暑い日は苦労すると』
「本当に、夏が思いやられますわ」

『全くだね、昔はもう少し涼しかったんだけども。いや、その分不作が続いたんだから本来は喜ぶべき事なのだけれど、どうにもだね』
「今ココでこの話をするのは気が引けるのですが、ネグリジェの様な服装で、涼しく過ごせるお茶会をと思ってまして」

『良いねぇ、どうせ暫くは時間が掛かるだろう、少し聞かせてくれないかな?』
「では、ローレンス、アーリスは見回りを継続して」
『はい』
『うん』



 先日の長いベールやレースのマントを付け、下には木綿のドレス。

「コルセットも無し、軽く涼しい素材でお茶会を、と」

『それで、夜は仮面だけかな?』
「仮面は暑いので、短いベールで目元を隠せれば十分かと。ただ、はしたないと批判されてしまうでしょうから、先ずは女性だけで行うべきかと」

『女性だけは難しいだろうね、私達男は意外にも嫉妬深い、寧ろ私達も参加させた方が良いだろう。最初は既婚者だけで、その次に心に決めた者が居る両者を、侍従は最低限でだ』

「あの、反対されるかと」
『華美かと聞かれたら見た目は違う、それこそ妊婦も参加出来る催し、そうした場は寧ろ増えるべきだろう。家に籠るか相手の家に行くか、気軽に会えるのは大事だ、ウチの妻は随分と苦労していたからね。侍女だ何だともう、会える者には全て会って、話を聞いて相談して、それでやっと落ち着いたんだ。そんなヒヤヒヤした気持ちをする位なら、安心して会わせられる方が良いからね』

「子が居りませんで、これからもご助力頂けると助かるのですが」
『勿論、面白い催しだからね、協力させて貰うよ』

《アナタ、良いかしら》
『ぁあデリア、どうだったのかな?』
「すみません、奥様」

《良いのよ、それよりアレは少しマズいわね》
『ほう?』

《謝りたいと言ってたのだけど、2人だけでと。甘やかされて育ったみたいだけれど有能は有能だと聞いてるし、一先ずはフランソワに預けて、コチラで相談しようかと》
『ぁあ、舐められているんだね、フランソワとローシュが』

《そうなのよ、家名だけならバートリー家が上》
『けれども、あくまでも家の名、実力としては2人の方が上だろうに』
「フランソワはそうですが、私は」

『ルツ君はサンジェルマン家に連なる者、そしてローレンス君はカサノヴァ家当主、それらと繋がりが有るとは言えど外遊をこなしている君の方が遥かに上だよ』
《今日の催しも、その成果。けれどバートリーのお嬢さんは今まで通りの催しを行うか、何処かの誰かの真似をするだけ、個性が無いのよあの子には》
『嫉妬ですね、フランソワの相手を娶ろうと画策していたそうですから』

 天使からの忠告が。

「デリア、部屋にはフランソワだけ」
《いえ、そこは大丈夫、フランソワの婚約者にも居て貰ってるわ》

「であれば私も謝罪しに行き、一旦はお帰り頂こうかと」
《そうね、そこまで人に見られていないし、お願いするわ》

「はい、では」

《ローシュ》
「凄いの呼んじゃったわね、フランソワ」
『内々に進められていたので、知る者は僅かですから』

「ありがとう、ガブちゃん」
『いえいえ』

「失礼致しますわね、お加減は如何でしょうか」

『少し酔ってたみたいで、なので彼に』
「いえ、問題無い様でしたら今回の事は無かった事に、馬車を用意させていますので暫くお待ち下さい」

『そうですわね、けど彼に』
「ご準備もお有りでしょうから下がらせて頂きますわね、フランソワも下がりましょう、失礼致します」
『失礼しますねクララ、では』

 相手に有無を言わせず、強引に話を遮り扉を閉め。

「はぁ」

『すみません、私の招待客が、しかも私が居ない時に』
『申し訳御座いませ』
「そこは良いのよ、きっとアナタ達の目を盗んで同じ事をしてたか、もっと巻き込まれてたか」

『と言いますと?』

「アナタよ、フェルナンデスを狙ってた可能性が有るのよ」
『フェルナンデス?クララと、何か?』

『1度、社交の場の相手には誘われましたが、それだけで』
「それはいつ?」

『フランソワの、相手候補になる少し前です』
「ほらぁ」
『あらぁ、すみません、全く気付かずで』

「表に出さず、ずっと狙ってたのでしょう、なまじ家名が良いから嫉妬で横槍を入れられたくなかった。それが裏目に出たのかこうなって、ルツに八つ当たり半分、って所かしらね」
『ですね』
『成程』
『すみませんルツ』
《いえ》

「年上狙いなのがね。まぁ以降は気を付けて、出来たら接触は無し、しても誰か間に入れて。夜会は継続、見回りをお願いね」
『はい』
『はい、失礼します』

《ローシュ》
「泣かなくても大丈夫、さ、戻りましょう」

《はい》
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