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更にその後。

観光地化。

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「本当に、良いんですね」
『この地を守る為にも、観光地化、なるモノを会得しろと巫女から聞いている』

「意味は?」
『いや、その事も分からない、分からない事は教われと言われている』

 そうして私が観光地とは何かを、先ずは教える事に。

「寝る場所や食事を提供し、来訪者から対価を得る、と言う事です」

『提供するだけで良いのか』
「歓迎し、相手が対価を支払える分だけ、長く居たいと思わせる」

『分かった、では先ずソチラの歓迎を受けてみたい』

 ですよね。

 ただ、彼らの生活との差が、それこそ家屋は民家のみ。
 王や貴族の概念は無く、神殿も祠等の簡易なモノだけ。

 食事は焼くか、葉で蒸すか、最近やっと鉄鍋で煮る習慣が根付いた程度。

 葉で蒸すのは後でウチでも採用するとして、寧ろ彼らに合わせた歓迎方法をココで示すべきで。
 けど、時間は限られるし。

「コチラに、来て貰えますか?」

 そうして魔導具のドアを見せ、城へ。

『で、次は連れて来た、と』
「そうなの」

『まぁ、楽しそうでは有るし、良いか』
「助かるわ王様」

 そうしてウチの文化を見せ、体験させ、それから彼らに考えて貰う。
 コレならギリギリ、文化侵略にはならない、筈。

『確かに家はもう少し頑丈にすべきだろう、気の弱い者、慣れぬ者の為に』
「そうですね、壁は守りですから」

『ウチの素材は限られる、出来たら新しい何か、ココの植物を見せては貰えないだろうか』
「成程、準備させますね」

 そうして気に入ったのは、まさかの竹。
 確かに汎用性には優れているけど。

『コレは良いモノだ』
「あ、あの、それは見えない部分か、補助としてお願いします」

『何故』
「そう全てに使うと、ココの見た目が変わってしまう、少し油断すると他の植物より育ってしまう元気過ぎる植物なんです」

『見た目』
「はい、やはりココの植物を見に来られる方も居ますし、扱いが難しいモノは最初に少しだけの方が良いかと」

『分かった』

 そして現地での植林と平行し、ココの方式と向こうの方式、2つの家を完成させた。

「どうでしょうか」

『向こうのハマムや水道、そうしたモノを幾つか建てて欲しい、使い方や使い勝手を理解したい』

「分かりました」

 トイレは勿論、汚水処理施設に上水施設。
 サウナに至っては数種類、建設する事に。



「はぁ、良かった、コレよコレ」
《こうした見た目なんですか?》

「行った事は無いけれど、こんな感じ、誰もが行きたがる高級な休息地」
《そう聞くとキャラバンに使わせるのは惜しいですね、特にウムトには》

「寧ろキャラバンの妻への労いよ、ウムトが良いと思ってくれたら、次は奥方に。そこから意見を聞いて、少しずつ変える為、学んで貰う」
《学ぶ目的があるので吸収が早いですし、寧ろ抑えるのが大変かも知れませんね》

「抑え無くても良いんじゃない?違うのは良い事、異文化を楽しむのは良い事だと思ってくれたお陰で、彼らも彼らで守るだとか融和について理解してくれたんだし。ココが最先端でも、犯罪の温床にならなければ進んでも良いと思うわ」

《違法薬物、ですか》
「それと買春もね、馬鹿が居る前提で考えないと向こうと同じになっちゃ困るし」

《追々、キャラバンの者もココに住みたがるかも知れませんし、流れに任せましょう》

「そうね」

 実は既にローシュの考えた楽園作りを気に入り、各国から調査隊の申し出が来ている。

 平和を作るには先ず天国から、そして息抜きや目に見える理想の大切さから、天国と平和を作る為にもと。
 そうした大義名分で、この景色をいつまでも眺めていたい者が多く居る。

 その時点で、ローシュの考えは成功している。

 楽園を守る為に一丸となり、尽力する。
 平和へ向けても同じ事、同じ平和を目指し各国が努力する、人々が努力する。

《それにしても、こうなると私達だけ、国の代表でも何でも無いのは少しだけ気が引けますね》

「私が国を背負って出るべき場では無いし、小国ですし、大国に任せましょう」

 ローシュのココでの肩書きは、この地が認めた使者。
 好き勝手にして良いとのお墨付きですから、もっと好きにして良いとは思うんですが。

《この国の為、ですかね》
「そうそう、国の速度に合わせて成長を見守りませんとね」



 地元民の中からローシュと神様が選んで、ローレンスとネオスが教える。
 他の者の言葉の壁は敢えてそのまま、人と国を守る為、選ばれた人だけが他国の言葉を学べる。

 それと各国の言語学者と生物学者が集まって、翻訳や図鑑、書を作ろうとしてる。

「シャ、だね」
《いや、シェ、だ》
『ウチではシェに聞こえるんだが』



『お前達は、夢で見て考えているんだろうか。どうしてそこまで先を考えられるんだ?』

「ぁあ、確かに、私は夢と想像を組み合わせています。見た事の有る風景を再現しつつ、組み合わせる。あの木がココまで大きくなったら次はココに植えて、そうすれば目隠しと防風になる、数年後に丁度良くなるだろうと想像したんです」

『想像』
「想定、予想、想像するには知識と経験、それと練習ですね」

『神の視点となる練習か』

「そうかも知れませんね」

 各国の言語を学んだ者をコンシェルジュとして付ける事で、施設や設備の使い方や案内の説明、そして見張りの役割を担って貰う。

 本当はビュッフェスタイルにしたかったのだけど、各国の名札を品物に付けなきゃならなくなる。
 となるとこの国が言語に強い事がバレてしまう、それなら暫くは飲食品は部屋食で。

 そうする事で疫病対策にも有効となる。
 限られた者だけを表に出し、多くの民と接触させない。

 そしてこの地を綺麗に使って貰う為に、使い残った石鹸やクリーム、ココで着ていた施設着はお土産に。

 大事に使えば自分の利益になる、観光とは文化のお試し行為。

《優秀過ぎて、確かに人間かどうか疑わしいですね》
「ココの人達にはね。でもいつか更にプロが現れたら、素人考えだって怒られるかも知れないし、どうしたって私の名は残したくは無いわね」

《ロッサ・フラウ、暁の貴婦人の噂がかなり広まってるそうで》
「マリ様と競合しないのは良いけど、ちょっと、大仰過ぎて嫌なんだけど」

《女神マリの話も同時に広まりますので、寧ろ歓迎してらっしゃるそうです》

「強いわ、流石、利用となると直ぐに呑み込んでしまうのね」
《アナタへの信頼も有りますから》

 どうか、ココには観光に強い方が現れ、より良い楽園建設が行われます様に。



 旅行代理店に勤めていた僕だからこそ呼ばれたのか、良い場所へ異世界転移出来たな、と。
 なのにコレは。

 絶望した!

 既に観光地としての基礎が出来上がっている。
 しかも向こうより良い、向こうより遅い年代の筈なのにも関わらず。

『あの』
「はっ、いや、すみません。あまりの発展具合に驚いてまして」

『その、失礼ですが、どの年代の』

「2000年代、ですが」
『成程、因みにお国は、どの辺りで?』

「地図が有るんですか?!」

『はい、ただ、少し向こうとは違うそうなので』
「解説をお願い出来ますか?」

『はい』

 歴史が大幅に違う。
 けれど飢饉や疫病対策がなされての事だろう、とは予測出来た。

 だが観光地化は。

「それで、ココは」
『暁の貴婦人、赤き貴婦人ロッサ・フラウ様のお陰だ、と』

「それは、女神マリとは」
『いえ、確かに女神マリは赤き貴婦人ですが。ココにご助力した方は、拝める事を否定なされ、神ではないと仰っていたそうです』

 精霊か、転移者か転生者か。
 先程の歴史や地図から、先代が居るだろうとは思っていた、けど。

「なら、そう僕は役に立たないかも知れませんね」
『いえ、ロッサ・フラウは仰っていたそうです、必ずご自分より知恵者がこの地に現れる筈だと。どうかお力をお貸し下さい、御使い様』

 彼女の容姿が可愛らしく、魅力的なのも、ロッサ・フラウの功名な手口なのかも知れない。

「先ずは、ココを良く知りたいんですが」
『是非、案内させて頂きますね』

 そして街作りのシミュレーションが好きで、未だに素人童貞で、観光地が大好きな僕を呼んだのは。
 うん、逆に正解なのかも知れない。

「宜しくお願いします」



 人は望まれると、望まれた方向へ向かう習性が有る。
 どんな者でも、自分を庇護する者の要求に殆どが沿う。

 殆ど、は。

《いつ、お力を発揮して頂けるんでしょうか》
『向こうとかなり違うから、もう少し調べて、考えさせて』

 転移者、御使い様として我々はもてなした。
 けれども何の成果も無しに、既に半年が過ぎている。

 確かに転移者だと神々に確認も出来た、けれども。

《でしたら、周りの男性に手を付けるよりも》
『紙意外の情報って大切なのよ?』

《分かりますが》
『何?抱いて欲しいの?』

《いえ、失礼致します》

 そうして王に相談すると、とある名を教えて頂けた。
 王にだけ伝わる秘密の名前、秘密結社フリーメーソン。

 彼らに相談すれば、何かしらの解決策が出るかも知れないから、と。

 それから出来るだけコチラの名を出さず、秘密結社の事を探っていると。

「アナタですかね、秘密結社を探っている方は」

 真後ろから聞こえた女性の声は重く、殺意すら籠った様に低く。

《誤解しないで下さい、決して、害そうとする気は無く》
「困っているとは聞きましたが、何処から知ったのでしょうか」

《私の、最も上からです》

「成程、では付いて来て下さい」

 そうして振り向くと、黒いドレスに黒いベールを付けた女性に脅されていたのだ、と知った。
 そのまま暗い夜道を歩き、暫くすると。

《ココは確か》
「ご存知ですか、なら話は早そうですね、どうぞ」

 王族に重用されている重臣の別宅の筈。

《お邪魔します》
「ふふふ、真面目で礼儀正しい、流石従者として育てられた者。王様は素晴らしい教育をなさっているみたいですね」

《そこまで》
「知ってはいました、ですが困っている、と言われないと我々は手を出せないのです。ようこそ、秘密結社フリーメーソンへ」

 良き御使い、悪い御使いを篩い分ける為の組織。

 そこで私は知恵を借り、神の御使いだ、とされる方に策を弄した。

『どうして』
《誰にでも試練は訪れるものです、3つの試練をこなして頂けないなら、我々は保護は出来ません》

『だから、時間を』
《とある国の御使い様は、10日目にして既に国へ貢献なされ、一生を大切に扱われたそうで。つまりはアナタだけでは無いのですよ、他にも居るんです、御使いと呼ばれる存在は頻繁にコチラに現れてらっしゃるんですよ》

『そんなの聞いて無い』
《聞かれませんでしたし。ですが、少し考えれば分かるかと、なのに思い至らなかった。1つ目の試練は不合格ですね》

『そっ』
《では具体的に言って頂かなくても結構です、何を成すつもりなのか、お伺いさせて下さい》

『その黒い女の策略かしら、コレだから童貞は』
「童貞の良さの分からない役立たずの豚が何か言っても、気にしてはダメよ、脳が腐って溶け出してしまうわ」
《はい。では、教えて下さい、どんな策が有るんですか?》

『国の認定する、酒類と人を扱う』
《既に議論され終わった事ですが、何か真新しい策が有ると言う事で宜しいでしょうか》

『それこそ、国営の売春宿』
《それも既に議論が終わった事ですが、真新しい策が有るんでしょうか》

『じゃあ、その議論した書類を出してよ』
《いえ、もうアナタに出せるモノは何も有りません、しっかりとした成果を出せるまではココに居て貰います》

『魔法が、何をしたの』
《それも教えられません、成果を出して下さい》

『出してくれたら』
《既にコチラは礼を尽くしました、次はアナタの番です》

『なら言わないわ』
《結構ですよ、ココで朽ち果てるまで居れば良いんですから》

『ちょっと、冗談、やらせてあげるから』
《いえ、私には貞操観念と好いた相手が居るので無理です、仮に疫病が無いとしても汚らわしい人と体を重ねたくは無いんです》

『私の遺伝、血が必要に』
《アナタの血が無ければ滅ぶなら滅ぶ事がこの国の運命です、王は受け入れると仰いました》

『そんな、神様』

『僕を知ろうともせず、役立てようともせず、利だけを得ようとした。等価交換、利益には利益を、害には害を』
『そんな、次からはちゃんとしますから』

『何故?何故こうなる前に、彼らにも対価を支払わなかったのかな?』

『どれ位の度量か、そう試したんです』
『それでこの結果になった、じゃあ仕方無いね』

『言います、案を出します、だから』
『そう、じゃあ頑張って』

『そんな』
《では、案をお願い致します》

 出て来たのは、既に論じられた案ばかり。
 しかも実行されている案より稚拙で、愚かで。

『嘘、だって今は』
「時代に合わせられない、この試練もダメでは、流石に資源としても無理かと」

『何よ資源って』
「産む機械にすら適さないと言う事です。では、失礼致しますね」
《お送り致します》

『ちょっ』

《あの》
「産む機械、とは、2000年代頃に為政者の1人から出た発言として非難された文言だそうです。今回はどの時代の方かの判別の為に言いましたが、忘れて下さいね、本来なら女性は須らく尊い存在なのですから」

《はい》
「それに童貞も、愛する者の為に守るのは素晴らしい事です、是非卑下なさらず思いを遂げて下さいね」

《ありがとうございます》
「では彼女のお手付きは全て処分で、代わりは幾らでも居る筈。彼女に関わる情報全て、消して下さい」

《ですが、有能な者も居ますので、流石に全て処分は勿体無いかと》
「そう提案して頂けて助かります、では、とある国に役立てて貰うのでキャラバンに彼らの詳しい来歴を渡して下さい。それで等価交換は成立します」

《あの、アナタは暁の貴婦人ロッサ・フラウでは》

「そう言って頂けるのは光栄ですが、黒しか身に付けてませんよ?」
《ベールで見えにくいですが、耳元に赤い宝石を身に着けてらっしゃるかと》

「ロッサ・フラウは、ご自分でそう名乗った事は1度も無いそうで。では、失礼致しますね」



 秘密結社フリーメーソンを取り仕切る者の総称こそ、暁の貴婦人ロッサ・フラウ
 表には地元の有能な貴族が顔役として任され、要請が有れば私達が各国へ出向き、転移転生者の問題解決へと助力をしている。

 初代ロッサの子孫がロッサの意志を継ぎ、世界を見守っている。

『お帰りなさい』
「はぁ、あざといけど確かに役に立たわ、耳飾り」
《でしょ、お風呂に入ったらそれも記録しておいて》

「はーい」

 私にも転移者の血が流れてるらしいけど、こうした場面以外、全く神様にも精霊にも会えない。
 寧ろ成人して仕事に関わるまで、居ないんじゃないかとすら疑ってた。

 けど転移者の傍でなら会える、会えると言う事は本物だと言う事。

『ぁあ、本物だったんですね』
《けどコレじゃねぇ。全く、どうしてコレで偉そうに出来たのかしら》
「だからじゃない、私なら直ぐに神様と相談しまくるけど、そう知恵が回らなかったんじゃないの」

《それか舐めてたか》
『考えるにも慣れは必要ですから、それこそ産む機械として呼ばれたのかも知れない、とすら知恵が回らなかったのでしょう』

「言っといて何だけど、怖い話よね、産む機械だなんて」

『そうですね、機械とは精密に生み出せる道具だそうですから、それだと逆に神になってしまうでしょうし』
《多分、道具って意味での機械って言葉なんじゃ?》

『分かってますよ、冗談ですよ冗談』
「いえ、うん、逆に考えさせられたわ」
《真面目なんだから、笑える冗談にしてよ》

『無理ですね、真面目が売りですから』
《マジでウケる》
「その真面目なお姉様は、また男に手を出したそうで」

『手だけね』
《直ぐに情報を引き出したいからって、私達まで誤解されない様にしてよ》

『大丈夫、バラしたら秒数と回数をバラすって言ってあるから』
「怖っ」
《兎に角、程々にね、そう期待されても困るんだし》

『そこまでのバカに広めても同じ様に他の情報をバラすだけだから、大丈夫、等価交換は成立してるわ』
「もっと怖いわ」
《それでも、そろそろ結婚する年でしょ、相手探しは良いの?》

『童貞で可愛かったら別に、何でも良いから姉上が紹介してよ』
《そこ拘りなさいよ》

『姉上を信頼してるの、それに私達の家系って自分達で選ぶ能力が低いかもって、アレを私は本気で信じてるの。だからお願いね姉上』
「私も」
《はいはい、次の夜会に集めておくわ》

『ありがとう姉上』
「流石ですお姉様」
《はいはいはい、絶対に文句は言わないでよね》
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