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更に更に、その後。
真珠を出荷出来る迄には、最低でも5年は必要だそうです。
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稚貝を集めて、分けて、育てて。
作物の収穫をして、偶に赤ちゃんの様子を見に行ったり、道の整備を手伝ったり。
保存食を作って、雪室を作って、毛糸を依って。
「コレ、ほんの1年か2年しか、こうして過ごして無いのに。何か、コレって感じよね、クソ落ち着く」
『もう普通に喋って良いんだよ?他の人がロッサ・フラウをしてるんだし』
「各国にロッサ・フラウが居て、移送船の案内になったり、秘密結社の地盤固めをしたり。私の、私の上位互換が各国に」
『大事な見本だから、本物は大事にとっといた方が良いんでしょ?』
「凄い手抜き感」
『頑張る所は頑張ったんだし、良いんじゃない?麻雀だって手に入れたんだし』
「アレ、話を忘れてくれてるけど、全部の遊戯を混ぜるって事は覚えてるのよね」
『体験したかったのかもね、どんな風に感じるか』
「ぁあ、真面目かっ」
『じゃあ不真面目になって、考えないで。ココはすっかり平和、何がしたい?』
「グダグダ、だらだら、怠惰を。大罪って、大丈夫かしら」
『ほらもー、考えないでって言ったのに』
「だって気になるでしょうよ、魔王みたいに」
『天使の神様に頼んだんでしょ、魔王を守ってるみたいに守ってあげてって』
「信用して無いワケじゃ無いんだけど」
『ローシュはルーマニアの人間、普通なら他国の事に過度に介入しない』
「ぅう」
『駄々こねてもダメ、ルツと約束したでしょ、ルツの休暇まで台無しにしちゃうよ?』
「全く、姿を見せないのね」
『書庫の守り神とか言われる位に引き籠りだって有名だったんだし、きっと書物まみれだよ、今回の事で凄く増えたし』
「書物を読みたいけど、今更この年で覚え、ルツの方が年上なのよね」
『字と紙が好きだからね、それとローシュも』
「けど会いに来ないじゃない」
『会いたい?』
「別に」
『はいはい、心配なら様子見してこようか?』
「お願い」
『うん』
ルツは収穫祭の後から、ずっと眠ったまま。
どれだけ眠ったままなのか、いつ、どうしたら目を覚ますかも分からない。
海の底みたいに冷たくて、殆ど息もしない。
『おう、お前も様子見に来たのか』
『王様も?』
『そらな、寂しいし、コイツも寂しいだろうと思ってな』
『また赤ちゃん出来たんでしょ?』
『早いな、姉上にも、匂いか』
『うん、妊婦の匂いがしたから』
『便利だなおい』
『でしょ』
『マジで、コレ、生きてるんだよな』
『ね、仮死状態の時と殆ど同じで、凄く心配だよね』
『コレで、後5年とか言ったら、流石に神様に抗議しないとな』
『それは無いと思うけど』
『姉上にバレない様にしないとな。死を1回分って、マジで他の神と関わって無いんだよな、アレ』
『やっぱり世界ちゃんとか、それこそ運命の神様、とか?』
『絶対に、姉上には冥界渡りはさせないぞ、何なら俺が』
『どっちも代わりが居ないんだからヤメて?』
『けどでもだって、だ、マジでどうすりゃ良いんだよコレ』
『春になったら、ローシュに教えようと思う』
『それ、お前』
『物語だと、お姫様のキスで王子様が目覚めるでしょ?』
『まぁ、だが』
『それでもダメなら、ローシュに任せる、流石にいきなり冥界渡りはしない。筈』
『そこだよぉ、アレ以来、姉上に自信が出たのは良いんだけどさぁ』
『だから記憶が無いんだと思う、そこに関わるかもだし、ローシュの邪魔は出来ないよ』
『神々の方針だしな』
『うん』
マジで、春になってもルツは目覚めず。
『おいおいおい、今日で春だぞアリアドネ様』
『分かってるわよ、けど私は関知してないし』
『僕もだ、すまない』
『それだ、そこ、誰がルツに知恵を授けたんだろうか』
「私だ」
『なっ、姉上』
「の、影に居た者だ」
『ぁあ、何だ、スカアハ様か』
「お前、本当に柔軟性がエグいな?」
『マジで姉上っぽいわぁ、無理だわ、騙される気しか無い』
「ふふふ、面白いヤツだな」
『良く言われます』
「でだ、知識を授けたのはウチの系譜だ」
『地下で影で、死』
「死の神の誰かしらに関わりが無ければ、授ける事は不可能」
『けど姉上と一緒に行動していたから、得られた』
「アレの理由もコレの理由も理解が出来る、だからこその中間案だったのだが、お前は本当にくっ付けるべきだと思うか?」
『コレ、俺への試練か?』
「そうだな、連帯責任だ、もう少し情操教育をしてやるべきだった」
『ご尤もで』
「それに、お前の王としての利益にも反する事になるだろう、アレらが纏めてココを逃げ出せば損失としては大き過ぎる」
『俺が何かするとでも?』
「する気か?」
『すべきか?』
「だとしたらどうする」
『何もしたくねぇし、しねぇ』
「力を持つ者の」
『俺らの責任は等分だ、同じ立場で平等、コイツらが俺の元を去る事を制限は出来無い。仲間だ、国を作り守る仲間、それが逃げ出すなら俺が間違ったって事。間違わなければ、コイツらは帰って来る』
「何故、そこまで自信が有る」
『だってコイツら、俺が好きだし』
「ふっ、何処まで面白い事を言う」
『コレは本気だぞ?俺程に話が合うヤツはそうそう居ない、しかも王だ、コイツらにも利益を齎せる。理解を持ってコイツらと分かり合える、それこそ貴重だとコイツらも理解してる、平和をなせるのもココで俺とだ』
「ならば問おう、お主が死んだらどうなる」
『あー、それは考えて無かったわ、もう20年は生きる気だったし。その間に次代を決めて、その教育を一緒にするかな、コイツらと一緒に。それに俺が死んだらルツが代理人だ、結局は力こそ権力、それでルツが次代を。それでか、俺に決めろと?無理だよ、なら次代はルツだ』
「書面に遺して有るのか?」
『えっ、俺、死ぬの?』
「コレらは遺している、お前も死を覚悟し示すべきだ。だが、お前が示さんからコレの決断が遅くなったのだ」
『すんません』
「素直で面白いから許してやるが、甘え過ぎるな、しわ寄せはローシュへと向かう。お前は既に子が2人も居るのだ、次はコヤツらの番、しっかりせい!」
『はいっ!』
だよな、確かに甘えてたわ。
だってコイツら全員、俺より年上なんだもの。
「何でルツは起きないの、ブラド」
『姉上の愛を得る為だ』
「は?」
『姉上に黒真珠を渡す為、眠ってる』
「どう見ても仮死状態でしょうよ、しかも、え?黒真珠?」
『そう、黒真珠』
「は?」
『冥界渡りの理由だ、姉上の愛を得る為に冥界渡りをして、今は眠ってる』
「意味が分からないのだけど」
『材料を揃えて、準備して、こうなった』
「アーリス」
『うん、知ってた』
『春になっても目が覚めなかったら姉上に教えるつもりだった、コレはルツの試練だから、愛を得る為に』
「その、私のせい?」
『アシャと何か有っただろ、その償いだろ』
「だからって、時間を無駄に」
『姉上の愛を得るのに無駄は無い、俺がしっかりしなかったから、ルツは眠るのを躊躇った。遅くなったのは俺のせいだ、すまん、時間が無駄だと言うなら俺のせいだ』
「いや、で、いつ」
『分からんが姉上に知らせないワケにもいかないから、こう、春を目途にした』
「ルツ、兎に角、話し合いましょうよ」
『ローシュ、あのね、キスしたら目覚めるかなと思って』
「アーリス」
『ローシュの世界だと逆なのは分かるけど、ココでは逆が人気なの、男の子にも女の子にも』
『で、まぁ、有るかもなと』
「ブラド、どうやって貝から真珠を取り出すか知ってる?」
『姉上』
「そう、私、した事有るの、何回も。それこそホタテも、何回も」
『いや、姉上、ルツは貝じゃないからな?』
「もう殆ど貝でしょうよ、冷たいし話さないし、真珠を得る為にこんなになって」
『でもこじ開けないでよね?ルツは貝じゃないよ?』
「人の体も貝と同じ様に、異物を真珠みたいに包み込むのよね、何処かしら」
『ちょいちょいちょい、姉上、マジじゃないよな?』
「私の蘇生1回分、使って起こす」
『の、あ、待った待った』
「私、お付き合いしてる人以外、仕事以外では何もしないつもりなの」
『ローシュお願い、蘇生は重要だから、僕の為にとっておいて?』
「アーリス」
『お願い、試してみて?』
ふむ、コレは少し、思わぬ展開だ。
「でも」
「お主の純潔を守る姿勢は非常に素晴らしい、だが、刺すのはイカン」
「でもスカアハ様」
「蘇生は我らでもそう叶えられるモノでは無い」
「そうですけど」
「手順があろうよ、セオリー通りに行わねばイカン時もあろうに」
「コレですか?」
「コヤツは神の試練の最中なんだが、まぁ、ココのセオリーをお主に要求するのは確かに間違いだったかも知れんな」
「神の試練」
「マジでお主の愛を得る為だ、失った愛を取り戻す為、こうして眠っておる」
記憶が無い異世界人が関わるなら、もう少し、捻らんといかんかったか。
「キスで目覚めると?」
「コヤツらはそう思っとる」
「ねぇ、アナタ達、愛の無いキスに何の意味が有ると?それとも契約しろとでも?」
『いや、俺らは別に』
『儀式だから、こう、儀式的な何かをすれば起きるかなと思って』
「愛の無いキスで?本当にルツが喜ぶと思う?」
『いや、それは』
『それ位、ローシュを愛してるんだもん』
『マジでだ、そこは認めてやっても良いだろ姉上』
『不器用だけどね』
「ちょっと、考えさせて」
『刺すなよ?』
「刺さない、貝みたいに開きません」
「うむ、その言葉が聞きたかった、ではな」
全く、異世界人とはかくも難しいとは。
「ルツ、アナタ頭が良いんだから、もう少し何とかならなかったの?」
冷たい。
コレで生きてるとか、ただ眠ってるだけらしい。
脈拍は感じ取れないけれど、胸が凄くゆっくり動いてはいる。
コレは確かに神の御業だろうけど。
「また何を飲んだのよ、どう見ても仮死状態じゃない、コレ」
このままなら、国が困るわよね。
「王様が困るわよ、それに私も困るから起きて」
本当に、愛の無いキスで起きるのかしら。
「物語で王子様のキスで目覚めるって、確かに良く有るけど、私は嫌なのよね。だって見た目だけで、しかも眠った状態しか知らないのに愛してキスとか、それこそマジで有り得ないじゃない。死体愛好家かっての、って言うか死体愛好家ならまだマシ、アレで起きて幸せに暮らすとか本気で考えたら無理じゃない?」
こう言う所が、可愛げが無いとか言われるのよね。
「可愛げが無いのは理解してるけど、そこを好きだとか言ったら無理よ、別に意図しての事じゃないし良いとも思って無いし」
ただ、呈示された正しい幸せを鵜呑みにしないのが可愛く無いなら、私は可愛く無いと思われても良い。
でも、非難はされたくない、そうした考えも有るのかってだけで良かったのに。
「確かに、1度の間違いだから許すべきかも知れないけど、アレは凄く嫌だった。私が居なくても、振られても平気そうなアナタが凄く嫌だった、それで今までの全てが嘘に思えた。口説かれてた事も全部、無かったみたいにされた様で、凄く嫌だった」
振られたみたいで。
昔を思い出して、過去の男と重なって、凄く嫌だった。
「酔った勢いで、目の前に私が居るのに隣の席の女を口説き始めた男と付き合ってたの、酔って覚えて無いからって許す馬鹿なの。アナタは違うと分かってる筈なのに、ごめんなさい、どうしても許せなくて」
思い出し泣きって、アホだけど、私ってアホだし。
「何か、死人に話してるみたいで凄く嫌だから起きてよ。ずっと最初からの知り合いはアナタだけ、最古の知り合いはアナタとディンセレだけなんだから、だから。こんなの死んでるのと同じじゃない、何が休暇よ、置いて行かないで、居なくならないで、家族愛なら幾らでもあげるから」
涙で溺れさせてやろうかしら、凄い出て来るし。
「ルツ、私の涙で溺れさせるわよ、だから早く起きて」
作物の収穫をして、偶に赤ちゃんの様子を見に行ったり、道の整備を手伝ったり。
保存食を作って、雪室を作って、毛糸を依って。
「コレ、ほんの1年か2年しか、こうして過ごして無いのに。何か、コレって感じよね、クソ落ち着く」
『もう普通に喋って良いんだよ?他の人がロッサ・フラウをしてるんだし』
「各国にロッサ・フラウが居て、移送船の案内になったり、秘密結社の地盤固めをしたり。私の、私の上位互換が各国に」
『大事な見本だから、本物は大事にとっといた方が良いんでしょ?』
「凄い手抜き感」
『頑張る所は頑張ったんだし、良いんじゃない?麻雀だって手に入れたんだし』
「アレ、話を忘れてくれてるけど、全部の遊戯を混ぜるって事は覚えてるのよね」
『体験したかったのかもね、どんな風に感じるか』
「ぁあ、真面目かっ」
『じゃあ不真面目になって、考えないで。ココはすっかり平和、何がしたい?』
「グダグダ、だらだら、怠惰を。大罪って、大丈夫かしら」
『ほらもー、考えないでって言ったのに』
「だって気になるでしょうよ、魔王みたいに」
『天使の神様に頼んだんでしょ、魔王を守ってるみたいに守ってあげてって』
「信用して無いワケじゃ無いんだけど」
『ローシュはルーマニアの人間、普通なら他国の事に過度に介入しない』
「ぅう」
『駄々こねてもダメ、ルツと約束したでしょ、ルツの休暇まで台無しにしちゃうよ?』
「全く、姿を見せないのね」
『書庫の守り神とか言われる位に引き籠りだって有名だったんだし、きっと書物まみれだよ、今回の事で凄く増えたし』
「書物を読みたいけど、今更この年で覚え、ルツの方が年上なのよね」
『字と紙が好きだからね、それとローシュも』
「けど会いに来ないじゃない」
『会いたい?』
「別に」
『はいはい、心配なら様子見してこようか?』
「お願い」
『うん』
ルツは収穫祭の後から、ずっと眠ったまま。
どれだけ眠ったままなのか、いつ、どうしたら目を覚ますかも分からない。
海の底みたいに冷たくて、殆ど息もしない。
『おう、お前も様子見に来たのか』
『王様も?』
『そらな、寂しいし、コイツも寂しいだろうと思ってな』
『また赤ちゃん出来たんでしょ?』
『早いな、姉上にも、匂いか』
『うん、妊婦の匂いがしたから』
『便利だなおい』
『でしょ』
『マジで、コレ、生きてるんだよな』
『ね、仮死状態の時と殆ど同じで、凄く心配だよね』
『コレで、後5年とか言ったら、流石に神様に抗議しないとな』
『それは無いと思うけど』
『姉上にバレない様にしないとな。死を1回分って、マジで他の神と関わって無いんだよな、アレ』
『やっぱり世界ちゃんとか、それこそ運命の神様、とか?』
『絶対に、姉上には冥界渡りはさせないぞ、何なら俺が』
『どっちも代わりが居ないんだからヤメて?』
『けどでもだって、だ、マジでどうすりゃ良いんだよコレ』
『春になったら、ローシュに教えようと思う』
『それ、お前』
『物語だと、お姫様のキスで王子様が目覚めるでしょ?』
『まぁ、だが』
『それでもダメなら、ローシュに任せる、流石にいきなり冥界渡りはしない。筈』
『そこだよぉ、アレ以来、姉上に自信が出たのは良いんだけどさぁ』
『だから記憶が無いんだと思う、そこに関わるかもだし、ローシュの邪魔は出来ないよ』
『神々の方針だしな』
『うん』
マジで、春になってもルツは目覚めず。
『おいおいおい、今日で春だぞアリアドネ様』
『分かってるわよ、けど私は関知してないし』
『僕もだ、すまない』
『それだ、そこ、誰がルツに知恵を授けたんだろうか』
「私だ」
『なっ、姉上』
「の、影に居た者だ」
『ぁあ、何だ、スカアハ様か』
「お前、本当に柔軟性がエグいな?」
『マジで姉上っぽいわぁ、無理だわ、騙される気しか無い』
「ふふふ、面白いヤツだな」
『良く言われます』
「でだ、知識を授けたのはウチの系譜だ」
『地下で影で、死』
「死の神の誰かしらに関わりが無ければ、授ける事は不可能」
『けど姉上と一緒に行動していたから、得られた』
「アレの理由もコレの理由も理解が出来る、だからこその中間案だったのだが、お前は本当にくっ付けるべきだと思うか?」
『コレ、俺への試練か?』
「そうだな、連帯責任だ、もう少し情操教育をしてやるべきだった」
『ご尤もで』
「それに、お前の王としての利益にも反する事になるだろう、アレらが纏めてココを逃げ出せば損失としては大き過ぎる」
『俺が何かするとでも?』
「する気か?」
『すべきか?』
「だとしたらどうする」
『何もしたくねぇし、しねぇ』
「力を持つ者の」
『俺らの責任は等分だ、同じ立場で平等、コイツらが俺の元を去る事を制限は出来無い。仲間だ、国を作り守る仲間、それが逃げ出すなら俺が間違ったって事。間違わなければ、コイツらは帰って来る』
「何故、そこまで自信が有る」
『だってコイツら、俺が好きだし』
「ふっ、何処まで面白い事を言う」
『コレは本気だぞ?俺程に話が合うヤツはそうそう居ない、しかも王だ、コイツらにも利益を齎せる。理解を持ってコイツらと分かり合える、それこそ貴重だとコイツらも理解してる、平和をなせるのもココで俺とだ』
「ならば問おう、お主が死んだらどうなる」
『あー、それは考えて無かったわ、もう20年は生きる気だったし。その間に次代を決めて、その教育を一緒にするかな、コイツらと一緒に。それに俺が死んだらルツが代理人だ、結局は力こそ権力、それでルツが次代を。それでか、俺に決めろと?無理だよ、なら次代はルツだ』
「書面に遺して有るのか?」
『えっ、俺、死ぬの?』
「コレらは遺している、お前も死を覚悟し示すべきだ。だが、お前が示さんからコレの決断が遅くなったのだ」
『すんません』
「素直で面白いから許してやるが、甘え過ぎるな、しわ寄せはローシュへと向かう。お前は既に子が2人も居るのだ、次はコヤツらの番、しっかりせい!」
『はいっ!』
だよな、確かに甘えてたわ。
だってコイツら全員、俺より年上なんだもの。
「何でルツは起きないの、ブラド」
『姉上の愛を得る為だ』
「は?」
『姉上に黒真珠を渡す為、眠ってる』
「どう見ても仮死状態でしょうよ、しかも、え?黒真珠?」
『そう、黒真珠』
「は?」
『冥界渡りの理由だ、姉上の愛を得る為に冥界渡りをして、今は眠ってる』
「意味が分からないのだけど」
『材料を揃えて、準備して、こうなった』
「アーリス」
『うん、知ってた』
『春になっても目が覚めなかったら姉上に教えるつもりだった、コレはルツの試練だから、愛を得る為に』
「その、私のせい?」
『アシャと何か有っただろ、その償いだろ』
「だからって、時間を無駄に」
『姉上の愛を得るのに無駄は無い、俺がしっかりしなかったから、ルツは眠るのを躊躇った。遅くなったのは俺のせいだ、すまん、時間が無駄だと言うなら俺のせいだ』
「いや、で、いつ」
『分からんが姉上に知らせないワケにもいかないから、こう、春を目途にした』
「ルツ、兎に角、話し合いましょうよ」
『ローシュ、あのね、キスしたら目覚めるかなと思って』
「アーリス」
『ローシュの世界だと逆なのは分かるけど、ココでは逆が人気なの、男の子にも女の子にも』
『で、まぁ、有るかもなと』
「ブラド、どうやって貝から真珠を取り出すか知ってる?」
『姉上』
「そう、私、した事有るの、何回も。それこそホタテも、何回も」
『いや、姉上、ルツは貝じゃないからな?』
「もう殆ど貝でしょうよ、冷たいし話さないし、真珠を得る為にこんなになって」
『でもこじ開けないでよね?ルツは貝じゃないよ?』
「人の体も貝と同じ様に、異物を真珠みたいに包み込むのよね、何処かしら」
『ちょいちょいちょい、姉上、マジじゃないよな?』
「私の蘇生1回分、使って起こす」
『の、あ、待った待った』
「私、お付き合いしてる人以外、仕事以外では何もしないつもりなの」
『ローシュお願い、蘇生は重要だから、僕の為にとっておいて?』
「アーリス」
『お願い、試してみて?』
ふむ、コレは少し、思わぬ展開だ。
「でも」
「お主の純潔を守る姿勢は非常に素晴らしい、だが、刺すのはイカン」
「でもスカアハ様」
「蘇生は我らでもそう叶えられるモノでは無い」
「そうですけど」
「手順があろうよ、セオリー通りに行わねばイカン時もあろうに」
「コレですか?」
「コヤツは神の試練の最中なんだが、まぁ、ココのセオリーをお主に要求するのは確かに間違いだったかも知れんな」
「神の試練」
「マジでお主の愛を得る為だ、失った愛を取り戻す為、こうして眠っておる」
記憶が無い異世界人が関わるなら、もう少し、捻らんといかんかったか。
「キスで目覚めると?」
「コヤツらはそう思っとる」
「ねぇ、アナタ達、愛の無いキスに何の意味が有ると?それとも契約しろとでも?」
『いや、俺らは別に』
『儀式だから、こう、儀式的な何かをすれば起きるかなと思って』
「愛の無いキスで?本当にルツが喜ぶと思う?」
『いや、それは』
『それ位、ローシュを愛してるんだもん』
『マジでだ、そこは認めてやっても良いだろ姉上』
『不器用だけどね』
「ちょっと、考えさせて」
『刺すなよ?』
「刺さない、貝みたいに開きません」
「うむ、その言葉が聞きたかった、ではな」
全く、異世界人とはかくも難しいとは。
「ルツ、アナタ頭が良いんだから、もう少し何とかならなかったの?」
冷たい。
コレで生きてるとか、ただ眠ってるだけらしい。
脈拍は感じ取れないけれど、胸が凄くゆっくり動いてはいる。
コレは確かに神の御業だろうけど。
「また何を飲んだのよ、どう見ても仮死状態じゃない、コレ」
このままなら、国が困るわよね。
「王様が困るわよ、それに私も困るから起きて」
本当に、愛の無いキスで起きるのかしら。
「物語で王子様のキスで目覚めるって、確かに良く有るけど、私は嫌なのよね。だって見た目だけで、しかも眠った状態しか知らないのに愛してキスとか、それこそマジで有り得ないじゃない。死体愛好家かっての、って言うか死体愛好家ならまだマシ、アレで起きて幸せに暮らすとか本気で考えたら無理じゃない?」
こう言う所が、可愛げが無いとか言われるのよね。
「可愛げが無いのは理解してるけど、そこを好きだとか言ったら無理よ、別に意図しての事じゃないし良いとも思って無いし」
ただ、呈示された正しい幸せを鵜呑みにしないのが可愛く無いなら、私は可愛く無いと思われても良い。
でも、非難はされたくない、そうした考えも有るのかってだけで良かったのに。
「確かに、1度の間違いだから許すべきかも知れないけど、アレは凄く嫌だった。私が居なくても、振られても平気そうなアナタが凄く嫌だった、それで今までの全てが嘘に思えた。口説かれてた事も全部、無かったみたいにされた様で、凄く嫌だった」
振られたみたいで。
昔を思い出して、過去の男と重なって、凄く嫌だった。
「酔った勢いで、目の前に私が居るのに隣の席の女を口説き始めた男と付き合ってたの、酔って覚えて無いからって許す馬鹿なの。アナタは違うと分かってる筈なのに、ごめんなさい、どうしても許せなくて」
思い出し泣きって、アホだけど、私ってアホだし。
「何か、死人に話してるみたいで凄く嫌だから起きてよ。ずっと最初からの知り合いはアナタだけ、最古の知り合いはアナタとディンセレだけなんだから、だから。こんなの死んでるのと同じじゃない、何が休暇よ、置いて行かないで、居なくならないで、家族愛なら幾らでもあげるから」
涙で溺れさせてやろうかしら、凄い出て来るし。
「ルツ、私の涙で溺れさせるわよ、だから早く起きて」
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孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
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